5年生の担任が決まったあなたへ。高学年担任で気を配りたいポイントを大紹介
この春から、5年生の担任を命じられたあなた! 心の準備はオッケーですか?
大先輩が教える10のポイントで、1年間の見通しをしてみませんか? 本コーナーは「楽しく教員を続けていく」 をモットーに長年教師生活を続け、後輩先生たちの信望もあつい山田隆弘(ようだたかひろ)先生、人呼んで「マスターヨーダ」の連載記事です。みなさんも、この居心地の良いカフェでひととき、マスターの話に耳を傾けてみてくださいね。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
5年生担任になったあなたへ
1年間の見通し&10の戦略!
校長先生より5年生担任を命じられたあなたは、どんな担任になればいいでしょうか。
最近全国的に小中一貫校が設立されています。
その中での学校の小集団として、「4−3−2」制、「5−4」制などが主となっています。
いちばん多く取り入れられている「4−3−2」制だと、小学校1年生から小学校4年生まで、小学校5年生から中学校1年生まで、中学校2年生から中学校3年生までという3つの区分として扱われます。
発達段階からして、この3つの区分が適切だととらえられることが多いですが、小学校5年生はこの第2段階に入る最初の時期です。
つまり、小学校4年生と5年生との違いは大きいというわけです。
違いのキーワードは、「抽象的思考」、「他者への理解」などでしょう。
まさに、人生の中での大きな変化をする年代です。
5年生になって初めて担任をもつ場合、最初の頃はけっこう児童から担任が試されます。
どこまで担任は許すのか、こう言えばどう返してくるのかなどなどでアクションを起こしてきます。
自分の指導基準や戦略をしっかりもち、余裕でうまく返してください。
そうすれば、いい児童、いい学級に成長していきます。
5年生は、大きな成長が期待できる学年で、担任としてやりがいのある学年です。
日々、一週間ごと、月ごと、学期ごとの指導の積み重ねは大切ですが、5年生では最高学年6年生の準備段階として1年間を見通した指導が必要です。
5年生という発達段階を踏まえた戦略を考えてみたいです。
【学習指導・生徒指導編】
1 学習内容の難しさに対応する
5年生で指導する内容をざっと見てみてください。教科書や指導参考書は厚くなり字が細かくなります。
児童もちょっと抵抗があるでしょう。4年生まで何となくできていたのが、5年生になってダメになっていくという事例が多いです。
それなりに対応していく必要があります。
担任としては、4年生のどんな学習が5年生につながり、そして6年生や中学校につながっていくのかを俯瞰する必要があります。
学校や学年の行事に時間をとられてしまいがちですが、5年生こそより深い教材研究が重要です。
一冊の教材研究用ノート、あるいはルーズリーフのノートシートでもいいですが、常に持ち歩き、細切れのスキマ時間を使って授業構想をしていきたいです。
2 考えさせる時間をとる
授業面で、より抽象的思考が要求され、それに応えるだけの発達をみる5年生です。
課題に向かっての思考時間を十分にとりたいです。
ひとりで、ペアで、トリオで、グループでといろいろな形態での思考時間を保証していきたいです。
授業面だけでなく、生徒指導面でも同じです。
問題行動を起こしてしまったとき、担任は場合によりますが、すぐ叱る指導をしてはいけないです。児童に考えさせます。
5年生ともなると、児童は担任が何を言いたいか察してきます。
児童を呼びます。
「何のことだと思う?」
「どう思っているの?」
「友だちの気持ちは?」
「これからどうしたいの?」
これでほぼ十分です。
素直になれない児童もいますが、けっこう響いています。
4年生までのようなストレートな望ましくない行動の指摘と叱責よりも、考えさせる時間をとることで自分の行動を見つめ直すことができます。
3 自分管理力をつけさせる
5年生ともなると習い事、学校の学習ややるべきこと、家庭での役割などがどんどん増えてきます。
大人だと、スケジュール帳やスマホなどで時間管理をしますが、なかなか児童はできず行き当たりばったりです。
ただ、本当に自分管理のスキルを教えてきたり体験させたりしてきたでしょうか。
確かにあしたの持ち物や時間割、宿題などのメモはとらせます。
それをいつやるかを見通しをつけさせる、そして終わったらチェックするなどのスキルを育ててきたかということですね。
なかなかそういった時間をとってこなかったのではないでしょうか。
うまく管理できている児童に実践発表をさせてもいいです。
担任が小学生だったらこうするという事例や方法を話してもいいと思います。
かつて、絶対忘れ物をしないという児童がいました。
ご家庭の指導がよかったのだと思いますが、
