主体的な学びを導くカリキュラムマネジメントにトライだ!【5年3組学級経営物語15】
通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。 今回は、総合的な学習についてのお話です。
主体的・対話的で深い学びの原動力は、知的好奇心。魅力的な直接体験が、子どもたちを強力に動機づける。そして芽生えた知的好奇心が、自主的な探究意欲を高めていく。さあ、子どもたちの「知的好奇心」の向上にレッツトライだ !
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
11月①「知的好奇心」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。
調理実習で国際交流!
「日本料理ノ達人デスネ、トライダ先生ハ!」
見学中のジャンヌさんに褒められ、顔を赤らめるエプロン姿の渡来勉先生。今日は、ご飯とみそ汁の調理実習。トライだ弁当作りで鍛えた腕で、子どもたちの活動をしっかり支えます。
日本文化を学ぶフランス人の大学生、ジャンヌさんは家庭科の授業に興味を持ち、旧知の大河内巌先生に見学を依頼。それを渡来先生が快諾して、子どもたちとの自然な国際交流が始まりました。
「…フランスノ小学校デハ、家庭科モ調理実習モ無イ。見学ガデキテ、スゴク勉強ニナリマシタ」
「知らなかった!」
「ご飯の炊き方、どこで習うの?」
「米ハ主食デハナク副菜ヨ。茹デル料理ガ多イナ。炒飯ト、ピラフハ、似テイルケド…違ウノネ」
文化、調理方法等の様々な違い。渡来先生は会話を聞きながら、昨年実践した総合的な学習での盛り上がりを懐かしく思い出していました。
ジャンヌさんって、どんな人? ジャンヌさんの登場回をチェック! ⇒ 【4年3組学級経営物語9】
決まらない実施計画
放課後、総合的な学習について意見を求められ、1組教室を訪れたジャンヌさん。11月題材は国際理解。早速、シビアな意見を述べます。
「ネットヤ本デハ、主体的ニ学ブ意欲ハ高マラナイ。直接体験ガ、知的好奇心ヲ刺激スルノヨ」 …ポイント1
パソコンや文献等を活用する自由研究の取り組み。自身で工夫したプランを否定されて、プライドが傷つく鬼塚学先生。言葉が尖ります。
「直接体験は準備が大変だ。目的に合う相手や場所を探して交渉や事前打ち合わせ、互いの予定調整、経費捻出…。日本の教師は忙しいから、ICT活用で業務効率を高めるのは当然だ!」
「でも、子どもたちはジャンヌさんと主体的に交流していましたよ。直接体験は、強い動機づけになる。知的好奇心を高め、自主的な探究意欲を向上させる。そう思うんです、だから…」
渡来先生も、否定的な意見を述べます。不満が募る鬼塚先生を制し、高杉静先生が語ります。
「私も直接体験は大切だと思うが、…名案が浮かばない。時間はないが、良いプランがあるなら計画変更する。どうだ、トライしてみるか?」
その提案に、渡来先生は思わず頷きました。
ポイント1【知的好奇心を高める】
知的好奇心は、単なる好奇心ではなく「知的な事柄に強い興味関心を抱く」好奇心です。つまり、「知らない事、新しい事や未知の事柄をもっとよく知りたいと思う心の働き」や「自分が持つ知識や情報、それらへの理解に基づき、物事を探究しようとする心」です。 知的好奇心を高めることは、主体的な学びへの強い動機づけになります。
知的好奇心を高めるアイデアとは…
良いプランが見つからない…。そんな日々を重ね、迎えた週末。公園を散歩していた渡来先生は、池の近くで足を止めました。
水音と小さな子どもたちの騒ぎ声、水面に広がる波紋…。その様子を眺めながら、ふと思いました。
『水面を波立たせた石は、知的好奇心を波立たせる魅力的な題材…。活動意欲を高めたジャンヌさんとの交流! そこからもう一度、考え直そう』
あの時の会話が、脳裏に浮かんできました。
『…炒飯ト、ピラフハ似テイル。…世界ノ米料理』
アイデアが、少しずつ姿を現し始めたのです。
翌日、電話でジャンヌさんに協力を求めます。
「面白イネ、トライダ先生ノプラン。…デモネ」
しかし、電話の向こうからはシビアな返事。
「留学生ヲ一度ニ多数呼ブノハ、簡単デハナイ。学校、バイトデ忙シイ。私ガ頼ンデモ無理ダワ」
「ごめんなさい。留学生の事情まで考えてなかった。でも、いいヒントをくれて感謝しているよ」
礼を言い電話を切ります。職員室で肩を落とす渡来先生は、ポンと右肩を叩かれました。
「深刻な顔して…、悩み事でもできたか」
教務主任の大河内先生でした。これまでの経緯、知的好奇心を高めるアイデア、暗礁に乗り上げたこと…、渡来先生は一気に喋りました。
「総合の時間で、ご飯とみそ汁の発展として外国の米料理をグループで調べ、家庭科の調理実習で様々な米料理をつくる。その活動支援のため、多数の留学生をお招きしようと考えました。外国の方々との交流が知的好奇心を高め、主体的探究活動を促す。…投げた石が水面を波立てるように、体験が知的好奇心を高める。実現しようと、努力したんですが…」…ポイント2
「コメから世界を見つめるか、…面白い視点だ」
大きく頷く大河内先生に、諦め顔の渡来先生。
「でも、留学生を一度に集めるのは難しいと…」
ため息をつく渡来先生。暫く考えていた大河内先生が、ニヤリと笑って話を切り出しました。
「方法はある。すぐに学年会を開いてくれるか」
ポイント2【 カリキュラムマネジメント 】
他教科等での学びを発展させて総合的な学習で実施したり、総合的な学習で獲得した体験や知的好奇心等を教科領域等の学習に生かしたりすれば相乗効果が期待できます。子どもたちの主体的な学びを育むには、先を見通し思考過程に沿って計画的にマネジメントすることが大切です。
大河内先生の秘策
それから半月後…。大河内先生の努力が実り、総合的な学習『コメから世界を見つめよう』の活動がついに始まりました。その初日、調べ学習を始めるため、教室に急ぐ渡来先生。後に続く高杉先生が、バンッと背中を叩き励まします。
「大河内先生の御尽力を忘れずに、トライだ!」
「了解です。米料理のレシピ作成、質問内容づくり…、事前の準備内容は山盛り。しっかり仕上げさせて、主体的活動の基盤を築きますよ!」
渡来先生はそう答え、あの時の大河内先生の力強い言葉を思い出し、拳を握りました。
「教育委員会が追加募集している『主体性を伸ばす授業づくり』の授業者になれば、市のALT(外国語指導助手)…ポイント3 派遣や必要経費の支援が得られる。授業を全市公開する義務はあるが…」
躊躇する渡来先生を見つめ、宣言する大河内先生。
「主体的・対話的で深い学び。その実現は本当に難しいが、看板倒れにしてはならない。教師の創造的な挑戦が、子どもたちの知的好奇心を高める。そのアイデア、私が実現させよう!」
その言葉通り、学校や学年の了解と教育委員会の承認を得、実現に向け動き出したのでした。
ポイント3【ALT】
Assistant Language Teacherの略。教師を補佐して、子どもたちにネイティブな英語を伝える外国人講師の略称です。雇用は区市町村単位で給与も負担する形態が多いですが、他に自治体独自の人材雇用、民間等の派遣契約、地域の人材登用等もあります。
(次回へ続く)