教師として自信を失くしてしまった経験は?|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
数々の実践がテレビや雑誌で取り上げられ、子供たちや保護者からの信頼も厚いカリスマ教師、沼田晶弘先生。「教師として落ち込んだり、自信を失くしたことはありますか?」という質問に、これまでの教師生活をふり返り、失敗談も含めてお答えいただきました。
目次
子供たちへの対応は
日々反省の連続
教師として落ち込むことは、本当によくあるよ。
教師を続けてもう十数年だけれど、今でも正直日々落ち込むことばかりだし、反省のくり返しだ。
とくに、子供たちに対して、「もう少しこうしてあげればよかった」とか、「今日の授業、子供たちは喜んでいたけれど、自分的には全然納得できない」とか、帰宅後に一人で悶々とすることはよくある。
もっとも多いのは、「子供たちにもう少し、こういうふうには言えばよかったかな」など、子供への対応や声かけについて。
「ベターだったけど、ベストではなかったな」と思うと、やっぱり気にかかるし、落ち込んでしまう。
もちろん、「ベターというより、全然ダメだったな」と思って、自信を失くすこともある。
子供たちから猛反発され
悶々と過ごした失敗談
例えば、以前、六年生の担任をしたとき。
子供たちと意見がぶつかってしまったことがあった。
具体的には、ダンシング掃除(※)の曲を決めるとき。
子供たちが選ぼうとしていた曲の中に、「これはちょっとダンシング掃除に合わないぞ」と思うような曲があった。そのことにボクは途中で気付いていたにも関わらず、つい言いそびれてしまったんだ。「この子たちならきっと途中で気付くはずだ」と信じていたこともある。
しかし、実際に決めるとき、子供たちはボクがダメだなと思っていた曲を選んでしまった。
だから、「この曲はダメだよね」と言って、最後に子供たちの決めたことにNGを出してしまったんだ。
結局、曲は選び直すことになったんだけど、子供たちが下校した後、「あれはもっと早く言うべきだった」「タイミングが悪いし、あそこでひっくり返しちゃダメだろう」って、自分でものすごく反省した。
帰宅後もすごく落ち込んだけれど、一晩考えた末、翌朝すぐに子供たちに謝罪しようと決めたんだ。
教師も失敗をする。だから「ありがとう」と「ごめんなさい」はたくさん伝える
翌日、朝の会で「昨日せっかくみんながダンシング掃除でやりたいことを決めたのに、Aの段階でボクが否定したのはよくなかった。ごめんなさい」とみんなの前で謝った。
その後、毎日子供たちと続けている日記を読むと、やっぱりそのことについて書いている子が数人いた。2、3人だったけれど、「あれはひどい」と書いていた。
謝罪はしたけれど、やっぱり心の中でもやもやしたものが残ったし、その日子供が帰ってからも、「あれはいかんかったな」と思ってしばらく悶々としていたね。
ボクはよく落ち込むタイプだけれど、そう長い時間落ち込むほうではないかもしれない。一晩考えたら、「明日はこうしよう」と決めるようにしている。
どうするか決めてしまうと、あまり気にならなくなるからね。
いずれにせよ、教師も失敗することはあるよね。
ボクはそう自分自身で自覚しているから、日頃から子供たちに「ごめんなさい」「ありがとう」をたくさん伝えるようにしている。 一日の中で発する言葉のうち「ごめんなさい」「ありがとう」率は、ぶっちぎり高いんじゃないかな(笑)。
メンタルが強い人がよい教師ではない。失敗から学ぶ姿勢が大切
ある先生は、いつも不安になってしまい、学校のメールを1時間に一回チェックしていると言っていた。とても優秀だし、クラスも上手にまとめている先生なのに、それでもやっぱり「怖い」とよく言っている。
「怖い」と感じる原因が、「自分のやっていることは、今は上手くいっているけど、いつか崩れるかもしれない」という漠然とした不安のときもあるだろう。
もしくは、たくさんの子どもたちを相手にしているから、自分ではそういう意図で言ったわけではないのに、ある子には別の意味で捉えられ、誤解されてしまった経験から怖さを感じ、落ち込むこともあるだろう。
理由はさまざまだけれど、そうやって漠然と不安を抱えて自信を失くしたり、自分の言動をふり返って落ち込んだりする人のほうが、ずっとよい先生になれるんじゃないかな。
「こうなったらどうしよう」と心配したり、「もっとこうすればよかった」と後悔したりすることで、その後いろいろな手立てを講じたり、子供たちの変化に気付こうと努力をするからだ。
自信を無くしたり、落ち込んだときこそ、成長のチャンスだと捉えよう。失敗を悔やんで悶々とするだけでなく、「明日はどうしたらよいだろう」 「こうなってしまったら仕方がない。これをどう解決したらよいだろう」 と、気持ちを切り替え、前向きに考えてみることが大切だ。
そういう意味でも、 メンタルの強い人がよい教師になるとは限らない。ちょっと繊細なくらいがちょうどいいと思う。
だから、落ち込んだり、自信を失くす自分を恥じることはないよ。教師も失敗から学ぼうという姿勢が大切なんじゃないかな。
※ダンシング掃除…ぬまっち流実践の一つ。毎日清掃の時間には、曲をかけ、その曲が終わるまでに掃除を終えるのがルール。ノリのよいリズムに合わせ、全員で協力しながら掃除をし、サビになると全員掃除の手を止めて曲に合わせて踊り出し、サビが終わるとスパッと掃除に戻る。このユニークな掃除風景が話題になり、テレビ朝日系のバラエティ番組「ナニコレ珍百景」や、フジテレビ系の「みんなのニュース」でも紹介された。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