コロナ時代の学校生活Q&A「私はココに悩んでます!」

特集
新型コロナ対策:新しい授業と学級づくりの知恵、続々更新中!

初めての事態に、日々手探りで子供の指導にあたる先生たち。学習指導、学級経営、etc. 。先生の具体的な悩みどころを伺い、それぞれについてアドバイスを送ります。

回答者/ 神奈川県公立小学校校長・副島江理子

コロナ時代の学校生活「私はココに悩んでます!」
イラストAC

コロナ感染の再拡大が起こっており、先が全く見えない状況です。とはいえ、この状況下における学校運営については、国の方針とともに、各自治体からガイドラインが出ていますから、まずそのガイドラインに沿って教育活動を行うことが基本になるでしょう。

しかし、具体的な個々の判断は難しいものになります。

例えば、教育課程については来年度に持ち越してよいことになりました。

しかし、何を年度内に行い、何を先送りにするか現実的には難しい部分もあります。そうした大きな問題も含め、今年度内の教育活動をどうするのかをそろそろじっくり考えておくべき時期にあると思います。

この後、読者の先生方の悩みに具体的に答えていきますが、その前に基本的な考え方についてお話をしておきたいと思います。

それは、学習指導要領の実施とコロナ禍による休業や3密防止が重なったこの時期を、学校で行う教育全般を見直すチャンスと捉えるということ。その視点がないまま、既存の教育をそのまま行おうとしていては、困ってしまうのは当然です。

まず、そのような視点でこれまでの取り組みを見直すことを大前提として、先生方の悩みに答えていきたいと思います。

学習面

Q 二学期開始時、教科書にやっと追いつきましたが、感染拡大によって再度、終わらない危険性も出てきて不安です。今から、準備できることはありますか?

従来型の知識・技能に偏った考えが不安を招く

不安の原因は、「学習内容がきちんと終わるのか?」といった議論に基づいているのだと思います。これは従来型の知識・技能に偏った議論なのではないでしょうか。

現行の学習指導要領で言われている資質・能力は、既有、既習の知識・技能を活用しながら思考力・判断力・表現力等を培い、自己を調整して粘り強く取り組んでいくような力です。

そのような力を育むためには、家庭学習とも連動し、子供たちが主体的に学習を進める工夫をしていくことが大切です。

例えば本校では、子供たちが学習のプロセスを理解するようにしています。もし再び休業になったとしても、そのプロセスを踏まえ、家庭でタブレット端末も有効に使いながら、自学できるところは自分でやり、分からないところを先生にメールで尋ねたり、友達同士で考えをシェアしたりするような学習が可能なのではないかと考えています。

Q 子供同士が対話をしにくい状況ですが、この状況下でのよりよい授業のあり方を教えてください。

思考の交流をすることが対話だと考える

本校では分散登校のときには、午前中の子供たちがある問いに対して考えた意見を黒板に残しておいて、それを午後の子供たちが見て考えたり、自分なりの考えを加えたりするような学習をしていました。

また、現在の授業では、3人組になって友達の意見に対して筆談対話をしたりもしています。

何も直接話すだけが対話ではなく、思考の交流をすることが対話だと考えることが必要です。奇しくも本校の六年生が言っていたのですが、「結局、しゃべることをやめればいいだけでしょ?」ということです。

また、例えば今日の授業の中での友達の考えに対して、自分なりの感想や新たな考えを書いてこようという家庭学習があってもよいでしょう。それを読み合えば、それもまた対話です。家庭での個の熟考の時間がとれるので、むしろ、より質の高い対話が期待できるでしょう。

 教室内の対話もディスタンスをとって行う
教室内の対話もディスタンスをとって行う
熟考して書いたものを使い、紙ベースで対話
熟考して書いたものを使い、紙ベースで対話

Q 子供がマスクをしていると、その表情や反応が見えづらく、授業展開が難しいのですが、何を読み取ればよいのでしょうか?

