協力者とともに学びにつながる環境整備を考える【あたらしい学校を創造する #34】
先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。
今回は、支援者が集う「学びの研究所」と開校に向けた準備についてのお話です。
目次
支援者が集う「学びの研究所」という場
4月のヒロック初等部開校に向けて、すべきことは山ほどあります。具体的には、教室環境の整備などです。それと併行して、いよいよ「学びの研究所」がスタートしました。
「学びの研究所」って何? という読者もいると思うので、簡単に説明しましょう。昨年の夏にヒロック初等部ではクラウドファンディングを実施し、そこで支援してくださった120人くらいの方々を中心にバディクラブというものを結成しました。バディクラブは、開校後に「学びの研究所」に自動的に移行することを前提にして、学びというものを一緒に考えていこうという趣旨でつくったものです。年が変わり、まだ開校前ですが、入学予定者が確定したことを機に「学びの研究所」として活動していくことにしました。
そうは言っても大々的なものではなく、「学びの研究所」のホームページをつくってひっそりスタートしたという感じです。「学びの研究所」の構成員は今のところ、クラウドファンディングの支援者と入学予定児童の保護者が中心となります。今後は、「学びの研究所」のホームページを通じて、新しく参加したい方を徐々に募集をしていく予定です。ヒロックのホームページではなく、ヒロックのフェイスブックにリンクが貼ってありますので、関心のある方はご覧ください。
理想的な教室には何があったらいいか?
去る1月に、学びの研究所の定例会を開きました(バディクラブと同様に月1回開催しています)。今回の参加者は30人程度。学習環境をそろえるために机や椅子をどうするかという現実的な問題に直面していたこともあり、それを一般化して「理想の教室には何があったらいいか」をテーマに一緒に考えました。
参加者から「卓球台やボーカルルームがあるといい」という面白い意見が出ました。ボーカルルームというのは、ひとり用の防音の効いた部屋のことです。「どうして必要なの?」と聞くと、子供でも大きい声を出したいときや、我慢できないときがあるだろうと。それがあれば自由にストレス発散できるというんですね。理由はそれだけでなく「子供が防音壁に興味を持つ可能性がある」という意見もありました。たしかに、防音壁がボコボコの形状をしているのは音を乱反射させるようにするためということに注目すれば、音の性質についてのいい教材にもなります。
また、教室にコンポストを置くという意見もありました。食べたものが分解されていく容器のことです。学校教育では畑づくりや料理のような「つくる」活動は行うものの、「分解」についてはあまりやりません。コンポストを教室に置くことで、「コンポスト内で起こる分解現象は人体でも起きている」という話をすることができます。
いろいろとみなさんからアイディアをもらえてよかったと同時に、最終的に、大人側が教室環境を準備しすぎないことも重要だという話になりました。こちらが全部つくるのではなく、足らないものについては、たとえば子供たちが段ボールで椅子をつくるなど、自分たちに必要なものをつくっていくという余白が大事ではないかということです。
「学びの研究所」には、すでに公立校の教員が結構参加しています。小学校から高校まで合わせると総数の4分の1ほどを占めると思います。公立小学校の教員だけでも20人ほどいますから、小学校教員による分科会をすることも十分可能です。メンバーは、ヒロック初等部への物品提供に協力していただいたり、読書会で学び合ったりもします。そして今回のように、「理想の教室には何があったらいいか」といったテーマを設けて、「机や椅子が既定のこととされている公立校でできることは何か」「机や椅子があることの弊害」ということを話し合ったり、ひいては公教育でもできる理想の方法などについても話し合っていきたいと考えています。
〈続く〉
蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。
連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック
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第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
第17回「クラウドファンディングでお金と仲間を集める」
第18回「クラウドファンディングでモノと人を募る」
第19回「体育の授業目的と方法を再定義する」
第20回「道徳教育の目的と手法を再定義する」
第21回「入学希望者の選考を行う」
第22回「入学予定者の顔合わせを行う」
第23回「大人たちをつなぐ場所をつくる」
第24回「公教育とオルタナティブ教育の間をつなぐ」
第25回「入学希望者のニーズについて考察する」
第26回「集団登下校や送り迎えの便をはかる」
第27回「知識と学びのタイプを対応づける①」
第28回「知識と学びのタイプを対応づける②」
第29回「授業研究を通してコンセプトの理解を深める」
第30回「コンピテンシーとは何か?」
第31回「長期的な視野の必要性について」
第32回「他のオルタナティブスクールを見に行く」
第33回「公教育とオルタナティブスクールとの関係性を考える」
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK