子供の荒れに「ほめる・叱る」の二択はダメ!

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学級崩壊・学級の荒れ:立て直しからリアルな緊急避難まで

株式会社 感性リサーチ代表取締役

黒川伊保子

今年度は不安定な状況が続き、子供たちの心も荒れやすい状況が予想されます。荒れが進行すると、聞かない、無視する、教室を出ていくなど、子どもとコミュニケーションが取れなくなることに悩まれる先生も多いのではないでしょうか。

コミュニケーションが難しい子供たちとの会話のコツを、感性分析の第一人者である黒川伊保子さんに伺いました。

黒川伊保子さん 撮影/五十嵐美弥

黒川伊保子●株式会社 感性リサーチ代表取締役。人工知能研究者、脳科学コメンテーター、感性アナリスト、随筆家。 脳機能論と人工知能の集大成による語感分析法を開発。性や年代によって異なる脳の性質を研究対象とし、男女脳論を展開。『娘のトリセツ』(小学館文庫)『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書) は合わせてミリオンセラーに及ぶ勢い! 最新刊は『コミュニケーション・ストレス ~男女のミゾを科学する』(PHP新書)。

教育現場は「ゴール思考問題解決型」に傾きがち

教育現場では、どうしても「叱る」もしくは「ほめる」というコミュニケーションがメインになりがちです。なぜなら、先生も保護者も、子どもを指導するときには、「ゴール思考問題解決型」の思考になりがちだからです。

「ゴール思考問題解決型」とは、目標達成に集中するための脳の使い方です。意識の最初に、ゴールを設定し、それに向かって対処しようとします。「こうしてほしい」「こうあるべき」という目標に対して、子どもたちの言動を向かわせようとするため、できていれば「ほめる」、できていなければ「叱る」、もしくはできている子を「ほめて」認め、できていない子に正しい行いに気付かせる、ということに注力しがちです。

しかし、子供を指導しようとしても無視されてしまう、全く響いていないなど、コミュニケーションに至らない状況が続いているとしたら、そのコミュニケーションを見直すべきです。

「ゴール思考問題解決型」の思考は、ゴール以外が見えなくなるというデメリットがあります。「こうあるべき」というゴールにこだわりすぎるあまり、子どもたちの気持ちの動きに気付かず、結果子どもたちの心が離れてしまうのです。

そして学級が荒れてくると、とにかくたくさんほめてクラスの雰囲気を変えようとすることがありますが、ほめるだけでは状況は変わらないかもしれません。ほめることがよいコミュニケーションだと思いがちですが、自分が期待したことをしてくれたからほめているという状況では、子どもたちとよいコミュニケーションができているとは言えません。

荒れの原因は、「子どもの気持ちに気付く」「労う」という意識に欠けていたからなのではないか、という気付きが大切です。

本来コミュニケーションは、お互いの気持ちを知る、心を伝え合うために行うものです。信頼関係を築くためには、「相手の気持ちを汲む」コミュニケーションから始めるようにしましょう。

インタラクティブが起こる会話を心がける

もし、相手が自分の声かけに応じようとしない場合には、相手に話したいと思わせる必要があります。

話したいと思わせるには、話したことに対して、何かしらのインタラクティブ(相互作用)が起こるという経験を重ねるとよいでしょう。自分が話したことで相手が変わる、相手から何か返ってくるという相互作用を意図的につくるのです。

例えば、母親が一方的に自分の感情と要求を突き付けてきたら、子どもは母親とそれ以上話そうと思わないでしょう。なぜなら、いくら会話を続けても、そこにはインタラクティブが起こらないからです。

「お母さんはこうした方がいいと思うんだけど」とアドバイスするようなそぶりを見せつつ、子どもが自分の意見を言おうとすると、「あんたは黙って聞きなさい」と怒ってしまう。これでは何を言っても無駄だと思ってしまいますよね。だから話さなくなってしまうのです。話をした結果、よい方向に変わるという経験が必要なのです。

インタラクティブが起こる会話のコツを紹介しましょう。

1 相談する

最も簡単にインタラクティブを起こす方法は「相談すること」。

普段はそっけない子どもも、
「先生困ってるんだけど、もっとよい方法ないかなあ」
「このネーミングわかりにくいかしら? ◯◯さんはどう思う?」
などと相談されると、意外にいろいろアイデアを出してくれるものです。

人は、誰かにアドバイスされることよりも、自分がアドバイスしてあげることで、相手に変化が起きることのほうがうれしいのです。

2 変化に気付いて言葉をかける

相手の気持ちを汲むためには相手の変化に気付かなくてはなりません。相手の変化に気付いたらその変化に対して声をかけましょう。

ほめる場合も、「ゴール思考問題解決型」のように、期待に応えてくれたことに対してほめるのではなく、
「筆箱変えたの? すごくいいね!」
「それすごくいい色だね」
など、その子ならではの変化に気付き、ほめるのです。

