清掃活動の意義や具体的方法の教育化を図れ!【6年3組学級経営物語7】
通称「トライだ先生」こと、3年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「清掃指導でつなぐ異学年交流」にトライします。
学び舎は、自分たちで清掃するもの。みんなで分担して掃除すれば、心身共にリフレッシュできる--その意義や具体的な方法を最高学年の学びとして調べてまとめ、他の学年に伝えることを通して、互いの学びを深めていこう! さあ、縦割り活動で実現する「響き合う学び」にレッツ トライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
7月①「響きあう学び」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職3年目の6年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
6年1組担任で、学年主任2年目、教職11年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。一児の母、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活5年目の6年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられた昨年度、しずか先生率いるチームに育てられ、渡来先生とぶつかりながらも今や切磋琢磨しあう良き仲間に。
神崎先生(神崎のぞみ/かんざきのぞみ)
高学年の音楽・家庭科の専科講師。インクルーシブ教育にも携わる。大学4年生のときに交通事故で片足をなくし、入退院で休学、留年(渡来先生と同じ年齢)。一度諦めかけた教師の夢へと一歩を踏み出し、西華小の常勤講師に就く。大学時代は陸上選手として活躍し、体力には自信あり。
ゆめ先生(葵ゆめ/あおいゆめ)
教職5年目。2年担任。2年後輩のトライ先生を励ましつつも一歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。
チャラセン(最上英雄/もがみひでお)
新採教員で、2年を担任。教育実習のときに付いたあだ名は「チャラセン」。”チャラい”言葉を使うイマドキな新任教師。クラスでは、ふだんは子どもたちから「ヒーロー」と呼ばれることも。
汚部屋からの脱出
「絶対許さないわ、ここを汚部屋にするのは!」
放課後の2年3組。葵ゆめ先生の厳しい指導に、情けない表情の最上英雄先生。傍らのメンター、渡来勉先生に助けを求める仕草をします。
けれどロッカーの上は荷物の山、床は埃だらけ、ゴミが散乱して雑巾からは異様な匂い…。
4月から、最上先生が担任する3組の清掃指導を続けてきた葵先生。その怒りも理解出来ます。困惑する渡来先生に、葵先生が真剣な表情で頭を下げました。
「メンターとして協力して欲しいの。子どもたちのため、少しでも早く教室の衛生環境を改める必要がある。取り敢えず大掃除しましょう!」
「また大掃除かぁー。俺、マジで苦手なんすけど…」
最上先生の不平を眼力で抑え、渡来先生も巻き込んで、…何度目かの大掃除が始まりました。
雄介教授の復活!
「…という訳で、一時間以上付き合わされたよ」
研修会後に立ち寄った喫茶店で、渡来先生の話に明るく笑う伊原雄介先生。大学院への現職派遣という新たな目標を見出した現在の姿は、離職を考えた半年前とは違っています。笑顔を引っ込め真顔になると、渡来先生に語りました。
「もう7月だよな…。衛生観念や清掃スキルの指導がそんなに不十分では、確かに子どもたちが可哀そうだ。メンターとして支援してやれよ」
う~ん、と唸り窓外の夏空を見る渡来先生。早いもので一学期も、もうすぐ終わりです。
「早く支援すべきだとは思うけど…。大掃除を何度やっても、また直ぐ汚部屋になる。最上先生の意識を変えるのは、本当に大変なんだぞ」
弱気の渡来先生を、伊原先生が励まします。
「大丈夫、俺も協力するよ。半年前の恩返しだ」
ニッコリ微笑むと、豊かな知識を披露します。
「世界でも少ないんだ、子どもたちが教室を掃除する国は…。様々な考えはあるが、俺は日本の美徳と思う。子どもたちに意義や方法を伝え、全員で清掃する。それは我々の大事な使命だ」・・・ポイント1
「雄介教授の復活だな、頼りにしているぞ!」
大学時代の懐かしい呼び名に、伊原先生は大きく頷きました。
