信じて見守る――崩壊学級再生の道【6年3組学級経営物語 番外編2】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」
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通称「トライだ先生」こと、渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は番外編の第2回。

転任したばかりで困難な公開授業に挑む大河内巌先生を、見守り続ける西華小旧4年担任チーム。学級崩壊や問題行動などで荒れる学校の話合い活動に、大河内先生はどう取り組むのか。 …そして公開授業を行った理由とは。大河内先生が貫く「教師の生き方」が渡来先生たちの心を再び揺らす。『学級経営物語』本当のファイナルにレッツトライだ!

文/元大阪市小学校校長・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

番外編②「教師の生き方」にレッツトライだ!

<登場人物>

渡来先生

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職4年目の2年2組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。


ゆめ先生(葵ゆめ/あおいゆめ)
教職6年目。転勤先では3年主任として活躍。最初は学級経営に悩んだが、大河内先生たちに励まされ、中堅教師として成長。2年後輩のトライ先生を励ましつつも一歩リード。


イワオジ先生(大河内巌/おおこうちいわお)
教職20余年の経験豊富な教師。一見いかついが、 温かく見守り的確なアドバイスをしてくれる頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。転任して荒れた6年生の担任となる。


大和川くん(大和川強/やまとがわつよし)
小学生時代、イワオジのクラスで学び、イワオジに憧れて教師をめざすように。ルックスがイワオジに似ていることから、クラスメートから「小イワオジ」と呼ばれていた。昨年度、教員採用試験に合格し、晴れて憧れの新採教師になる。

これが大河内学級だ

6時間目直前、神畑小学校6年1組に着いた渡来先生たちは不思議な感覚に囚われました。教室掲示や黒板等が普通すぎ、公開授業らしくありません。

「参観者はたった3~4人、公開なのに少なすぎる…」

機嫌が悪い大和川先生に黙って頷き、改めて教室を眺める渡来先生。『学級集会をしよう』と丁寧に議題を書く子ども。傍らで打ち合わせをする司会グループ。少し離れた場所で、その様子を真剣に見守る大河内先生。黙礼し、参観者の横に並ぶ渡来先生たち。直ぐにチャイムが鳴り、6年生が教室に戻ってきました。廊下の騒がしさに影響されず、静かに座っていきます。

司会の合図で、話合いが始まりました。行儀よくはないですが、提案理由の説明と質問が自主的に行われていきます。しかし高学年には初歩的すぎ、早くも興味を無くす参観者たち。教室の外からは、騒ぎ声や叱りつける怒声が時折聞こえます。大河内先生が発言を求めました。

「誰もが楽しく充実した学級を望んでいる。それは自分たちでつくるものだ。だが去年は、学級崩壊で話し合いが出来なかった。学級会の経験も乏しかった。漸く自分たちで取り組めるようになったな…。今日の学級集会の話合いは、何かあれば助ける。しかし主役は君たちだぞ!」・・・ポイント1

その言葉に頷く子どもたちに、渡来先生たちは絆の強さを感じました。

ポイント1 【学級会の支援・援助】
学級会は遊びの相談。だから省いていい―そんな間違いがまだ横行する学校現場。全員で楽しく遊ぶ工夫を自主的に進めることには大きな教育的価値があり、それ自体が「学習活動」です。そのことに教師自身が気づき、目的達成のため適切なコメントや支援方法を工夫していく―それが「生きる力の育成」や「主体的で対話的で深い学び」の土台をつくるのです。心して取り組みましょう。

舞い上がれ、大空に…

「だから…、ドッジボールでいいじゃないか!」
「でも男子のボールは速いから怖い。それに…」

興奮する男子に引かない女子、教室に漂う険悪な雰囲気。体育館での学級活動を決める話合いの途中、感情をぶつけあう場面が何度かありました。喧嘩の様なやりとりに、ハラハラする渡来先生たち。しかし大河内先生は、じっと見守るだけです。

『空を飛ぼうとする雛、それを見守る親鳥だ…』

子どもたちを信じ、見守る―大河内流の指導法を知る渡来先生たちには、直ぐ分かりました。

そして、2年生に少し構い過ぎた自分を反省。

しかし高学年にしてはレベルの低い乱暴な言葉の応酬に、興味を失った参観者たち。とくに校内の先生方は参観に来ても、直ぐいなくなってしまいます。

「期待外れだな、この授業研究。ベテランなのに、こんな低レベルでは…」

小声で呟く参観者を、睨みつける大和川先生。

「レベルは問題ではない。あの子たちは真剣に話し合っている」

諫める渡来先生に、反省気味に話を始めます。

「小学校の頃に、私も経験したんです。こんな学級会…。レベルは低かったけど、みんな真剣だった。反発ばかりの悪ガキだった私も…。あの時も、大河内先生は信じて見守ってくれた。それが理解できない教師たちに腹が立って…」
「分かっている。その思いを討議会で語るんだ」

そう言うと、渡来先生は前に向き直りました。

激突、学級会!

