ベテラン教師にも起こる「クラスの荒れ」5つの事例

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学級崩壊・学級の荒れ:立て直しからリアルな緊急避難まで
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学級はどんなことが原因で、またどんな経過をたどって荒れていくのでしょうか。荒れを防止する策を考えるうえでも重要になってくる実際の荒れについて、全国の先生方から聞き取り、その中からいくつかの事例を紹介していきます。

クラスの荒れイメージ画像
写真AC

CASE1 先生に反発した子供に保護者が同調し、指導不能に

その荒れは、高学年を担任することが多く、指導力が高いと言われている、ある男性の先生の学級で起こったことでした。

あるとき、その学級のやんちゃな子供が、先生の指示を聞かずに騒いだことがあったのです。その子は日頃からあまり先生の指示を聞かなかったこともあり、その男の先生は怒って、思わず子供の胸ぐらをつかみ、「お前、いいかげんにしろよ」と言ったようなのです。

それは確かに少し行き過ぎの指導だったと思います。それに対し、その子の保護者が「そういった指導は問題ではないか?」と学校にやってきて、その先生や管理職に詰め寄りました。それだけではなく、日頃からその先生の指導に不満をもっていた別の保護者も、その保護者の意見に同調するようになり、問題が大きくなりました。

その先生は保護者たちから「その子に謝れ」と言われ、結局、子供たち全員の前でその子に謝ることになりました。それを契機に先生は、子供たちの問題行動全般を叱れなくなってしまったのです。そのため、子供たちが興奮して騒ぎ始めても抑えるすべがなく、学級が落ち着かなくなり、次第に荒れていきました。

指導力が高いという評価は、もしかしたら子供たちに対する強い指導という意味で、少なからず問題があったのかもしれません。

しかし保護者に対して、十分な信頼関係づくりができていなかったことが問題を大きくした原因ではないかと思います。一人ひとりの保護者は、「自分の育て方はこれでいいのだろうか」と悩んでいたりします。それと同じように、謙虚な気持ちで子供に関わっていたら、子供の問題が保護者に飛び火して、大きな問題になることはなかったのではないか、と私は思います。

教師を糾弾する保護者

CASE2 指導に過剰な自信があり荒れの芽に気付かなかった

考えてみると、その先生は日頃から子供たちに対し、上から目線での指導をしている人だったように思います。

どんな子供も自分のやり方で育てられるという、自分の指導への過剰な自信もあったのでしょう。その分、子供との信頼関係がつながっているのか、察知する力が弱かったのかもしれません。

ある日の休み時間、たまたまその先生は教室にいなかったのですが、用事があった私はその学級に行ったのです。そうすると、ある子は教室の床に横になって寝ているし、別の子たちは教室内や廊下を走り回って大騒ぎしていました。

「あれっ? このクラス、大丈夫かな?」と思ったのですが、その先生は問題の芽に気付いていなかったようです。

考えてみると、その先生は授業でも先生主導で教えるという意識が強く、子供たちが意欲的に参加しているかどうかを見ていなかったのではないかと思います。もし先生の話や指示に対して、子供たちがちゃんと受け答えしているかどうかをしっかり見ていたら、問題の芽が生じていることに気付くことができたのではないかと思います。

またそんなふうに学級が落ち着かなくなると、子供たちの中から先生に相談する子が出てきてもおかしくはなかったはずです。

しかし力で統制する感じの指導だったため、相談できなかったのかもしれません。そうやって子供たちの不信感が溜まっていったのだと思います。

その後、子供たちは授業中に先生が話しているときでも横を向いていたり、先生の話に反応しなくなったり、指示を聞かなかったりするようになりました。そうして、次第に学級が荒れていったのです。

荒れた学級

CASE3 誰でも許容できる反面、厳しさがなく視野も狭い

その若い女性の先生は子供たちに対してとても優しく、一人ひとりを大事にするというタイプの先生でした。

一人ひとりを大事にすることはとてもよいのですが、経験不足もあり、視野が狭いという問題点もあったようです。

例えば、特別な支援が必要な子が何か行動を起こすと、その子に付きっきりになり、他の子供たちへの対応や指示がおろそかになってしまうのです。どの子も大事にしたいという思いは分かるのですが、一人を支援しているときの他の子供たちへの対応ができていないのです。

そうすると、先生がその子にかかりきりになり始めた途端、立ち上がったり、好き勝手なことをしたりする子が次第に出始めるようになりました。それでも視野が狭いため、それを放置してしまっていたのです。個も大事ですが、学級全体を見る視点が欠けていたのです。

