コンセプト共有のための動画をつくる【あたらしい学校を創造する #35】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、ヒロックの理念や方針を伝えるために制作した動画についてのお話しです。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

理念や方針を動画で伝えるメリット

僕らは開校前のおよそ半年間にわたって、毎月1回「入学者の集い」を開催してきました。これは僕らシェルパ(ヒマラヤ登山のガイドを意味する言葉からとった、ヒロックでの教師の呼び名)と子供たちが関係を深める場ですが、フィードバックの場として「オンライン保護者会」も行ってきました。こちらは保護者と、ヒロック初等部が目指す方向性を擦り合わせるために行ってきたものです。

その中で「ヒロックの教育についてもっとわかりやすく伝えてほしい」という保護者からのフィードバックをいただきました。実は保護者の方の中には、この「みんなの教育技術」の連載をご覧になっている方もおられるのですが、教育関係者向けの内容ということもあって、難しいところがあるとのことでした。教育理念や教育方針にかかわることですから、順序立てて説明しなければなりません。「そもそも教育とは…」という固い話から始まるから、わかりにくさもつきまといます。

そこで、ヒロックの学びを伝える短い動画を作成することにしました。動画なら、きちんと順序立てた説明が可能ですし、何度も見返すことができるからです。

動画は、「ヒロック宣言を解説したもの」「カリキュラムを解説したもの」および、ヒロックのスタンスを示した「ラーニング・シェルパ講座」という、大きく3つのシリーズに分けました。動画1本の長さはだいたい5分前後。簡潔明瞭なものを目指し、大事なところを打ち出し、削るところは大胆に削ることを心がけました。

動画製作については、本格的にやるとかなりの時間と労力とコストをとられることがわかっていたので、「Canva」(キャンバ)というWeb上のデザインソフトでプレゼンテーション資料をつくり、プレゼンをそのまま録画するというシンプルな形にしました。ほぼ編集なしの一発撮りです。途中で多少言いよどむことがあってもOKと決めました。キャンバの「トーキングプレゼンテーション」モードで撮ると、プレゼン画面の左下に解説中の自分の顔が出るので、せいぜい録画前に髪を整えたくらいです。

参考までに、同じ手法で作成した「学びの研究所」の紹介動画を上げておきます。

今のところ、動画は保護者のみの限定公開にしていますが、ゆくゆくは「ヒロック学びの研究所」会員の方に向けても発信していこうと考えています。

「ヒロック学びの研究所」については、こちらの記事で詳しく紹介しています。→ 協力者とともに学びにつながる環境整備を考える【あたらしい学校を創造する 第34回】

教える側のコンセプト共有にも使える

動画は保護者だけでなく、シェルパ側のコンセプト共有にも役立てたいと考えています。今ちょうど外部連携の組織づくりを進めているところで、学校でいうところの時間講師の方々が決まってきました。例えば毎週月曜日には英語塾をやっていらっしゃる方に英語のレッスンを、隔週水曜日にはアート集団の方々にアートのレッスンをしていただく予定です。毎週金曜日には、私立学校で探究の授業を実践されている教員の方に、数学や探究のレッスンを担当していただける予定です。こうした講師の方々にも、僕が作った動画シリーズを見ていただいています。つまり動画は、研修教材としてヒロックのポリシーを共有することにも役立っているのです。

僕らは自分たちのスタンスを外部講師に前もって示すべきだと思うし、それに対して違和感やギャップがあれば話し合う土台にもなります。おそらく今後、たとえばアウトドアで活動する場合に、学びの研究所の方に手伝っていただくこともあるでしょう。僕らシェルパは、子供たちに対して過干渉にならないように気をつける方針で動きますが、何も示されなければ、干渉する方向で動いてしまう方もいるでしょう。そのときになって、「僕らのやり方と違う」と話をするのはフェアじゃない。何か事が起きてからではなく、事前に子供たちにはこうかかわっていきたいと伝えた上で、参加してもらうほうがいいと考えています。

以前、プレーパークを見学した話をしました。

他のオルタナティブスクールを見に行く【あたらしい学校を創造する 第32回】

そこでは、子供の遊びに対して親は一歩下がり、危険なことがあってもなるべく手を出さない、といった「プレーパークの心得」みたいなものが入園時に提示されているのを目にしました。そのあり方はとても参考になりました。単発で手伝ってくれる方がヒロックのスタンスを全て把握するのも大変ですから、「参加前にこの動画だけは見ておいてください」と伝えるなど、動画を活用することができると思っています。 保護者とのコミュニケーションツールとしても、ゲストや支援者にヒロックの学びを理解してもらうツールとしても、動画の効果は思った以上に大きいと思います。今後も随時作成して、ストックを増やしていきたいと考えています。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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