技能の免許制を導入する【あたらしい学校を創造する #12】
先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、技能に関する免許制の導入についてのお話しです。
目次
自らの成長を実感できる仕組み
これまで、ヒロック初等部で実践していきたいカリキュラムや授業の試みについて述べてきました。今回は、技能に関する免許制導入についてお話しします。
習得というとどうしても知識の習得に目を向けがちですが、技能を習得するという分野があることも忘れていけないところです。例えば理科では、マッチの擦り方やカセットコンロの火のつけ方がそうですし、技術・家庭科では包丁の使い方、図工では彫刻刀や電動ノコギリの使い方などがあります。
実はこれらの技能学習というのは、自由進度学習が適用しにくい学習です。そこで、ヒロック独自の取り組みとして、技能を免許制にすることを考えています。
何にせよ、免許を取得するというのは、大人でもうれしいものですよね。だから子供たちに対しても、火起こしができるとバッチがもらえるキャンプリーダーのような、自らの成長を喜びとともに実感できるような仕組みを導入することができないかと思っているんです。
例えば、何かものをつくりたいというとき、カッターひとつとっても、やはり刃物なので、これまで使ったことのない子が使う際には危険が伴います。そこで、カッターの使用を免許制にして、「カッターを使いたければ、カッターを使える免許をとってね」とするわけです。
僕らシェルパ(ヒマラヤ登山のガイドを意味する言葉からとった、ヒロックでの教師の呼び名)は、カッターの使い方を示す動画教材をつくります。そして、「カッターのここに指を置いて使う」とか「刃がなまってきたら折って使う」とかの基本的な知識を子供たちに教え、実際に子供がカッターを使う様子を僕らが見て確認した上で、カッターの使用許可を与えるというしくみを考えています。一種の技能検定試験のようなものです。
誰かのために役立つという動機づけ
以前、ヒロックでは学年制をとらないというお話をしました。異なる年齢の子供たちが一緒に学んでいきますが、学習の先々において何をしたいかによって、グループに分かれてプロジェクトを進めることもあるでしょう。そのとき、自分のグループには包丁の免許を持っている子がいないから、免許を持つ子に助けを求める、といった場面が出てくることを期待しているのです。
自分の身につけた技能が誰かの役に立つのだと知ることも、学びのひとつだと思います。最初は、火が怖いから火を使う免許をとろうとしなかった子が、友達が誰かの役に立っている姿を見るうちに、「自分も免許をとってみようかな」と挑戦するかもしれません。免許制が、技能の習得に対する子供のモチベーションになればと考えています。
理科を追求していけば、実験をやりたいという子が出てきます。実験をやりたいなら、薬品を使う必要が出てきます。そうしたら、薬品を扱う免許をとるために必要な知識を獲得しようとするでしょう。将来的には、例えば3Dプリンターを使いたいという子も現れるかもしれませんね。
逆に、免許制ということは、ペナルティとしての免許剥奪もありえます。インターネットを使うことも、ひとつの技能です。例えば、インターネットで調べ学習をしているときに、YouTubeを見たいという誘惑に負けずに使えるかどうか。もしその誘惑に負けてしまうようであれば、インターネットが使える免許を一時的に停止するということがあってもいい。免許を再び取得するために、自らの行いを修正しつつ再挑戦するというのも学びです。大切にしたいのは、「何度でもやり直せる」という仕組みです。
このような技能の免許制を採用すると、きっと子供の個性がいろいろと見えてくるでしょう。個性の見える化は、教師にとって必要である以上に、子供たちにとって必要で、大事なことだと思います。
例えば、自分たちがやりたいことを実現するには火を使わないといけないとすれば、チームの誰かが免許を取得するか、計画段階で火を使える免許を持っている子をチームに入れるか、ということになります。
「あなたは何ができるの?」
「私は火を扱えます」
「それなら、あなたはうちのチームに必要です。ぜひ入って!」
子供たちの中で、そんな会話が生まれることを期待しています。
次回は、ヒロックのカリキュラムの全体像の話をします。〈続く〉
蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。
連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック⇒
第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK