【木村泰子の「学びは楽しい」#3】「子どもが主語の授業」をつくるために
雑誌「教育技術」の人気連載「学びは楽しい」が、2022年度よりウェブ版としてリニューアル、再スタートしました! 映画「みんなの学校」の舞台、大空小学校の初代校長、木村泰子先生が、全ての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスします。今回は、「子どもが主語の授業」のつくり方についてのお話です。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
かけがえのない言葉に感謝
Webでの双方向の学びの楽しさを早々に味わっています。読者の方からの声を紹介します。退職された教員の方からです。
「対話のプラットフォームをつくり外の世界から『みんなの学校』をつくるためにできること、思いつくことをあれこれやっています。いろんな方との対話から学ぶたびに、世界が広がって楽しくて一生やめられません」
この言葉は「はじめての先生」たちへのエールですね。
また、大学の先生からは「学生の能力をいかに生かすか、カリキュラムの策定段階から学生参加を促しています」との言葉をいただきました。これは、小学校での学びに通じるところを示唆していただいています。学校の教育目標やカリキュラムの編成など、小学校から子どもたちが参画してつくっていくことができたら、大学生になればそれは当たり前の学びになっているはずです。このコーナーを多様な方々に共有していただいていることで、何より持続可能な学びの楽しさを問い続ける場にできそうでうれしいです。
子どもが主語の授業をしたい
そんな中で4年目の現場の先生から「子どもが主語の授業をしたい。具体的にどんな授業をされていたのか知りたい」との声をいただきました。「主体的・対話的で深い学びを」や「子どもを主語に」などの言葉は学校現場に定着してきたようですが、実際に毎日子どもと向き合って、毎時間の授業をどうすればいいのか悩んでいる先生たちが多くおられます。
大空小での9年間は、研究テーマが変わりませんでした。「子どもが学ぶ・子ども同士が学び合う授業をつくる」……このテーマをみんなで合意形成して授業に向かうのですが、なかなか「できた」という実感をもてず、次年度も継続しようと、結局9年間、問い続けました。
ある時、「いつになったら、これでいいと思えるんやろう……」と、職員室でつぶやいてしまった私に、同僚が「校長先生、これでいいと思った瞬間に、大空小は崩壊しますよ!」と言ってくれました。今考えると、この同僚の言葉はすごいですよね。学校づくりの根幹です。毎年、時代は動き、子どもは変わります。9年間、職員室のみんなで問い続けたことが進化と継続につながっていたのです。
自分の授業はこれでいいと思った瞬間に子どもが見えなくなります。うまくできないから人とつながる必要性に気付くのです。子どもたちにとっては、先生同士がつながっていることが、何よりもの安心できる環境となっていたようです。
何を教えますか?
子どもが主語の授業をつくるためには、子どもに任せて何もしないことがよいのでしょうか。それなら教員の存在価値はなくなりますよね。
私は1970年代から子どもが主語の授業にチャレンジし続けてきました。当時は正解をどれだけインプットさせ、ペーパーに正確にアウトプットさせるかが教員の指導力だと言われていた時代でした。そんな中で、新任の私が勝手なことをするなとベテランの先生たちから幾度も叱られましたが、そういう授業しかできなかったので、変えようがなかったのです。
教育実習での学び
中学校の体育の教員になることしか考えていなかった私にとって、小学校教員は想定外のスタートでした。免許を取るためにだけ小学校の教育実習に行った私は、学ぶ姿勢はゼロでした。指導教諭はすべてお見通しで何一つ教えてくださいませんでした。
私は、教室に自分の居場所をつくるために、毎日大学ノートに授業記録を取り続けたのです。教育実習のこのノートが私のすべてで、指導教諭の授業を真似することしかできなかったのです。
当時、この先生は「教育の神様」と言われていたと後になって聞いたことを、今も覚えています。先生の発問や指示はほとんどない授業です。ところが、子どもたちは誰もが主体的に動いて学び合うのです。体育の研究ばかりしていた私は、この小学校の授業が初めての経験で、これを当たり前の授業としてインプットしました。しかし、授業記録の通りに授業をするのですが、目の前の子どもの事実は、同じ結果につながらないのです。同じことをしているのに何が違うのだろうと問い続けました。
「学び方」を教える
学び方を教えられていない子どもたちは、「さあ、自分たちで学びなさい」と突き放されても何を学んでいいのかが分からないで困ってしまうわけです。子どもが何をどのように学びたいかについて、子ども自身が自律的に問いをもてる関わりをどうつくっていけるかに、私はチャレンジしていきました。
ここまで読んでくださったみなさんは、脳がモヤモヤして、より分からなくなっていらっしゃるのではないかと想像します。まずは、難しいことを考える前に、授業の中で自分はどんな言葉を発しているかを問い直すところから始めませんか。指示・命令が多ければ、「問いかけ」に変えてみるのです。まずはここからです。必ず、子どもの事実が変わっていきます。
「先生のおかげで分かるようになりました」と言われる先生にならないように、問い続けてください。
・自分の授業はこれでいいと思った瞬間に、子どもは見えなくなる。問い続けることが進化と継続につながっていく。
・「子どもが主語の授業」をつくるために、まずは授業の中で自分はどんな言葉を発しているかを問い直すところから始めてみよう。
きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。
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