今年度は子供を丸ごと見ていく機会だと捉える

まず子供の発信してくるものは何かということを考え、表情が読み取れないなら、何を読み取るのかということを考えましょう。

表情が見えなければ、声の調子で「困っていそうだぞ」と読み取るとか、仕草を見て「一生懸命考えているぞ」とか、「ペンが止まっていて書きづらくしているな」と感じる、といったことが大切です。

私は現時点でマスクのために、今年の一年生の顔を全部見たことはありません。一年生も私の顔を全部見ていません。

しかし例年に比べて関係がうまくいっていないとは感じていません。むしろ、いつも以上に私に話しかけてくれるくらいです。それは教師も子供の言動全体を見ているし、子供も教師の言動全体を見ているということです。

表情の見えにくい今年度は、子供を丸ごと見ていくよい機会だと捉えてみることが大切です。

Q 時間が限られた中での指導を進めていますが、特に国語や算数など、主要教科の指導上、配慮すべきことはありますか?

育てたい資質・能力を明確にすることが重要

これまでの授業は、本当に45分間すべて、子供たちが学習する時間になっていたでしょうか。実のところ無駄な時間もありませんでしたか?

この状況下で、教育課程について管理職間で議論をしたとき、40分間でも十分に既存の授業ができるという声が多く出ました。

授業時間一つをとっても、時間は短く、内容は濃くする工夫はできます。むしろ無駄を削ぎ落とすチャンスと捉えましょう。

そのとき、育てたい資質・能力を明確にすることが重要です。例えば国語のような、2学年でらせん的に指導する指導事項にかかる教材については精選を図り、1単元であれもこれもと考えず、絞り込んだ授業づくりが可能になるはずです。

算数や理科、社会などは各学年で内容のまとまりの配分を意識しながら軽重をつけています。何を考えさせるのかを明確にして、単元の中で力を入れる部分をシャープにしていきましょう(※各自治体で、今年度の状況に合わせた教育課程についてのガイドラインが示されていると思います)。

子供自身がその教科の見方・考え方を働かせて学習を進められるようにしていくことが、効果的に時間を使うことにつながります。

Q 放課後の個別指導なども行いにくい状況下で、より確かな学習定着のために担任が行えることはありますか?

授業中の机間巡視は大事にしたい

まず授業中の机間巡視というのは大事にしたいところです。表情が読み取りにくいからこそ、子供の間を回ってしっかり見とることが大事です。横から個の状況を見とり、声かけなどは向かい合わずにしていくなど、配慮しながらていねいに行っていくとよいでしょう。

学習定着のため、取り出しの指導が必要な場合には、保護者の理解を得たうえで行えばよいと思います。そのときには、取り出したうえでの子供との距離などについて、しっかり配慮をしておけばよいのです。

Q 前学年末の休業分について、プリントによる家庭学習で代替をしました。確かな定着を図るために今からすべきことはなんですか?

自学の部分と学校でシェアする部分を分ける

本校の場合、ドリルのようなものに加え、工夫改善を図ったワークシートを配付しました。そのうえで学校再開後に、そのワークシートを用いて授業を行いました。

その後も、自学でやってこられる部分は家庭で行い、自学でできないところについては、授業で行っています。

学校で個々の学習状況をしっかりと把握する姿勢が必要でしょう。

Q 教育委員会ではオンライン授業も準備をしているようですが、自分のスキルや子供のスキル、ネット環境などに不安を感じています。どのような心構えが必要ですか?

オンライン授業を、既存の一斉授業を行うための道具と捉えないことが大切

タブレット端末を使うにも消毒が必要でしたが、本校では学校再開第1期の分散登校だったとき、司書教諭が「子供が半分ずつ登校する今がタブレットを使うチャンス!」と言い、1時間目にあるクラスが半分使い、2時間目に次のクラスが半分使うことにしました。

その後、中休みに全部を消毒し、3、4時間目も同様に使って、また消毒するという流れでタブレット端末の使用スキルを身に付けていきました。

横浜市では7月20日にロイロノート・スクールと提携を行いましたが、それが使えるようになれば、再び休業が必要な事態になっても、子供が自主的・自律的に学習し、それをオンラインで対先生や子供たち同士で思考を交流し、深めることができると思います。

自治体によって環境が異なるため、一概にこうしたらよいとは言えませんが、オンライン授業を行うときに気を付けたいのは一斉授業を行うためのだけの道具と捉えないということです。

学習指導要領の目標に沿い、授業を見直すことと同時に考えることが必要です。

ロイロノートを使って学習する子供
ロイロノートを使って学習する子供

学級経営など

Q コロナ対策で、マスクや手洗いなどの徹底はとても大切だと思いますが、それをただ口頭で注意喚起し続けるだけでなく、子供に意識させるよい方法はありますか?