また、「気付いて労う」ことも重要です。

「平泳ぎできるようになったんだ。たくさん練習したんだね」
「班長おつかれさま。みんなの意見まとめてくれてありがとう。大変だったでしょう」
「疲れているね。今日のクラブ活動大活躍だったものね。君はよくやったと思うよ」
などと、共感しながら労うコメントをプラスしましょう。

このとき、まだ信頼関係ができてないうちに、「でももう少しこうすべきだったね」などアドバイスをするのは逆効果。アドバイスは信頼関係が築けるようになってからのほうがよいでしょう。

3 会話の呼び水を使う

クラスが落ち着かないと、「注意をする」「叱る」ことに時間が取られがちです。そして、子どもたちとの会話もギスギスしてしまいます。そんな状態で突然「最近どう?」「困ったことない?」などと聞かれても、答えたいとは思いません。

そんなときにおすすめなのは、自分に起きた出来事を話し、「会話の呼び水」にすること。

「今日学校に来るとき、ドラマの広告見たんだけど…」
「最近、庭にソラマメ植えてみたんだけどね」
「昨日カレー食べたら、ものすごく辛くて涙でちゃった」
など、些細な事ことでよいのです。

他愛もない話題が会話の呼び水となり、
「私もその広告見たことある!」
「なんでソラマメなの?」
「うちも昨日カレー食べた。甘口だったけど」
など、少しずつ会話が紡がれていくでしょう。クラスの中に安心して話せる温かな雰囲気ができ、より豊かなコミュニケーションが生まれます。

有効な切り返し方は「一理あるね!」

「あなたどう思う?」と聞いたとき、たとえ的外れな意見を言われても、流したり、馬鹿にしたりしてはいけません。

突拍子もないことを言われても、「そうか、そう来たか」と面白がれるような余裕がほしいものです。

そもそも会話とは、正しい答えを出すためにするためではなく、気付きを生むためにするものです。

思った方向と全く違う方向に進んでしまっても、またそれはそれで素敵なことなのです。

つい反論してしまいがちな人は、
「そうか、そう来たか。君に聞くといつも面白いな」
「ああ、一理あるね。気が付かなかった!」
など、切り返しのレパートリーを増やすとよいでしょう。

伝えたい重要事項は、事実だけを簡潔に

どうしても伝えなくてはならないことは、感情を乗せず、事実を簡潔に伝えることも心がけたいことです。

例えば、なかなか連絡帳を出してくれない子どもに対し、「先生いつも言ってるよね。4年生にもなってどうして連絡帳を出せないのか全然分からない!」など、感情をこめて大げさに伝えようとしても、結局声のボリュームだけが大きくなり、何をしてほしいのかわからなくなってしまうのです。「連絡帳だけは出してほしいの」と、事実だけ、簡潔に言うほうが効果的です。

とくに男子の場合は、一度にいろいろなことを言われたり、早口で話されると何を言っているか分からなくなるので冷静に、一つのことだけ短く伝えましょう。

【関連記事】男女の違いについて詳しく知りたいかたは黒川先生のこちらの人気記事もチェック!→小学校高学年「思春期」児童の男女別トリセツ

「違いを楽しむ」コミュニケーションが大切

日本人の親子の会話を聞いていると、子どもは自分と別人格であることが理解できていないのではないかと感じることがあります。保護者が自分の基準で正しいか正しくないか判断しているような会話が多いように思うのです。だから子どもが何を見ているのか、何を感じたのかを聞いたとき、その感覚が自分と違うと、それが許せなくなってしまうのでしょう。

自分が見てほしいものとは別のことに興味を持ってしまう子に対し、イラッとして「そんなところに目をそらしていないで、こっちを見なさい」と言いたくなることもあると思いますが、「自分と違う脳がここにある」と考え、そのことに喜びを感じてほしいなと思います。

子どもは自分とは別人格であると認め、もっと子どもに好奇心を寄せることで、
「どうしてそれが気になるの?」
「あなたはこれが赤に見えるの? 面白いね。じゃあ、あれも赤に見えるの?」
などと話が広がり、会話ももっと楽しくなるのではないでしょうか。

学校でも、子どもが自分の想定した正解を出さなかった時や、想定しない行動をした子に対し、「ほめる」と「叱る」以外に、「違いを楽しむ」という対処法をぜひ試みてほしいと思います。

ものの感じ方は人それぞれ。子どもが自分や他の子と別の考え方を表現してくれた時には、「よい・悪い」、「賛成・反対」で評価するのではなく、好奇心を持って聞き、違いを楽しむ雰囲気づくりを意識するとよいのではないでしょうか。

取材・文/山岡文絵

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