「寝る前にあした一日の学校生活を想像する」のだそうです。
自然に必要なもののチェックができます。
そして、かばんに必要なものを入れて寝る。
こういった習慣づけに至るには、かなり恵まれた条件が必要だと思いますが、1つの方法です。
4 通信文化を育てる
ここ1、2年で先進的な実践家がICTを用いた教室実践で担任からのメッセージや児童間交流をしている実践を発表しています。
これらの実践はwebサイトや書籍で公開されていますので、検索するとさまざまなアイデアを得ることができます。
それと合わせて昔ながらの方法、紙による通信文化も大切にしたいです。
ペーパーレスの時代と逆行するかもしれませんが、思考プロセスにおいては「紙が主、デジタルが従だ」とも言われます。
紙の文化も大切にしたいです。
ところで、学級通信は、なんのために書くのかという目的論はよく議論されるところですが、それは保護者向け、児童向け、あるいは管理職への報告などといったところでしょうか。
しかしながら、もう一つは自分のためということもあります。
学期末の評価時期に利用するために、授業づくりの記録や児童の発言記録などや児童のいい行動に関わるエピソードなどを通信に記載しておくのです。
どんな担任でも自分なりの方法で学期末評価のためのメモは残すでしょうから、それを通信化するということで一石二鳥です。
担任は学級、学年通信をどんどん利用し書いて記録に残し、振り返り、次に生かすという作業をしていくべきです。
同じように児童にも、係(会社)活動、委員会活動などでも通信(新聞)を発行してもらうのがいいです。
書くと思考が活性化できます。記録にもなります。
担任としては、点検の手間が増えてしまいますが、1年間を通して掲示も含めた児童の通信文化もぜひ育てたいです。
5 めあてが明確な授業にする
小中のどちらも経験した校長先生が、「小学校の授業はめあてがはっきりしないものが多い」ということを指摘した方がいました。
詳しく聞くと、中学校ではあえて、「めあて」形式の板書や掲示がなくても、授業の目的を明確に意識させているそうです。
小学校ではあいまいなことが多いということでした。
確かに、国語、算数、理科、社会はある程度「めあて」を書くことが多いですが、そのほかの教科はあまり意識しないで、活動を進めていく傾向があるのかもしれません。
5年生は、教科も増え、履修内容も増え、学びもより深化してきます。
1時間ごとのめあてをはっきりさせていきたいです。
例えば、体育の授業でも「今日の主発問」を示し、それが児童の動きをつくっていくものとすれば、主発問を「めあて」とすればいいのです。
各教科、各時間にこれだけは活動させたい、考えさせたい、あるいは力をつけたいというものを「めあて化」していけばいいでしょう。
1年間を通して、1時間ごとの「めあて」を意識化することで児童にはかなりの力がついていきます。
【メンタル編】
6 チャレンジさせる
学校の教育年間計画が示されますが、5年生が活躍する場にマーカーでラインを引いてみましょう。
6年生に次いで案外多いですよね。
特に後半部分は、卒業する6年生との関係でリーダーシップがどんどん出てきます。
5年生の1年間は、6年生のあとを追い、6年生のリーダーのもとでサブリーダー的な役割をする場が多いです。
学校によって内容は違いますが、ほぼ宿泊体験学習も入ってきます。
これは4年生までの時代とは違いますね。
この行事でいちだんと大きな飛躍ができます。
こういった機会を利用して、リーダーを育てていくことができます。
さまざまな学校行事や活動でサブリーダー的な役割を担います。
それぞれ5年生に用意された役割(ポジション)があります。
力量や気概などでタイミングが合わないこともありますが、できるだけそのポジションに立候補するように仕向けていきます。
役を選ぶとき、いろいろな選考方法がありますが、
ある担任は、「落ちてもいいじゃん。」「やっちゃえ。」「できなくても誰かが助けてくれる。」の3つのフレーズを言うそうです。
6年生だとリーダーとしての資質が問われることが多いですが、5年生はまだ許されます。
役で育てるという教育ができる学年です。
どんどん立候補させてみてください。
7 『モデル』として自信をつけさせる
5年生に児童に、担任として言い続けたいことは、
「あなたたちは常に見られている」
ということです。
見られるのは6年生は当たり前だとしても、5年生として高学年のお兄ちゃん、お姉ちゃんの行動は、小さい子たちにとってお手本です。
朝の登校時から下校まで、学校のルールに従って行動すること、品のいい所作をすること、あいさつができることなど常に注目の的です。
生徒指導上さまざまな指導がありますが、その際にこのモデル意識をもたせることで、かなり効果が出てきます。
そして、必ず評価をすることです。
