孤独を感じがちなギフテッド子育て。保護者のサポートは、子供の周囲にいる大人が「共通指標」を持つことから始めよう!
2021年12月、単行本「ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法」の発刊を記念して、トークショーが紀伊國屋札幌本店で行われました。祖母や父親といった「母親以外の家族」の参加も多く、結果的に孤独を抱えがちなギフテッド子育ての課題を考える良い機会となりました。
定員をはるかに超えた参加者
「ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法」の執筆陣は、北海道大学の博士課程で、一緒にギフテッドを研究した先輩後輩です。札幌にご縁が深いということで、発刊記念トークショーは、紀伊國屋札幌本店で行われました。
本の発売に先駆けて著者インタビューが北海道新聞に掲載されたこともあり、定員をはるかに超えた参加者の方が集まり、急遽、予定していた倍の数の椅子を用意いただきました。
祖母や父親からの質問も
登壇したのは、北海道教育大学旭川校の片桐正敏教授と、ギフ寺住職ことギフテッド・LD発達援助センター主宰の小泉雅彦先生、そして司会は筆者が務めました。
ギフテッドの育ちや学校との関係について片桐先生と小泉先生にお話しいただいた後、会場からの質問を受け付けたところ、母親に交じって祖母や父親からの質問がありました。
祖母は「孫が、ギフテッドだと思う。今、状態が芳しくなく、親戚一同に、この本を配って、応援していきたい」と、父親からは「頭ではわかっているのだけれど、どうしても気持ちがついていかない。本を読んで勉強していきたい」という声が聞かれました。
孤立しがちなギフテッドの子育て
執筆陣からは、「祖母や父親に、本を通じて『ギフテッドは、配慮や支援が必要な子ども』というメッセージを伝わったことが、とても嬉しい」という意見が出ました。
なぜなら、ギフテッドの子育てでは、孤立を感じがちだからです。本を作るにあたり、「子育ての中で孤独を感じた経験は?」と、アンケートで尋ねました。まったく孤独感がない状態を1とし、強い孤独感を感じる状態までの5段階で評価をしてもらったところ、自身の孤独感が3以上と回答した人は全体の89%。しかも最も孤独感の強い5と答えた人が多数派となる結果でした。
家族間のすれ違いも深刻
こうした孤独感の原因は、「悩みを相談できる人が近くにいない」というだけでなく、家族間のすれ違いも深く関わっているようです。実際、家族の間で子どもの教育に対する見解が一致せず、なかなか協力関係を築けないという悩みを訴える人は少なくありません。
「不登校を受け入れるべきか」「特別支援を受けるべきか」といった具体的な選択をめぐって、家族の意見が割れることもよくあります。
実は、筆者も、息子に特別支援教育を受けさせることに関して、祖父母から強い反対を受けた経験があります。世代の違いもあったのでしょう。「支援学級」という言葉に、強い拒否反応がありました。「誰がうちの孫をそんなふうに言うんだ。怒鳴り込む」「そんなところに通わせたら、後から子どもに恨まれる」などと言われ、辛かったです。
そんな経験をしたからか、祖母自ら「本を買って、親戚一同に配る」という発言を聞いて、「ギフテッド」というキーワードは、世代を超える支援に繋がるのだと実感しました。
世代性というのは、ある意味、致し方ない部分があります。そこを無理強いすることなく、「ギフテッド」というキーワードを入れることで、祖父母世代にも受け取りやすい情報になることは、大きな発見でした。
「本」を家族の共通指標に
これからは共働きも増え、祖父母が育児に関わる機会が増えるかもしれません。また孤立しがちな母親をサポートするという意味では、できるだけ多くの家族に支援の輪に入ってもらうということは不可欠です。
その際、その子に関わる大人が共通認識を持っておくことは大切です。「この本に書いてある」と手渡すだけで、必要な情報を伝えることができる‥‥‥。編著者の片桐教授は、「本書が手から手へと繋ぐバトンとなり、そこから人間関係が広がるコミュニケーションツールになればと願っています」と、本の中で述べています。
是非とも、1人でも多くの人に、ギフテッドの配慮や支援についての精確な情報が届いてほしいと思います。
取材・文/楢戸ひかる(『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』構成担当)
登壇者プロフィール
小泉 雅彦(こいずみ まさひこ)
ギフテッド・LD発達援助センター主宰。ギフ寺住職。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位習得退学。専門は特別支援教育、認知心理学。
片桐 正敏(かたぎり まさとし)
北海道教育大学旭川校教授。2011年北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。専門は、臨床発達心理学、発達認知神経科学、特別支援教育。基礎的な研究と併行して、ギフテッドの相談支援活動も行っている。