入学希望者の選考を行う【あたらしい学校を創造する #21】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、入学希望者の選考についてのお話です。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

多様性の確保を重視

ヒロック初等部の初年度入学予定者が9月末に決まりました。今回は、その選考関連のお話をしたいと思います。

ヒロック初等部の入学対象者については「来年度に1、2年生になる子供に限定し、定員枠は12人」というのが、僕らが最初に想定していたことでした。それだけ集まってくれたらいいよね、と。ところが、蓋を開けてみると、応募者数は定員6人の4倍の24人を超えました。僕らの予想を大きく上回る数字でした。

応募枠に対して希望者多数となったので、選考を行うことになりました。選考といっても学力試験は一切せず、応募書類に書いていただいたことのほか、模擬クラスでの子供の行動観察と、親御さんとのオンライン面接によって判断することにしました。本当は子供たちのグループワークも実施したかったのですが、今年はコロナ禍ということもあり、残念ながら見送ることにしました。

入学選考にあたって僕らが何より優先したのは、多様性を確保することでした。男女のバランスもそうですが、元気があって枠にはまらないような子、おとなしくて控えめな子、勉強好きそうな子、勉強よりも遊び好きそうな子、今の学校で問題なくやれている子、不登校気味になっている子など、さまざまなタイプの子を満遍なくとることを重視しました。

保護者を対象にしたオンライン面接では、お子さんの様子とともに、子育てで大事にされていることなどの教育観を中心にお話をうかがいました。そして、ヒロックが果たして親御さんの期待に応えられるかどうか、話をうかがいながら考えました。

別に僕らの教育観が正解というわけでもないし、親御さんが僕らとまったく同じ教育観であればいいというわけでもない。むしろヒロックの教育観と違うところがあってもいいけれど、面接の中で「ヒロックじゃない、もっと違う選択肢のほうがよいだろう」と思ったときには、正直にお伝えしました。

例えば、英語の力を伸ばしたいのであればインターナショナルスクールという選択肢があるし、いい大学を目指すのであれば私立や国立がいいかもしれないし、一般的な安定した進学を求めるなら公立でもいいし、適応に不安があるなら特別支援学級という選択肢もある。

でも、子供のよさをどこまでも引き出したい、個性を伸ばしたいという方々であれば、ヒロックがいいだろう、と。遠方からの入学希望者には率直に、毎日の通学に耐えられるか不安であることも伝えました。

ヒロック_イメージ

入学を断るという決断の重さ

このような選考を経て、結果的に来年度の入学者は「新1〜3年生までの18人」となりました。教室の広さやスタッフ数といったヒロックのキャパシティを考えると、これが最大限です。

僕はこれまでずっと公立小学校に勤務していましたから、子供が入学してくるのは当たり前で、入学を断らなければいけないという事態に直面したことがありませんでした。僕らとしては合否の決定はとても辛い決断でしたが、それぞれのご家庭には選考理由をすべてお話しさせてもらった上で、選考結果をお伝えしました。そして、残念ながら入学してもらうことができないお子さんと親御さんには、それぞれにメッセージを書きました。せっかく入学を希望していただいたのも何かのご縁です。ヒロック以外の場所でも個性を発揮してほしいという、僕らの心からの思いがあります。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック

第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
第17回「クラウドファンディングでお金と仲間を集める」
第18回「クラウドファンディングでモノと人を募る」
第19回「体育の授業目的と方法を再定義する」
第20回「道徳教育の目的と手法を再定義する」

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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