公立校の教員を辞めて学校をつくる【あたらしい学校を創造する #1】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による新連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦

学校の先生を辞めて、学校をつくる!

はじめまして、蓑手章吾と申します。僕は今、東京都の世田谷区に、小さな理想の学校をつくろうとしています。名前は、ヒロック初等部。小学生を対象にした次世代型オルタナティブスクールです。 開講予定は2022年4月。信頼できる仲間と、まだ見ぬ子供たちと、共感しあえる大人たちとともに、丁寧に、大胆に、愚直に小学校をつくっていきたいと思っています。

HILLOCK(ヒロック)とは「小高い丘」という意味で、 一人一人が小高い丘を自由に駆けめぐることをイメージしています。ヒロック自体は教育投資家の堺谷武志さんが中心となって立ち上げたスクールで、すでに3歳~6歳を対象にした幼児園部がスタートしていますが、今度はその上にあたる初等部をつくろうというわけです。

僕は自分が理想とする学校をつくるために、公立小学校の教員というある種の安定を捨て、この学校のスクール・ディレクター(校長)に就任しました。公立校の教員としては、かなり珍しいケースだと思っています。

この連載は、みなさんに学校建設の実況中継をするつもりで進めていきます。僕と同じように、将来、学校をつくりたいと思っている先生には、ひとつのモデルケースとして、学校に足場を置きながら現状を変えていきたい先生にとっては、現状を変えるヒントを提供できればと考えています。

今、ヒロック初等部は、開校に向けて突き進んでいる真っ最中です。つい先日、学校の教育方針となるヒロック初等部のスクール憲法(ヒロック宣言)を起草しました。また、新入生募集説明会を開いたばかりです。何が起きるかわかりません。スムーズにいくことも、問題が生じることもあるでしょう。学校づくりと同時進行の物語を届けたいと思います。

ヒロック幼児園部

子供だけでなく大人たちを含めた学びの場にしたい

まず自己紹介をしておきましょう。僕は、今年の2021年3月に公立小学校の教員を退職しました。在籍期間は14年間。初任から6年間は、調布市の公立小学校、次の4年間は、杉並区の特別支援学校、最後の4年間が、小金井市の公立小学校の計14年間です。自由進度学習、ICT教育、特別支援教育の経験を持ち、一人一人の子供に寄り添う教育を実践してきました。『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)という著書も出させていただきました。

そもそも僕は、早い段階から学校づくりにかかわってみたいと思っていました。例えば、どちらも長野県にある「軽井沢風越学園」や「茂来学園 大日向小学校」など、学校づくりをされる方が次々と現れてきたとき、僕もそういううねりの波に乗ってみたい、いつかは学校づくりがしたいという気持ちがあったのです。そんな中で、ヒロックのファウンダー(創設者)である堺谷武志さんと出会い、初等部をつくりたいので力を貸してほしいと声を掛けていただくに至ったわけです。

ここで誤解のないようにしたいのですが、公立小学校を辞めることが先にあったわけではありません。堺谷さんからは、もう2年半くらい前から、いずれ学校をつくるという話をいただいていました。だから、当時の校長には、いずれ辞めるという話をして、職務の引き継ぎなども2年前くらいから計画的にやってきました。そしていよいよ実際に来年4月開校に向けて動きだしたタイミングに合わせて、公立小学校を辞めたわけです。

堺谷さんから学校づくりの話をもらったときは、純粋にうれしく思いました。実はちょうど国立や私立の小学校からも声をかけてもらっていて、公立小学校以外にも挑戦できる場所があるんだと期待を感じる一方で、たとえ学校を変わったとしても学校長の方針に縛られることになり、新しい限界を感じることになるのではないかという一抹の不安がありました。でも、ヒロックの場合は、ファウンダーの堺谷武志さんや、カリキュラム・ディレクターとして立ち上げパートナーとなる五木田洋平さんの教育観や人間性にすごく共感する部分がありました。

また自分が校長の立場になれるということもあり、本当に実現したいことができそうだと直感的に感じました。

ひと言でいうと、ヒロック初等部は、小学生だけでなく、そこにかかわる大人たちを含めた学びの場にしたいのです。僕は、子供が好きとか学校の先生になりたいという以上に、人が学んで伸びていく姿を見ることが好きなのです。そこにすごく魅力を感じる自分がいます。だから、その相手が大人でもぜんぜん構わないんです。ただ、小学生はものすごく成長する時期なので、おもしろい。それで、小学校をつくることに特別な興味があるのです。

次回は、堺谷さんや五木田さんという仲間との出会いや、ヒロック初等部でやろうとしていることについて述べてみたいと思います。〈続く〉

6/27、第1回模擬クラスを実施しました。ダイジェスト版のような一日でしたが、どの子も目をキラキラさせてのびのび楽しんでいました!
6/27、第1回模擬クラスを実施しました。ダイジェスト版のような一日でしたが、どの子も目をキラキラさせてのびのび楽しんでいました!
蓑手章吾先生

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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