小学校理科の「問題」づくりとは? 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#5
子ども主体で問題解決をさせたければ「問題づくり」がとても大切になります。それに必要な授業の導入はどのようにされていますか? 子どもたちに「あれ?」「どうしてかな?」「やってみたい!」という気持ちをもたせるような工夫をされていますか? 子どもが自分事として主体的に学習に取り組む(問題解決する)には、授業の最初にいかに「やる気をもたせるか」が大切になります。簡単にできることではありませんが、小学校理科において、「問題づくり」がどれだけ大切で、どのようにしたらよいのかについて考えてみましょう。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.「問題づくり」の考え方が変わった
理科の授業では、「子ども自身が『問題解決』できること」を求めて、それに必要な力を育成します。昔も今も、その考え方は変わらないのですが、平成29年版の学習指導要領から新しく、「子ども自身が問題を見いだして表現できたかどうか」が評価の観点となりました。教科書に書いてある問題「~は、〇〇なのだろうか?」を子ども自身から引き出すということです。このことは、先生が授業の導入で子どもに問題を考えさせずに「今日の問題は〇〇です」とか、「教科書の問題を一緒に読んでみましょう」みたいに先生が誘導してはいけない(先生が問題を言ってしまわない)ことを意味します。
私たちが受けていたこれまでの理科の授業では、「子ども自身が問題を見いだして表現できたかどうか」は評価の観点ではなかったことから、問題づくりで、子どもにしっかりと考えさせる先生もいれば、(一人一人が問題を見いだしたかどうかを見取ることなく)一部の子どもの意見を引き出し「学級の問題」として授業を進める先生、子どもに聞くことなく「今日の問題〇〇について授業をしましょう」と進める先生と、様々なレベルで授業の導入がなされていました。
これからは、「子ども自身で問題が見いだせたか」が評価の観点になったことから、先生は子どもが問題を見いだしやすいように授業の導入をする必要があります。
また、これまでは、先生と学級のみんなで「学級の問題」を作りあげてきました。しかしこれからは、子ども一人一人が問題を見いだせたかどうか評価するために、まずは個人でノートに問題を書く手続きが必要になります。最初から学級全体で問題づくりをすると、個人で考えたことなのか、人の意見を聞いてまねたのかわからないからです。
つまり、(導入)→「①個人で問題を書く(評価のため)」→(個人の問題を学級で発表し共有)→「②学級の問題をつくる(学級で進める問題を確認するため)」という、2段階で問題づくりが必要になりますね。
2.「問題づくり」はとても大切
問題づくりはとても大切です。それも、「自分自身で」問題をつくることが大切です。問題解決は、問題の見いだしから解決まで一連の解決過程を子ども自身ができるようにしたいわけです。最後まで自分の力で解決をするには、そこに「意欲」が必要になります。人に言われた問題で解決したいと思いますか? もしかしたら活動的な子どもの姿があったとしても、「先生が言っているから、言われた通りに学習に取り組んでいるだけ」かもしれません。
やはり、自分自身から「どうしてかな?」「調べてみたいな」と思うことこそ、積極的に調べたい気持ちが出ます。そのため、「自分自身で」問題をつくることが大切なのです。授業の導入では、学級の子どもみんながやる気を出せるような授業展開や教材提示、話術が必要になるため、日々研究が必要になります。
3.小学校理科の「問題」づくりとは?
問題… 子どもが問題を作るために、言葉を整理しておきましょう。理科の時間に子どもから出てきた調べたいこと、調べられることを「問題」とします。先生としては教科書に載っている「問題」に近いことを引き出すために授業の導入をすることになりますが、実際は子ども自身に問題を見いださせると、様々な問題は出ます。
気づき、疑問… 授業の導入では、自然の事物・現象との出合いがあります。ここで、子どもはたくさんの「気づき」をもつことになります。たくさんの気づきをもつようになると、自然の事物・現象をしっかり見ることになりますから、「疑問」もたくさん出てきます。ここでの「疑問」は「問題」と異なり、理科の時間に追究しないことでもOKです。例えば、雲の観察をしていて「空はどうして青いのか?」子どもにとっては疑問です。ただ理科の授業で追究するものではない(授業の文脈と違う・自分自身で調べられない)ので、「問題」にはならないのです。このように、問題は疑問の中でも「理科で追究するもの」を指し、それ以外の子ども自身が調べたい、疑問に思っていることを「疑問」。疑問を出すためにたくさんの「気づき」が必要ということになります。
さて、改めて「問題をつくる」ということを考えてみましょう。
先ほど、「問題」は疑問の中でも「理科で追究するもの」と言いました。つまり、「子ども自身が疑問に思わなければ問題はできない」ということになります。
そこで小学校理科の問題づくりでは、子ども自身が疑問に思うように「比較する」こと、「ズレを感じる」ことを大切にして授業をします。比較すると言っても、いくつかのパターンがありますので見てみましょう。
【目の前のものを同時比較する】
例えば、2つの物があり、それぞれに磁石を近づけたとします。片方は磁石に付きましたが、もう片方は付きません。この事象に触れたとき、どうして磁石に付く物と付かない物があるのか(付き方の違いに気づく)→「磁石に付く物、付かない物はどのような物があるのだろうか」等の問題を導くことができます。
【時間の前後で比較する】
例えば、3日前のモンシロチョウの幼虫の様子と、今の幼虫の様子を比べてみました。すると、以前より大きくなっていることに気づきます(大きさの違いに気づく)。この事象に触れたとき、「この先どれくらい大きくなるのだろうか」「チョウまでどのように大きくなるのかな」等の問題を導くことができます。
【自分のこれまでの経験と比較する】
例えば、ろうそくの火を蓋をして閉じたびんの中で燃え続けるか調べる授業で、閉じている入れ物の中のろうそくの火はすぐに消える事象と出合います。この時、日常経験での「ろうそくの火は普通は燃え続けている」ことを思い出し、その経験と目の前の事象との違いに気づきます(火のつく時間の違いに気づく)。
この違いに気づいたとき、「ろうそくが燃え続けるためにはどうしたらいいのか」等の問題を導くことができます。
このように、問題を見いだすには「比較すること」が必要であり、授業の導入で何をどのように比較させればよいのか意識したいものです。
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。