子供を叱りすぎるのはよくないですか? 【現場教師を悩ますもの】
「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による連載です。教育現場の実状とともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。
目次
【今回の悩み】子供にきつい言い方をして自己嫌悪になる
授業中、指示を聞かない子供をつい強く叱ってしまいます。きつい言い方になってしまったと帰宅してから反省して、次からは子供に伝わるように発言しようと思うのですが、ついまた、きつい言葉をかけてしまいます。そんな自分が嫌で自己嫌悪に陥っています。
(小学校教諭・4年生担任・33歳、教職年数:11年)
勝ちパターンが「叱る」だけしかなかったら
今の子供たちは、叱ってばかりいては伸びません。しかし自分自身が「厳しく叱る・叱られる」ような環境で過ごしてきた先生の中には、そのパターンを教室の子供に対してもやってしまうことがあります。問題行動がある子供たちを叱り飛ばして、たまたまうまくいった成功体験があると、それを勝ちパターンとして繰り返してしまいます。
そのパターンを繰り返すうちに、やがて叱責は激しくなってきます。すると子供たちが追い詰められ、学級崩壊が起きる、保護者からクレームが来る、保護者会で一斉に責められる……などさまざまなトラブルが表面化してきます。その悪循環のなかで、先生自身がメンタルをやられて学校に来られなくなる、といった結果を招きかねません。
それは「叱ることで子供を押さえつける」という勝ちパターンしか持っていないのが原因です。そのために子供や保護者のさまざまな状況に応じてやり方を変えることができないのです。
学級経営の勝ちパターンは1つじゃない
今回ご相談の先生も、今気づいたのなら「勝ちパターン」は増やせます。そのためには学級経営の心理学を学んでみるのもよいでしょう。
例えば、さまざまな団体が主催する学習会などを利用して、学級経営の手法や心理学を勉強することができます。ちなみに私も理事を務める「NPO日本教育カウンセラー協会」でも、エンカウンター、「Q―U」(Questionnaire-Utilities楽しい学校生活を送るためのアンケート)を使ったアセスメントなど、学級経営に使える手法を学べます。
ここではその一例として、アドラー心理学の技法「勇気づけ」を紹介します。
「どうしてできないの!」と、できないことにイラついて子供を否定しても、できるようにはなりません。そうではなく、できたほうがいいことを伝え、そして子供たちに「あなたなら、できるよ」と信頼と期待の励ましを粘り強く行うのです。子供自身が「自分はできる子なんだ」と自己イメージをアップさせることが、できるようになる前提なのです。
学級全体の雰囲気づくりとしては、問題行動のある子供に着目せず、「できている子供」に着目しましょう。問題行動のある子供をきつく叱っても、何一ついいことはありません。それよりも、できている子供に着目して「よくできているね」「すごいね」と評価し、問題行動のある子供に「〇〇さんも、がんばろうね。あなたにもできるはずだから」とお手本を示しながら励ましていくのです。これが「勇気づけ」です。
問題行動に着目せず、できている子に着目しよう
問題行動に着目しない、勇気づけをする、これらは学級経営に活かせる心理学のテクニックの1つです。叱る以外にも、ほめる、話を聞く、イライラしている子供の気持ちをそらす……さまざまなテクニックがあり、他にもいろいろなやり方があります。ぜひご自分で学んでバリエーションを増やしていきましょう。
学級経営の心理的なアプローチやテクニックは、大学の教員養成課程でもなかなか学ぶ機会がないものです。教えられる人が少ないからです。現場に入ってから自ら学ぶしかありません。ご質問のような疑問を感じた今こそ、自分の学級経営の勝ちパターンを増やすチャンスだと思って、ぜひ研修会に足を運んで学んでみてください。
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/長尾康子