「スタディ・ログ」とは?【知っておきたい教育用語】
教育の情報化・デジタル化の進展に伴い、学校現場でもICTを活用した学習が増えています。これからの教育現場では、学びの道筋や成果をデジタルデータとして管理し活用することにより、よりよい学びが実現できるようになると期待されています。
執筆/麗澤大学准教授・中園長新
目次
デジタル化された学びの記録
「スタディ・ログ」という言葉は直訳すれば「学びの記録」ですが、最近では特にデジタル化された学びの記録を指す言葉として使われることが多くなっています。教育の情報化・デジタル化が進展し、学習者の学びの道筋や成果の多くはコンピュータ上のデジタルデータとして管理されるようになってきました。そのような学びの記録を蓄積・活用する際に、スタディ・ログという言葉が使われています。スタディ・ログには、学習履歴や学習評価、学習到達度などの情報が含まれます。
これまでは、学習者の学習成果物を蓄積した「ポートフォリオ」が評価などに活用されてきました。最近は管理・活用にICTを使ったデジタル・ポートフォリオ(eポートフォリオ)の活用も進んでいます。
スタディ・ログには学習者がいつ、どのような学びを行い、どんな成果を得たかといった学びの履歴がデータとして蓄積されているので、ポートフォリオとしての活用も想定されます。学習成果物そのものだけでなく、その成果物を構成する学びのデータをスタディ・ログとして取得し、ポートフォリオに組み込むことによって、学習者の学びをより正確に評価したり、次のステップに向けて的確な支援を実現したりできるようになることが期待されます。
教育データ利活用の推進
文部科学省や経済産業省は、デジタルテクノロジーを活用した新しい教育・学びである「EdTech(エドテック:エデュケーションとテクノロジーを合わせた造語)」を推進しており、近年では「教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)」も話題になっています。デジタル・トランスフォーメーションとは、デジタル技術の進化によって人々の生活をよりよいものに変革させるという概念です。
GIGAスクール構想による1人1台端末の普及や、文部科学省によるCBT(コンピュータ・ベースド・テスティング:コンピュータを活用した試験方式)システム「MEXCBT(メクビット)」 の活用などを背景として、今後は学習者の学習履歴がデジタルデータとしてどんどん蓄積されるようになり、スタディ・ログなどの教育データを利活用していくことがますます重要になると考えられます。
2022年1月には、デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省が「教育データ利活用ロードマップ」を公開しました。このロードマップでは、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」の実現に向けた教育データ利活用のあり方を提示しています。例えば、PDS(パーソナル・データ・ストア:個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理するための仕組み)などを活用してスタディ・ログを蓄積し、学習者自身が学びを振り返ることができるようにするといった具体的な利活用の姿が示されています。
スタディ・ログの活用で実現できること
スタディ・ログは学びのデータであるため、学習指導での活用が特に期待されます。さらに、校務系データなどを含む教育データと合わせることにより、生徒指導などさまざまな分野でも活用できます。
文部科学省が2019年度に実施した実証研究「エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」では、スタディ・ログを含む教育データが活用できる場面として、次のような4分類が示されています。
- 学習指導の充実(個別最適化された学びの提供、データに基づく授業改善など)
- 生活指導の充実(データに基づく生徒指導の実現など)
- 保護者への情報提供(保護者への具体的情報の提供など)
- 学校経営の充実(学校全体の状況を多面的に把握するためのデータ活用など)
スタディ・ログ活用の注意点
ICTを活用した教育支援システムの多くは、学習者の学習履歴などを自動的に取得・蓄積する機能を備えています。そのため、教員あるいは学習者がスタディ・ログを取得すること自体は、システムさえ導入してしまえばさほど難しいことではありません。しかし、そのデータを適切に活用するためにはいくつかの注意が必要です。
まず、スタディ・ログとして得られたデータをそのまま受け取るだけではなく、適切に解釈して活用することです。スタディ・ログは一般に、学習時間や正答数、評点などの数値を主としたデータとして取得・蓄積されますが、こうしたデータを学術的観点から分析し、意味あるデータとして活用することで、よりよい教育を目指す必要があります。そのための研究が、いろいろな分野でなされており、初等中等教育で活用できる手法も提案・開発されています。
また、スタディ・ログは学習者の成績などを含む個人的なデータを扱うため、セキュリティやプライバシーへの配慮も必要です。蓄積されたデータが漏洩したり不正利用されたりしないよう、適切な管理をすることが求められます。データ管理についてのルールやポリシー、ガイドラインなどを適切に定め、スタディ・ログにかかわる全ての関係者(学習者自身を含む)がそれを遵守する必要があります。
教育の情報化・デジタル化に伴ってスタディ・ログの蓄積スピードは加速し、今後はいわゆるビッグデータとして扱われるようになると予想されます。スタディ・ログを単なるデータとして蓄積するだけでなく、学習者の学びの向上のために適切に利活用していくことが重要です。
▼参考資料
浅野大介『教育DXで「未来の教室」をつくろう』学陽書房、2021年
佐藤昌宏『EdTechが変える教育の未来』インプレス、2018年
文部科学省(ウェブサイト)「エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」
文部科学省(ウェブサイト)「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について」
デジタル庁(ウェブサイト)「教育データ利活用ロードマップを策定しました」
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