ポイント1 【世界の学校清掃の状況】
「諸外国の学校の役割と教職員等指導体制の比較」(平成29年8月 国立教育政策研究所)によると、調査国(8カ国)のうち教員の仕事として校内清掃指導を行っているのは日本、中国、韓国の3か国のみです。また調査国以外でも、清掃員を雇う学校は多いと思われます。清掃を教育の一環とする我が国の考え方とは異なっています。
”掃除”を学ぶ工夫とは…
「雑巾は団子絞り、箒は掃除機のような扱いだ。2年3組には、基礎・基本から伝える必要が…」・・・ポイント2
放課後の職員室、憂鬱そうに電話をする渡来先生。伊原先生の力強い声が伝わってきます。
「…掃除の仕方を、6年が2年に伝える。互いの学びを繋ぎ、響きあわせる。子どもたちの意識を改革し、大掃除の無限ループから抜け出す」
ついていけない渡来先生に、説明が続きます。
「…6年が伝える情報を、2年が活用する。だけど分かり易く伝えるには、内容や伝え方の工夫が必要だ。その創意工夫が6年の『学び』だ」
「そうか、縦割りのパワーアップだ!『掃除の仕方』をしっかり伝え、有効活用を図らせる。2年も6年も、充実した学びの機会になるぞ。すぐに、具体的な指導方法の工夫を始めるよ!」
十分に理解が進み電話を切った渡来先生に、神崎のぞみ先生が興味深そうに話しかけました。
「5年の家庭科『快適な住まい方』で、掃除を学びました。既習事項の活用が肝だと思います」・・・ポイント3
「…勉強になります。ぜひ協力をお願いします」
仲間からの支援やアドバイス。渡来先生の脳裏には、いろいろなプランが浮かんできました。
ポイント2 【 清掃の基礎、基本 】
清掃の目的を効果的に達成するには、具体的な掃除の仕方の習得が非常に重要です。例えば、箒の扱い方や掃き方、雑巾の絞り方や拭き方、塵取りの使い方等々…。これらの基礎的、基本的な知識を子どもたちに教え、体験を通して習熟させていく必要があります。掃除の基礎・基本は低学年の頃に習得することが望ましいですが、不十分な場合はどんな学年でも再度指導をすべきです。
ポイント3 【 既習事項の活用(家庭科) 】
家庭科の学習指導要領では、既習事項を実生活に生かす等の活動の充実に言及しています。学習内容から考えても、学んだことを活用してこそ「…実践的・体験的な活動を通して,生活をよりよくしようと工夫する資質・能力を育成する(一部抜粋)」という家庭科の目標が達成できます。学校や家庭において、既習事項を生かす機会を積極的に設けていく必要があります。
”学びの活用”にトライだ!
「学習したこと、どれ程役に立っていますか?」
家庭科室。板書した『活用しよう~快適な住まい方の学び~』を指差し、6年3組の子どもたちに問う神崎先生。けれど誰も応えません。
「家庭科の目標は、学習内容を活かし豊かな生活を創ること。達成するため話し合いましょう」
授業のねらいを示すと、ヒデが元気よく挙手。
「家で、洗濯物の片付けや掃除をしています。お母さんの命令だけど、そんな時に役立ちます」
マユミも微笑みながら、家事について発言。
「家事が上手ねって、お母さんに感謝されるの」
暫く発言が続いた後、神崎先生がまとめます。
「学んだことを活かせば、仲間や社会に役立ちます。高学年らしい取り組みを期待しています」
「…具体的に何をすればいいですか。僕たちは」
ハジメの意欲的な質問に、微笑む神崎先生。
「いろんな方法があります。皆で工夫してください。でも渡来先生にアイデアがあるそうです」
後方で参観していた渡来先生。皆に注目されながら、前方に移動すると話を始めました。
「先生のアイデアは、『最高の掃除』という映像資料の作成だ。掃除について学んだことや調べた内容を映像化して、多くの人に見せる。とくに低学年には役立つぞ。トライしてみないか?」
話し終えた渡来先生、沈黙の時間が続きます。暫くしてハジメが立ち上がり、発言しました。
「面白いアイデアです。僕はトライしたいな!」
「同じです」
「最高学年の活動にピッタリです」
次々と賛成する子どもたち。その様子に神崎先生がニッコリ微笑み、渡来先生に告げました。
「決まりです。『最高の掃除』にトライですね!」
トントン拍子の進展に笑顔の渡来先生。しかし前に進むことに集中し過ぎ、学年には未だに何も説明していないことが気になっていました。
伊原雄介先生の登場する回もチェック! ⇒ 「キャリアデザイン」にレッツトライだ!
(次回へ続く)
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