しかし、激論はなかなか収束しません。ドッジボールはこうあるべきだ、と主張する体育会系の男子たち。対する女子を中心としたボール遊びが苦手な子どもたちからの反論。球技の得意そうな男子が、みんなを睨んで発言します。

「どうせまとまらない。やりたい人でドッジボールをして、その他は別の遊びを考えればいい」

教室に響く「賛成!」「多数決!」の声。司会グループが、困り顔で大河内先生の方を向きます。心臓をドキドキさせる渡来先生と、緊張した表情の大和川先生。司会を励ます大河内先生。自信を取り戻した司会が前を向いたその時…、思いつめた表情で別の男子が立ち上がりました。

「『どうせ、と簡単に諦めるな』と大河内先生に教わり、僕は頑張ってきた。折角、話合いができるまで仲良くなったのに簡単に諦めたくない…。今の僕たちなら、みんなが納得する工夫ができると思う。自分たちを信じて、もう少し考えてみよう。そしてみんなで楽しく遊ぼうよ!」・・・ポイント2

その発言に、ずっと沈黙していた女子が挙手。

「私も固いボールは苦手。だけど柔らかボールや風船なら、痛くも怖くもないわ。少し前に大河内先生にアドバイスしてもらって、試してみたことがあった。工夫すればみんなが楽しく参加できるし、もっといい学級を目指せると私も思う。だから提案します」

その発言に頷く女子たち。体育会系の男子たちも、腕組みをして考え込み出しました。

『これは既習事項の活用。自主的解決に必要な知識を、大河内先生は常に子どもたちに伝えていたんですね。創意工夫の基盤は既習事項の活用……と教わったことがあります』

感心したように呟く大和川先生に、満足そうに頷く渡来先生と葵先生。そして3人の先生は、熱い眼差しで話合いの続きを見守り続けました。

その後、遊び方を工夫する意見が主流を占めました。そして、「みんなで仲よく風船ドッジボール大会」が多数決をせずに決まったのでした。

ポイント2 【自主的活動の基盤】
子どもたちが自主的になる時には、嗜好や好奇心、必然性や目的意識等が必ず存在します。時には、学習に結びつかない場合や集団化しにくいものもあります。けれどそこを教師がキチンと把握し、前向きなエネルギーに変えていくよう適切に支援・援助することで自主的活動は活性化していきます。「学びに向かう力・人間性」の向上策は、その部分が大切だと私は考えています。

学級活動マインドとは…

放課後の研究討議会。参加者の少なさを気にもしない大河内先生。けれども、あまりに盛り上がらぬ研究討議に堪忍袋の緒を切る渡来先生。

「大事なのは、議題のユニークさや話合いのレベルじゃない。新任の頃、大河内先生に教えられました。よりよい学級を目指し、子どもたちが自主的、協力的に取り組むのが学級会。それを適切に支援・援助する教師の思いや願いが、学級活動マインドだ。その心を根本として学級経営に励め、と。今日はそれを思い出しました」・・・ポイント3

「昔、私の教師力が未熟なため、学級が荒れかけたことがありました。その時に大河内先生に指導していただいたことを、今日は再確認していました」

自己開示する葵先生。影響されたように立ち上がる大和川先生。神妙な顔で話を始めました。

「私は大河内先生の教え子です。でも小学校の頃は、学級崩壊を起こした側の問題児でした。ささくれだった私の心を諫めて、よりよい方向に導いてくれたのが大河内先生です。今日の話合いのように…。昔から変わりなく頑張ってこられたんです。その直向きな生き方に憧れて、私も教師になりました。へこたれる時もありますが、今日の話合いを見て勇気を貰いました。大河内先生、…本当にありがとうございました」

深々と礼をする大和川先生、頭を掻く大河内先生。深い感動が、討議会に満ちていきました。瞳を輝かせる神畑小の若手の先生の姿に、渡来先生は思わず新任の頃の自分を重ねていました。

ポイント3 【学級活動マインド】
学級会で最も大切なこと―それがポイント2の「自主的活動のエネルギー」。話し方や司会の仕方、折り合いの付け方や合理的な考え方、等々…。その様な指導は大切ですが、自主的活動への関心や意欲の向上が根本。子どもと教師の民主的で温かな関わりが、それらを支え育てていきます。つまり学級活動の考え方を基にした、よりよい個や集団の育成。私はそれを「学級活動マインド」と呼び、大切にしています。

教師の生き方とは…

「信じています。大河内先生の志が、神畑小を立ち直らせることを。昔の西華小のように…」

正門まで見送りに来た大河内先生に、思いを伝える渡来先生。崩壊学級再生への努力を敢えて公開し、教職員の奮起を促す…。子どもたちの幸せを願う変わらぬ思いに、敬意を表す渡来先生たち。

「素敵な学校になりますよ。…西華小のような」

感激で涙目の葵先生と言葉を詰まらせる大和川先生に、嬉しそうな大河内先生。秋の夕陽が輝きを失い始めた頃、別れを告げて校内に戻っていく大河内先生。厳つい背中に一礼し、3人で歩き始めます。名残り惜しそうな大和川先生。

「お茶でもどうですか。話し足りませんよ…」

少し考え、申し訳なさそうに応える渡来先生。

「…ごめん、今日は学校に戻るよ。授業研究について伝えると、神崎先生に約束しているんだ」

希望と不安に揺れる神崎先生。今日感じた教職人生の素晴らしさを、どうしても伝えたい…。その思いを告げると、2人は大きく頷きました。

「ちゃんとフォローしてあげてよ、渡来先輩!」
「勉強になりました、学級活動マインドの話!」

2人に微笑むと、ペダルを漕ぎ始めます。

『理想の教師を目指し、これからもトライだ!』

大切な仲間と確かめ合ったさらなる目標。その達成を目指し、渡来先生は力強く走り出していました。

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今回で、トライだ先生の「学級経営物語」の連載は終わりです。雑誌『小四教育技術』2017年4月号からスタートした連載小説。長い間、ご愛読いただきまして、ありがとうございました。

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