〈学校レポート〉「いじめのない学校づくり」に取り組む
「いじめのない学校づくり」を目標に掲げ、教員、児童、PTA、地域が一丸となって取り組み、着実に成果を上げている、神奈川県横浜市立白幡小学校。地域で子どもを育て、守っていくためには、どのような考えと取り組みが必要なのか、鈴木秀一校長、北原理絵PTA会長、藤川優・元PTA会長、横田竜一後援会会長にお話を聞きました。
目次
子どもが主体的に考え行動するいじめ防止プログラム
いじめ防止対策を講じる上で、その組織づくりは重要ポイントの一つ。白幡小学校では子どもたちによる活動が、その組織の一翼を担っています。
「我が校の特色ある取り組みの一つが、5年前にいじめをなくすために立ち上げた『サーチ委員会』です。安心な学校生活をテーマに、5・6年生の児童が活動しています。昨年度は、誰もが安心して学校生活を送ることができるように、学校に相談ポストを設置し、子どもたちがそこに日々の困りごとを投函する取り組みを行いました。毎年、年度の目標やテーマを設定し、いじめ防止を含めた安心な学校生活のための取り組みを、自主的に考え行動しています」(鈴木校長)
サーチ委員会で話し合われた内容が各クラスに落とし込まれ、いじめ防止について深く考える活動が行われます。
また、サーチ委員会に3・4年生が加わって、年2回行われるのが「白幡安心安全対策委員会」。ここにPTA役員も加わり、より精度の高い取り組みを構築していきます。
一般的に「いじめ防止対策委員会」は大人だけで組織されますが、いちばん現場に近い子ども主体で行うことで大人では把握できない情報をキャッチでき、未然防止につながっています。
「我が校では、子どもたちに主体性を持たせるアクティブ・ラーニングの授業を行っています。ですから、このサーチ委員会の活動も、子どもたちは日常のものとしてとらえていると思います。活動の中で、さまざまな意見が出ることもありますが、児童間で解決されていくことがほとんどです。1年生のときから、主体性を持つことをめざした授業を受けており、その学習で培われたスキルが、学級運営や学校運営をしていく中で生かされているのではないかと思います」(横田後援会会長)
カウンセラーでなく教師が個人面談し、問題の芽を早期に摘み取る
主体性を身につけ、いじめ防止対策をその身で実践している子どもたち。そして教師たちも、日々取り組みを欠かしません。
「年間計画に沿って取り組みますが、何か問題があれば教師は臨機応変に対応します。通常どこの学校でも行われている情報交換や児童支援委員会での支援会議などが基本ですが、その中で特徴的なものは、7月と12月に行う児童面談です。児童一人ひとりと面談を行い、日常では言えないようなことを教師に話してもらいます。その後、保護者とも個人面談し、問題があれば解決のための取り組みを行います。その面談の前には子どもに生活意識調査(アンケート)を実施します」(鈴木校長)
通常、子どもとの面談はスクールカウンセラーなど教師ではない職員が行いますが、白幡小では教師が行います。日々の見取りができる教師が行えば、いじめの芽を早期に摘み取ることも可能です。そして、面談も含め、教師たちは「傾聴・共感・受容」を基本とし、行動しています。そして、新年度のスタートである4月には、全職員が参加する職員研修会を開催しています。
「新年度の稼働初日に行っているのが職員研修会です。年間を通じて、子どもたちに共通して指導することを伝えます。安心・安全な学校生活のためにという理念のもとに行っており、その中にはいじめ・悩みの早期発見のための項目もあります。ここで共通認識を持っておくことで、問題に迅速に対応することができるようになります」(鈴木校長)
さらに、夏休みには講師を招いて人権研修も実施しており、いじめ防止のための職員の研修は最低でも年2回は行っています。
いじめ防止イベント「ピンクシャツデー」とは
同校では校内での取り組みだけでなく、外部との連携にも力を入れていて、いじめや人権に関する取り組みも、学校と地域の力の両輪で成り立っているといいます。