「今日の○○の態度はよかったなあ。」
「さっきの△△さんのあいさつは今まで見てきた5年生の中でいちばんよかった。」
「このイベントの成功はみんなの力の結集だ。下級生も喜んでいたよ。」
というようなことを話していきます。
価値づけられ、勇気づけられ、認められ、それが自信につながります。
私は、かつて6年生で花開かせるために課題ばかりを抽出して話してきた時期がありました。
全体としてはあまりいい「育ち」はありませんでした。
担任として、児童個人や学級集団や学年集団を認めて賞賛していくと児童も下級生に対して認めて賞賛していくようになります。
それが行事やイベント後のあいさつのことばにも現れてきます。
1年間を見通してどこでいい姿が見られそうかを構想していきたいものです。
やれば認められる、やればできるんだという自信をつけさせることが大切です。
8 納得させる
4年生くらいまでは、何か指導されても、「そうなのかなあ」という感じで、「はあい」と聞いてます。
しかし、5年生以降の高学年ともなると、その指導方法や方向性について納得できなければ、やらなかったり、反発したりしてきます。
丁寧に話して根本から理解させていく必要があります。
児童は時間がかかっても納得すれば、きちんとやるものです。
何か問題行動があった時、ネチネチ昔のことまで持ち出して長々と叱っても効果がないです。
とにかくパッと叱ります。
短く叱る方が何倍もいいです。
5年生の担任として大切なのは、その後です。
その叱られたことに児童が納得いかない表情の時は、その後の指導が大切です。
「いまの気持ちを聞かせて?」
とアプローチしていきます。
必ず、その日のうちにアプローチは済ませておきたいです。
どうしても担任と児童との間に食い違いが起きることがあります。
その時は「アイメッセージ*」で、
「○○してくれるとうれしいんだけどな。」
これで十分です。
いつかわかってくれるはずです。
*アイメッセージ…話者である教師が「わたし」を主語にして児童の行動を促す手法。つまり、児童を主語に「あなた」がどうすべきかと言うのではなく、教師の願いや、児童の行動を教師がどう感じるかを表現します。 [指示する]、[命じる]、[叱る]ではなく、[感情を伝える]ことで相手の行動の変容が生まれます。反意語は「ユーメッセージ」。
9 男女差の意識を大切にする
5年生は身体的にも心理的にも男女の性差や思春期の発達が見られる時期です。
第二次性徴期の指導での留意点がさまざまあります。
からかいなどの対象になる児童も増えてきます。
担任は誠実に真剣に向き合っていかなければなりません。
性差のすばらしさ、生きることに直接つながること、お互いを大切に思うことなど1年間を通して指導すべきステージがたくさんあります。
特に、林間学校、海浜学校、宿泊体験学習など学校によっての設定は違うと思いますが、一泊を通した学習で得られる学びは大きいです。
行事をこなすという発想ではなく、事前事後を通して、何を学ばせるかを明確にしていき進めたいです。
男女での協働、男女別の生活などを通して、なぜ男女がいるのか、なぜ男女が違うのかを学ばせるいい機会になります。
10 助け合いの必要性を感じさせる
発達障がいのある児童は、ルールに基づいた行動をとりにくいです。
4年生までの適応指導があまり効果がなかった場合は、5年生では身体も大きくなり、より目立ってきます。
全体に指示しても、期待した行動をとることができない児童がいます。
4年生までだと、まわりの児童が我慢を余儀なくされ、だいぶストレスがたまりますが、5年生の時期は、「わたしはわたし、あの子はあの子」という相手を理解しようとする気持ちが大きくなっていきます。
「折り合い」をつけるようになってきます。
折り合う気持ちを適宜とらえて、待つ姿勢をもち、「みんなそれぞれ違うんだ」ということを常に語っていきたいです。
「助けてあげて」
「○○さんのために何ができるかな」
「そういう行動が素敵」
と常に声をかけていきたいです。
以上、5年生担任を拝命したとき、10の戦略を考えてみました。
全部でなくても、ぜひできるところから始めてみてください。
6年生へうまくつなぐために…。
こんな問題を抱えているよ、こんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!
その他にも、マスターヨーダに是非聞いてみたい質問やアドバイス、応援メッセージも大募集しています! マスターはすべての書き込みに目を通してますよ!
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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。
イラスト/したらみ