子供に「みんな、どうする?」と問いを投げて考えさせる

本校ではプログラミング的思考と結び付け、学校に来てからの子供の行動を、フローチャートで示したりもしています。

ただ私は今回のコロナ禍で、子供に学んだことが本当に多いと感じています。

どんな状況下でも楽しむことができるのは子供の特性で、このコロナ禍の中でも自分たちのできることを考え、楽しみながら、工夫して過ごしています。

例えば、手洗いを忘れる子供、マスクを外してしまう子供がいるとしたら、「みんな、どうする?」と問いを投げて考えさせてみてはどうでしょう。そうすると自分たちで考え、工夫し、それを楽しみながら実行することができるのが子供なのです。

フローチャートで登校の行動を確認
フローチャートで登校の行動を確認

Q コロナ感染が再拡大する中で、改めて子供のメンタルヘルスケアなどで考えておくべきことは何でしょうか?

保護者が包み隠さず伝えられるような信頼関係を構築する

子供や保護者の問題については担任が窓口になると思いますが、養護教諭も含め、保護者が包み隠さず伝えられるような信頼関係を構築することが重要です。

子供の不安はもちろんのこと、例えば保護者の職場で感染者が出たというような場合も、学校にすぐに連絡してもらえれば、学校も落ち着いて最善策を図ることができます。

そのような迅速な連絡が可能になるような信頼関係を日頃から築いておくことが大切です。おそらく先生方は休業中からこまめに各家庭とコンタ クトをとってきたはずです 。もしそこが十分でないと感じるならば、これからでも保護者の状況をよくつかみ、信頼関係を築くことが必要です。

Q まだまだ暑さが続き、子供たちがどうしてもマスクを外してしまいがちですが、よりよい指導法はありますか?

「マスクを外したら話すことはできない」という約束を徹底

私は感染予防をするうえで、マスクはとても重要だと考えていますし、本校では基本的にマスクは常に着けるようにしています。

ただ暑い夏の時期にはむしろマスクを外すように促していますが、その際「マスクを外したらおしゃべりはがまん」と諭しています。

また暑い時期には熱中症の危険性もありますから、担任の先生が一定の間隔をおいて、マスクを外す時間を入れてもよいでしょう。

「ちょっとマスクを取って、水分補給をしてみようか。だけど、外したら話はできないよ」と伝え、熱中症対策の水分補給とともにマスクを外して息抜きを行うとよいと思います。

Q 今年度、行事を行わない中で、学級に一体感が出てきていない気がします。行事のない状況での学級づくりを教えてください。

このような状況下でできることを、子供自身に考えさせる

行事がないと学級づくりができない、というような行事ありきの考え方では、よい学級づくりはできないと思います。とはいえ、行事は子供たちが楽しみにしており、行事で育つ力があります。

そこでこのような状況下でできることについて、子供たち自身に考えさせればよいと思います。

「こんな状況では昨年と同じような行事はできないんだ。だけど、あなたたちだったら、何をどのようにやればよいと思いますか?」と問い、考えさせればよいのです。

実は先日1年生が、「暑いから、どうしても水遊びをしたいので、やり方を考えました。許可をもらえませんか?」と私の所へやってきました。そのようにこの状況の中でできることはないか、と考えるような子供に育てていきたいものです。

「『今までと同じことができなかった』ではなく、『今までと違うから、新しくこういうことをしよう』という、創造の一年にしようね」と、私は先生方にも子供たちにも言っています。

6年生が行事について提案した書類
6年生が行事について提案した書類
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保護者対応

Q 授業の遅れを気にされる保護者からの不安の声が聞こえてきます。どのように答えればよいのでしょうか?