その連携の一環として行われたのが、今年2月13日に開催されたいじめ撲滅のためのイベント「ピンクシャツデー」です。ピンクシャツデーはカナダ発祥の催し。ピンクのシャツを着て登校した男子生徒がホモセクシュアルとからかわれ、いじめに発展。それを知った上級生たちがピンクのシャツや小物を身につけることによって、次第にいじめはなくなっていったということです。イベントを担当した北原PTA会長はこう話します。
「いじめにつながりかねない『差別や偏見』について、いま一度向き合ってもらうことが目的のイベントです。このイベントは『ピンクシャツデー2019 in 神奈川』の催しの一つとして開催されました。当日は多くの子どもたちがピンクのものを身につけて登校してくれました。そしてそのイベントに子どもたちが入り込みやすくするための仕掛けとして、横浜市を中心に活動しているアーティストの『N. U.(エヌユー)』さんに、キャンペーンソングを体育館で披露してもらいました」
アーティスト自らのいじめに関するエピソードも交えられ、メッセージ性が高いイベントとなりました。
「ただのイベントで終わらせたくない思いがあり、サーチ委員会の活動の総まとめとして、全児童が考えるきっかけとなるイベントにするということをポイントとしました。そして、子どもたちが今回のイベントで考えたことをアウトプットすることも必要だと感じました。そこでイベント後は、子どもたちがイベントを通じて気づいたことをしたためた手紙をN. U.さんにお渡ししました。そこには『歌の歌詞を通じて、いじめが卑怯なことだと気づけた』『いじめにつながるような振る舞いを目撃したら、無関心にならず、そこにかかわっていきたい』など、さまざまな気づきと意思が記されていました。手紙を書くことでいじめに対しての振り返りができていたと思います」(北原PTA会長)
肌色をテーマにした授業で「個性とは何か」を考える
昨年度、外部と連携して行われた取り組みには、企業とのコラボレーション授業もありました。元PTA会長である藤川氏が担当したのは資生堂との「肌色クレヨン」。
「資生堂に勤務していた頃、当時の経営者が政府の教育再生会議の委員を務めており、CSR(企業の社会的責任)としての教育への関与が論じられていました。その流れから、昨年7月に資生堂ならではの『肌色』をテーマにした授業プログラム『マイクレヨンプロジェクト』を実施していただけることになりました」(藤川元PTA会長)
教育再生会議の中では、いじめに関しての議題も上がっており、個性がいじめの原因にもなりうるということを知りました。そこで人の個性とそれを認め合う大切さを学ぶ機会を、白幡小と資生堂が「肌色」に着目した授業としてつくり上げたのです。
「授業では、『肌色』には違いがあることが説明されました。以前はクレヨンに『肌色』がありましたが、今はありません。これは人種もそうですが、個人的なレベルで肌の色が薄かったり、濃かったりすることがあるからです。自他を尊重し、個性を認め合える心を育むことがポイントですから、資生堂の肌にかかわる知識や技術が活用できました。グルーピングした子どもたちの代表の肌色を測定・分析、同じような肌色でも、一つとして同じ色がないことを理解しました。それぞれが個性であり、『肌色』が差別の原因にもなることはおかしい、と学びました」(藤川元PTA会長)
この授業は内容がユニークであるだけでなく、道徳や図工、社会や総合的な学習の時間など、先生の取り組み方により教科等横断的な学びが実現できるところも特徴の一つとなっています。
「2年間、不登校児童ゼロ」を達成!
こういった「いじめのない学校づくり」をめざす取り組みは、結果にも表れました。
「一昨年度、昨年度と学校に登校できない児童はいませんでした。この結果から考えると、子どもたちは落ち着き安心して登校できているのではないかと思います」(鈴木校長)
白幡小は、常に課題を把握し、子どもたちのためによりよい学校づくりのために取り組み続けている。最後に鈴木校長は次のように話してくれました。
「他者を理解し、個性を認め合えることがこれからの課題です。肌の色や趣味や考え方はみんな違っていて、同じではありません。でも『みんな違ってみんないい』ということを、子どもたちが身をもって理解できるように、今後も『ピンクシャツデー』イベントや『肌色クレヨン』など、外部と連携したさまざまな取り組みを続けていきたいと思います」
取材・文/三上浩樹(カラビナ)
『総合教育技術』2019年6月号より