公園で自由の獲得とルールの気づきを体感させる【あたらしい学校を創造する #41】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、4月の学校生活の中でも最も神経を使ったという「自由の時間」についてのお話です。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

最低限のルールを決めて子供たちをフィールドに放つ

ヒロック初等部での4月の授業についての話の続きです。今回は4月の学校生活の中でも最も神経を使った、「自由」の話です。

ヒロックでは毎日、「自由」という時間を設定しています。とくに金曜日の「自由」は他の曜日と異なり、午前9時30分から正午までという長時間になります。初めての金曜日に僕が何をしたかというと、近くにある広大な砧公園に子供たちを連れていき、そこで「2時間あげるから、迷子になってみよう」と言って“解き放った”のです。

もちろん最低限のルールはあります。

  • 公園の外の大きな道路に出ないこと
  • 困ったことが起きたら、事前に渡しておいた、緊急連絡先として僕の携帯番号を記してある公園の地図を大人に見せて助けてもらうこと
  • 正午に集合場所に戻ってくること

の3つです。

「一人で行動したい、でも怖い」という子が出てくる可能性を考え、GPSも用意しておきました。しかし当日、「どうしても一人では心配だという人はGPSがあるから、それを持って行ってもいいよ」と子供たちに言っても、誰もそれを手にしませんでした。

子供たちはパッと一斉に散っていきました。初めての経験にもかかわらず、その日、みんなは思い思いにプチ迷子になって、そして昼の12時にちゃんと集合場所に戻ってきました。戻れば、みんなでお弁当を食べるという昼食の時間が待っています。午前の実施にしたのは、たとえ子供が集合時間を忘れて遊びに夢中になったとしても、お腹がすいたら時間に気づくだろうと考えたからです。腹時計は天然のリマインダーです。

なぜこんな授業をしたのかと思われるかもしれません。事実、同僚の五木田さんや堺谷さんですら「そんな授業をするのか」と驚いていましたが、僕はこういった「危険と隣り合わせのスリルに、自ら選んで挑戦する」という体験を持つことが、子供には大切だと考えているんです。

言い換えれば、自分の限界を知るということです。実際に勇気を出してやってみたら大丈夫だったという実感、あるいは自分が困ったときに、こうやって切り抜けたという経験を得ることです。

「自由」の体験を通して自分でルールに気づく子供

これは別の「自由」のときの話ですが、集合時間を10分過ぎても戻って来なかった子供たちがいました。迎えに行くと、その子たちは「どうして迎えに来なかったの?」という反応を示しました。僕は注意せず、理由を聞いてみました。すると、その子はヒロック幼児部出身の子だったのですが、幼児部にいたときの「シェルパ(ヒマラヤ登山のガイドを意味する言葉からとった、ヒロックでの教師の呼び名)の目の届く範囲で遊ぶ」「時間になったらシェルパが呼びに来る」というルールに則って動いていたということがわかりました。その子は今までの経験と論理をもとに自分で考えて行動していたんですね。こちらの感覚で注意しなくてよかったです。

それを聞いて、僕はこう話しました。「目の届かない範囲まで行けるということは、それだけ自由を獲得するっていうことになるから、楽しかったでしょ? だけど、幼児部のときと比べるとクラスの人数規模が多いから、全員を迎えに行くとなると時間がかかる。結果、遠くまで行かせられなくなっちゃうんだよね」と説明しました。するとその子はそれ以後、自分の時計を持つようになり、今では「ミノさん、もうすぐ時間だよ」と教えてくれるような、完璧に時間を守る子に変身しました。

叱られてルールを守るとか、失敗しないようにルールを細かく規定して縛るというやり方よりも、自分で気づくほうが断然いい。僕はいつも子供たちに、「失敗することが成長への近道だ」と語っています。 ヒロックで採用している自由進度学習では「85%の達成と、15%の失敗」があるような学びになることがよいと話しています。挑戦することには勇気が求められますが、挑戦に失敗することもまた、成長にとって重要なスパイスになるのです。

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校したオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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