「キャリア・パスポート」とは?【知っておきたい教育用語】
2020年度より、すべての小学校、中学校、高等学校に「キャリア・パスポート」が導入されました。「どうやって作成するか」だけでなく、児童生徒の意思決定につながるようにするためには「どのように活用するか」を考えることが重要です。
執筆/筑波大学助教・京免徹雄
目次
「キャリア・パスポート」作成の目的
「キャリア・パスポート」とは、児童生徒が「自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオ」のことです(文部科学省「『キャリア・パスポート』例示資料等について」2019年)。
ポートフォリオとは、もともとは画家や新聞記者などが雇い主に自分を売り込むときに用いる「紙ばさみ」のことです。教育分野では、子どもの作品、自己評価の記録、教師による指導と評価の記録、などをまとめたものを意味します。
教育分野でのポートフォリオには、授業のワークシートや日常生活に関する日記や作文などの「ワーキング・ポートフォリオ」と、それらを基礎資料として中・長期的な視点(学期、学年、あるいは入学から卒業まで)で児童生徒が振り返り、将来を展望した「パーマネント・ポートフォリオ」があります。「キャリア・パスポート」は後者で、永久保存版として小学校から高等学校まで持ち上がることになっています。
児童生徒にとっての「キャリア・パスポート」の目的は、自己評価の力を高め、主体的に学びに向かうことができるようになることです。一方、教師にとっては、児童生徒がどのような人生を歩んできたかを深く理解することによって、効果的なサポートや教育活動の改善につなげられるという意義があります。また、「キャリア・パスポート」を通して保護者に学習の具体的な様子を伝えることは、説明責任を果たすことにもなります。
「キャリア・パスポート」の特徴
文部科学省から「キャリア・パスポート」の様式例が示されています*。地域や学校の特色を生かして柔軟に変更して利用できますが、次のことに留意する必要があります。
1つ目は、校種を越えて12年間蓄積することが想定されるため、各シートはA4判(両面使用可)に統一し、各学年での蓄積は5枚(10ページ)以内とされています。
2つ目は、各教科と学校行事など教科外活動の両方について記入し、さまざまな学習が結びついていることを児童生徒が認識できるように工夫することです。記録内容には、地域でのボランティアや家庭内での取り組みなども含まれます。
3つ目は、「何をしたか」だけでなく、「どのような力が身についたか」を児童生徒が把握し、さらなる成長に向けた見通しをもてるようにすることです。様式例を見ると、いずれの校種・学年においても、キャリア教育において育成したい基礎的・汎用的能力を自己評価するようになっていることがわかります。
では、どのような「キャリア・パスポート」が効果的でしょうか。
第1のポイントは、校種を越えて学びが連続するように「キャリア・パスポート」を引き継ぐことです(継続性)。第2のポイントは、ある活動の振り返りを書く際に、そこでの学習内容や経験を新たな学びにどう生かしていくかまで考えていることです(発展性)。教師や保護者から記述に対するフィードバックを受けることも、新たな学びとのつながりに気づくきっかけになります。第3のポイントは、過去、現在、未来という3つの時制にまたがる形で振り返りや見通しをもつことです(時間的展望)。
キャリアパスポート例示資料(様式例)ダウンロード(Wordファイル)
・小学校児童用
・小学校指導者用
ガイダンス(集団指導)とカウンセリング(個別指導)
「キャリア・パスポート」は書き留めるだけでなく、ガイダンス(集団指導)とカウンセリング(個別指導)に活用していくことが求められています。
ガイダンスに活用できる時間として、学級活動における「1人1人のキャリア形成と自己実現」があります。児童生徒が「キャリア・パスポート」を用いて話合いをし、「なりたい自分」に向けた目標を意思決定します。具体的には、「キャリア・パスポート」に記入する前に該当するテーマについて話し合ったり、記入した後に児童生徒同士でフィードバックしたりすることが考えられます。集団思考を通して多面的・多角的に自己を理解することは、発展的かつ時間的展望をもった深い内省をもたらします。
カウンセリングのツールとしても有効です。キャリア・カウンセリングとは、自らの意志と責任でキャリア形成できるように、児童生徒に気づきを促し、主体的に考えさせることで、行動や意識の変容につなげていく教師の働きかけのことです。
全員に対して「キャリア・パスポート」に基づく個別面談を行うことは時間的にも難しいかもしれませんが、コメント欄に応援メッセージを記入する、あるいはポイントとなる部分に線を引くといった方法もあります。
記憶を振り返るのがつらかったり、行動や気持ちを具体的に思い出すことができず、単語や短文でしか記述できなかったりする児童生徒には積極的に声をかけ、本人の努力を認めつつ、成長に気づかせる必要があります。
人生という物語の執筆者は子ども自身ですが、教師には、子どもがより望ましい物語に書き換え、新たな物語で生きていくことを支援する役割が期待されます。
▼参考文献
京免徹雄「特別活動とキャリア教育」(吉田武男・京免徹雄編著『特別活動』ミネルヴァ書房、2020年)
京免徹雄「中学校における特別活動の特質を踏まえた学習評価のポイント─明確な指標と根拠に基づく協働的評価に向けて─」(『中等教育資料』No.1012、2020年)
清水克博・胡田裕教・角田寛明「初等中等教育におけるポートフォリオを活用したキャリア教育の現状と課題─学びの継続性、時間的展望、発展性と学びの評価の観点からの考察を通して─」(『愛知教育大学教職キャリアセンター紀要』第5号、2020年)
文部科学省(ウェブサイト)「『キャリア・パスポート』例示資料等について」2019年