その先生の学級であるとき、休み時間に先生がいない教室で飴を食べていた子がいたそうなのです。それはわざと持ってきたのではなく、たまたまポケットかカバンに入っていた飴をふざけ半分に食べただけなのかもしれません。ただ、それについて他の子たちから「問題ではないか」との訴えがあったようなのです。

しかしその先生は、自分自身がその場面を目撃したわけではないからと言って、許容してしまいました。一人を許すことが、学級全体のルールや安全安心を壊してしまうことに気付かなかったのです。

それがきっかけになったのでしょう。次第に学級が落ち着かなくなってきました。意図的におかしを持ってきて、休み時間に食べるような子も出てきました。

やがて食べられた後のおかしの袋が見付かり、学級内だけの問題ではなくなっていったのです。

支援が必要な子につきっきりになる教師

CASE4 ICTへの過剰な信頼から、子供の姿を見失う

ある男の先生はICTの活用に長けた人で、どんな教科でもICTに重きを置いて授業をしているという感じでした。「学校の勉強は、これを使ったら効果的にできる」という雰囲気の先生だったのです。

確かにハード面でもソフト面でも、その活用にはすぐれていましたし、年度当初は子供たちも喜んでいたようです。

しかし、しばらく経ってから彼の教室を見てみると、子供たちの表情は決して明るくないのです。端的に言えば、ツールは素晴らしいけれども、それを操作する子供の視点には立てていない授業だったのだと思います。

結局子供たちは次第に、その先生の話を聞かなくなっていきました。何かもめごとが起きても、その先生には情報が入らないようになり、少しずつ荒れていきました。

後から考えれば、その先生自身、子供と関わることへの自信のなさから、ICT活用に傾倒していったのかもしれません。しかし学級経営はもちろん、授業でも先生と子供の信頼関係は必須ですし、そのためにはまず子供をちゃんと見ないといけないと思います。

しっかり見て、よいことは評価し、悪いことはそれを指摘して考え直させることで、子供自身も正しい価値観がもてるし、先生との信頼関係が築けるのです。ツール以前に、まず人との関わりや価値観が重要なのだと思います。

ICTを過剰に信頼する教師。子供は教師の話を全く聞いていない

CASE5 愛着障害の子供との関係がうまくいかずに荒れる

そのクラスには愛着障害傾向のある一人の男の子がいました。その子は、明らかに誰の目にもその傾向のある子ではありましたが、以前担任をしていた先生方とは、大きな問題になるようなことはありませんでした。ところが、ある女性の先生が担任してしばらくしてから、愛着障害の子との関係がうまくいかなくなったのです。

その先生はそれなりに経験のある先生で、それまで学級が荒れるようなことはなかったと聞いています。もちろん、特に偏った指導をするような先生でもありませんでした。

その子との関係が崩れ始めたきっかけはよく分からないのですが、何気なく言ったことが、その子にとっては不快なことだったのではないかという話でした。

いったん関係がこじれ始めると、その子は何を言っても先生の言うことを聞かず、反発するようになりました。そこにもう一人、別の子も参加するようになり、次第に学級が落ち着かなくなっていきました。

ただ学級が荒れ始めてからしばらくして、その愛着障害の子がご家庭の都合で急に転校することになったのです。そしてその子がいなくなると、その子と一緒に問題を大きくしていた子も急に静かになり、途端にクラスが落ち着いていったのです。

愛着障害傾向の子はどの学校にもいると思いますし、その先生自身の指導上の問題も感じられなかったので、私も後でいろいろ調べてみました。

そうすると、以前その子を担任していたある先生が次のように話していました。

「授業をしていたとき、その子のノートをとる姿勢が悪かったので、『ちゃんと姿勢よく書きなさいね』と言ったときに、無視するわけではないけれど、変な反応だった。ただそのときは『変な反応だな』と思いはしたけれど、特に注意はしなかった。

また別の授業中、知的でおもしろい発問をしたところ、それまで関心なさそうな表情だった彼が、ふっと真剣な顔になった。

そして、非常によい考えを発表した。そこで『ちゃんと考えられたんだね』と声をかけると、すごく嬉しそうな顔をしていた」

そんなふうにちょっとしたことで関係がよくも悪くもなる。その悪いほうがたまたま続いただけだったのかもしれません。

さらに、その分野の研究者に話を聞く機会があったのですが、「愛着障害には相性もある」とのことでした。そこで愛着障害について、一定の知識も必要なのだなと感じました。

愛着障害の子との関係に悩む教師

取材・文/矢ノ浦勝之 イラスト/山本郁子

『教育技術 小三小四』2021年4/5月号より

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