授業時間を見直し、子供に付けたい力をしっかり付ける

これは実際に保護者の質問を受けて私自身が答えたのですが、「学校行事などもいろいろな制約があり、できないものがあります。その分、授業に専念できています。また45分の時間の中も見直しを図って、授業をしています。そうした見直しの中で、本質的に子供に付けたい力をしっかり身に付けられるようにしています」と話し、理解を得ました。

併せて、学習指導要領の意図や目標などについても分かりやすく説明をしています。

Q コロナへの不安から一学期開始時に長く登校をさせない家庭がありました。感染再拡大で再び起こる可能性が出てきていますが、対応はどうすればよいのでしょうか?

基本は不登校児童への対応と同じような関わり方

本校には今のところそのような家庭はありませんが、しかし、もしそのような家庭があるとしたら、毎日の連絡を通して学校の状況を伝えていくなど、基本は不登校児童への対応と同じような関わり方になってきます。

コロナに対する考え方には個人差があるので、それぞれの考え方を尊重しながら、学校としてできることを考え、相談をしながら、ワークシートを配付するなど、学習の保障を行っていくとよいでしょう。

Q 知人の学校では保護者に感染者が出たそうですが、そうなったときの対応について、今から考えておくべきことはありますか?

各自治体のマニュアルに沿って対応を図る

それについては各自治体で対応マニュアルを作成しているはずなので、そのマニュアルに沿って対応を図ることです。

(※ちなみに横浜市教育委員会の場合、対応は基本的には一般的な感染者に対する対応と変わらないとのことです。例えば、保護者に陽性の方が出た場合、お子さんも濃厚接触者ですからPCR検査を受ける必要がありますし、2週間はお休みいただくことになります。お子さんや教員に感染者が出れば、保健所の調査が入って、濃厚接触者を特定します。その特定に要する期間〔1〜2日程度〕は、学校を休業することになります。その後、お子さんが濃厚接触者に特定された場合は、接触日から2週間はそのお子さんがいる学級は休業になります)

職場&人間関係

Q 感染防止のため、教室内やトイレの除菌など、時間的負担やストレスが増えています。よい改善方法はありますか?

除菌清掃を楽にするための道具を教室に配備

先に少し触れましたが、横浜市では授業時間を5分短縮するなどして、下校後の消毒時間も含め、それが何もないときの下校時刻になるような工夫をしている学校が多いです 。

加えて、職員室アシスタントの配置も行われていて、業務の負担減も図られています。

またコロナ対策の追加予算もあったため、校内では何があったら仕事が楽になるのか意見を出し合い、具体的には住居用ワイパーがあると、除菌清掃が楽になるということで各教室に配備しました。

Q 限られた時間内でやるべきことが多く、単純に労働時間が増えています。よりよい職務遂行の工夫はないでしょうか?

全教員の共通理解を図り、全員が納得する校務負担が重要

横浜市は人的配置があり、職務によっては外部委託がありました。同様に各自治体で対策が考えられていることだと思います。

意識していることは、職員間で不公平感を生じさせないということです。それがあると、先の見えない対応を持続していけないからです。

例えば給食が始まると、給食の決まりにコロナ対応が重なり、担任の先生は負担を感じます。 一方、給食の担当にも、従来にない取り組みによる負担感があります。一つの部署にしわ寄せがいくと長期戦は戦えません。

長期戦だからこそ、全教員の共通理解を図り、全員が納得する校務負担が重要です。

Q 異動してきたばかりですが、あまり長時間の話をすることもできず、校外で話す機会ももてず、人間関係の構築を難しく感じています。

「できる範囲の中で互いのことを気遣っていますよ」と発信

人とのつながりを分断するこのコロナ禍において、どうコミュニケーションをとるかは難しい問題ですが、公にはガイドラインに則り、粛々とやっていく以外にありません。

加えて、今はまた感染が広がってきていますし、先生も一人ひとり病気に対する捉え方が異なるため、難しい状況だと思います。互いの思いを尊重し合うことが基本です。

例えば本校では職場で休憩時間に簡単な歓迎会をしました。

具体的な行為自体は簡単なことですが、このような行動を通し、「できる範囲の中で互いのことを気遣っていますよ」と発信していくことが大事だと思います。それだけで職員室内の空気は変わると思います。

取材・文/矢ノ浦勝之

『教育技術 小三小四』 2020年10月号より

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