「オーセンティック・ラーニング」とは?【知っておきたい教育用語】

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世の中の急激な変化にともない、知識やスキルの新たな形成が求められています。そのためには、現実に起こっているいろいろな問題を解決する姿勢が必要です。そのような姿勢を身につける学びのあり方の1つが、「オーセンティック・ラーニング」です。

執筆/武蔵野大学准教授・小野健太郎

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「本物の学力」を評価するために

「オーセンティック」とは、「真正な」「本物の」という意味です。

教育における「オーセンティック」は、1980年代のアメリカにおいて、教育評価の分野で注目されるようになりました。当時、「オーセンティックな評価」を提唱したアメリカの教育学者ウィギンズは、教育評価とは「大人が仕事場や市民生活、個人的な生活の場で試されている、その文脈を模写すること」であると述べました。

要するに、私たちにとってなじみ深い、いわゆるペーパーテストによる学力評価は「本物の学力」を評価していないのではないか、という疑問から「オーセンティックな評価」という考え方が登場したのです。

例えば、「バスケットボール」の能力を評価する場面を考えてみます。ドリブルやパス、シュートといった個々のスキルがうまいからといって、本物の試合で上手にプレーできるとは限りません。本物の試合で活躍するには、刻一刻と変化する試合の状況のなかで、いかに適切にスキルを選択できるかといった判断力や、いっしょにプレーする仲間との協調性などが必要です。

ペーパーテストによる学力の評価は、ドリブルやパス、シュートのような個々のスキルを測定するのと同じです。これに対して、オーセンティックな評価は、本物の試合のなかでどのようなプレーをするのかを評価することです。

オーセンティック・ラーニングの2つのタイプ

教育評価論の分野で登場した「オーセンティック」という考え方ですが、現在ではより広く「学び」全体の面からも注目されています。

オーセンティックな「学び」とは、「具体的な本物の場面に即して学びをデザインすること」を意味しています。これが「オーセンティック・ラーニング」であり、教育内容や教材、学習方法も含めた「学び」の全体を本物にすることです。

では、「学びの全体が本物である」とはどのような学び方でしょうか。石井(2015)が提案する枠組みに基づいて、具体像を次の2つのタイプから捉えてみます。第1のタイプが「実用的場面でのオーセンティック・ラーニング」、第2のタイプが「学問的場面でのオーセンティック・ラーニング」です。それぞれについて、具体的な教科(算数)に基づいて考えてみます。

実用的場面でのオーセンティック・ラーニング

小学校3年生の「表とグラフ」の学びを例にします。

ある教科書では、何台かの乗用車、トラック、バスなどのイラストを示して、それを表や棒グラフに表す学習を取り上げています。単にイラストで示されたそれぞれの自動車の台数を表や棒グラフに表すという課題に取り組むならば、それはどのような学びになるでしょうか。速く正確に表や棒グラフをかくこと自体が自己目的化されてしまい、表や棒グラフから身の周りの事象を考察するような深い学びにつながりにくくなってしまいます。

「単に表や棒グラフを速く正確にかく」という目的は、学校などの限定された場面でしか起こりえません。つまり、オーセンティックな学びではありません。

それでは、「大人が実社会で、実用的に表や棒グラフを用いるような場面」ではどうでしょうか。例えば、警察官などが地域の交通量を調査し、それをグラフ化して、地域に交通安全を啓発するポスターをつくるような場面が考えられます。

このような実用的場面を小学校3年生の学びに置き換えるならば、例えば、子どもたちが学校の近くの交通量を実際に調査し、学校の仲間に登下校の安全を呼びかけるポスターづくりをする、というような学びが考えられます。

学問的場面のオーセンティック・ラーニング

一方、教科において、例えば、小学校6年生の「分数のわり算」を「大人が実用的に用いる場面」を想定して学ぶことは困難です。

これを別な観点から見直したものが、学問的場面でのオーセンティック・ラーニングです。算数ならば、まず親学問である数学を実際に研究する学問的な共同体をイメージし、その上で数学を実際に研究する人たちの目的を模写した学びを目指すことが、オーセンティック・ラーニングとして考えられるのです。

数学の研究者は、問題の解き方を教わり、それを練習するということは行いません。数学の問題を自ら発見し、仮説を立て、それを数学らしい見方・考え方を駆使して追究し、得られた証明を学問的共同体の相互レビューに託します。

この学問的場面を模写した「分数のわり算」の学びとはどのようなものになるでしょうか。教師から「分数のわり算は、除数を逆数にして、分子同士、分母同士を掛け合わせる」と教わり、その練習をするような学びではありません。なぜ「分数のわり算」は「除数を逆数にして、分子同士、分母同士を掛け合わせる」のかを問いとして、自ら考えたり、学級の仲間とともに検討したりしていくような学びです。これが、学問的な場面を模写したオーセンティック・ラーニングであるといえるでしょう。

「実用的/学問的」いずれの場面においても、オーセンティックに学ぶということは、上述のように深い理解をともなうものです。算数を例として取り上げましたが、総合的な学習の時間をはじめ、英語や社会でもオーセンティック・ラーニングはいろいろ考えられます。この学び方は、新しい学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」のあり方に直結しています。

▼参考文献
奈須正裕『「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館出版社、2017年
小野健太郎「オーセンティックにアレンジした教科書の学び」(奈須正裕編著『ポスト・コロナショックの授業づくり』東洋館出版社、2020年)
田中耕治編『よくわかる教育評価 第3版』ミネルヴァ書房、2021年
石井英真『今求められる学力と学びとは––コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影』日本標準、2015年

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