赤坂真二先生に聞く「学校での子どもの分断・教師の分断を防ぐには?」

「社会の分断」はどのような経緯で生じ、なぜ学校は分断を放置してはいけないのだろうか。学校で起きている分断に以前から注目してきた上越教育大学の赤坂真二教授に聞いた。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

プロフィール
赤坂真二(あかさか・しんじ)
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書)など著書多数。
目次
分断の背景を考える
現在、学校における分断の中で、私が注目しているのは、①子どもと子どもの分断とともに ②教師と教師の分断(職員室の分断)です。これらの分断は以前からあったと思われますがコロナ禍によって、より顕在化しているように感じています。
まず、①子どもと子どもの分断について考えてみます。そもそも「社会的分断」と貧困問題は切っても切れない関係にあり、学校で起きている子どもと子どもの分断にも、貧困問題が深く関わっていると考えています。この問題を理解するためには、社会的分断が生じた背景に目を向ける必要があります。
子ども同士の分断の問題の前提は、1990年代くらいから子どもたちの友情関係が変質していったことです。2000年代になると友人関係がつらくなり、友人関係を忌避する子どもたちが増えてきました。この頃の教師たちは子どもたちがつながりにくいと感じていたと思います。そこに拍車をかけたのが貧困の問題です。
子どもの貧困の問題は、根底に1970年代から国民の間に広がった「一億総中流」の意識の影響があるとの指摘があります。それ以降、約20年間にわたって国民の大多数が、自分を中流階級に属する人間だと思って暮らしてきたわけですが、実は1980年代から子どもの貧困問題は指摘されていました。それにもかかわらず、一億総中流という幻想にあぐらをかき、この国は貧困問題に対して改善策を講じてこなかったといえます。
貧困問題は個々の子どもに複合的な問題を引き起こしてきました。貧困状態の子どもたちは、物を買ってもらうことができず、情報も得られなくなりますので、物的・文化的な剝奪が起きます。様々な機会を奪われ、社会的剝奪を受けます。それにより、自信がなくなり、自己肯定感が下がります。それがネガティブな自己イメージにつながり、意欲や希望が失われていくのです。当然、学力が下がります。友だちをつくろうとするモチベーションも下がりますのでつながりが失われ、社会的分断が起きます。無気力になり、生きる意味を見失い、最終的に人間としての尊厳を失います。尊厳を失うと、自分を大切にしようという気にはなりませんから、お金のためなら何でもする、という発想になっていきます。子どもの貧困問題を放置することは、人間の尊厳に関わる大問題につながるのです。
友人関係の変質の問題と貧困の問題はどちらが先とはいえませんが、両方が影響し合って、学校における子どもたちのコミュニティに負の影響をもたらしたといえるでしょう。
学校は、教室における社会的分断の問題に積極的に手を打ってきたでしょうか。それでもコロナ禍以前は、学校には、人と人がつながる場であるという、社会的な存在意義があったのですが、それもコロナ禍で一変します。学校ではソーシャルディスタンス、マスク指導を徹底するようになり、グループ活動・学校行事・部活動の縮減、黙食など、子どもたちがまとまり協力する活動が剝奪されました。学校の強みである「つながる」という部分を、手放さざるを得なかったのです。
その結果、今、子どもたちは誰ともつながれずバラバラになり「学校に行けば、自分は守られる、仲間がいる」と感じられなくなっています。「つながる」ことは貧困状態にある子どもだけではなく、すべての子どもにとって大事なことです。だからこそ、学校は子どもと子どもをつなげることに積極的に取り組む必要があります。
つながり不足とJK産業
また、経済的困窮は保護者を圧迫し、保護者と子どものつながりを奪います。ひとり親家庭の保護者が、生活を維持するために長時間働くことになれば、親子で過ごす時間がとれなくなります。それにより、子どもは親に甘えたり、親から褒められたり認められたり、といった経験が不足し、そのことが愛着の貧困につながります。家族で団らんの時間を過ごす、朝ごはんの準備を整えてもらうなど、学校生活を送るためのケアを保護者から受けられなくなると、子どもの学校生活への意欲が低下します。家で放っておかれ、学校でも孤立し、本当に居場所がなくなっていくのです。その結果、人とのつながりを外の世界で求める子どもたちが出てきます。
このことがJK産業の問題へとつながっていくことが指摘されています。JK産業とは、女子高校生であることを売りにして、密に接するサービス等を行う商売のことです。今、家庭に居場所がなく、社会的つながりを持たず、精神的に不安定になりがちな女子高校生たちがJK産業へ入り込んでいます。
それに加え、最近の動きとしては、生活が安定していて、親もいて、それなりに友だちもいる女子高校生がJK産業に足を踏み入れているそうです。それはなぜかというと個人化し、人とのつながりが断ち切られているために、「やめなよ」「近づかないほうがいい」などと言ってくれる友人や大人が、周りにいないからでしょう。そして、つながりを失った女子高校生たちに、裏社会とつながるJK産業の大人たちが、甘い言葉で近づきます。家族以上に優しく面倒を見てくれるそうです。そのため、店のスタッフと恋愛関係になったりしながら、搾取され続けるのです。
このような事態を防ぐためにも、学校は子どもと子どものつながりを育てていく必要があります。家族による十分なケアが期待できないときに、学校は人間関係をつくる場となり、子どもたちをつなぎとめる最も有力な存在になることができます。