キー・コンピテンシー【教育用語】

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教育分野で度々耳にするようになった新しい用語を、深く掘り下げて解説します。今回は「キー・コンピテンシー」を取りあげます。

執筆/筑波大学助教・京免徹雄
監修/筑波大学教授・浜田博文

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高い業績を上げる人の特性=「コンピテンシー」

能力とか適性と訳されることもある「コンピテンシー」は、1960年代ごろから、経営・人材管理の分野で、高い業績を上げる人の特性(職務遂行能力)を意味する言葉として使われるようになりました。1990年代以降は、教育分野でも頻繁に登場するようになりますが、その背景には社会のグローバル化が進展し不確実性が増すなかで、答えのない課題に向き合い、適切な問いを立て、情報を収集・活用して問題を解決できる柔軟な力の育成が求められたことにあります。

1997年から2003年にかけて実施されたOECD(経済協力開発機構)の「コンピテンシーの定義と選択」(DeSeCo)プロジェクトでは、国際的に共通する現代人の主要な能力を定義しています。そこでは、コンピテンシーは知識や技能よりも1段階上位にあり、「特定の状況の中で、心理的・社会的な資源(技能や態度を含む)を引き出し、活用することにより複雑なニーズに応じる能力」とされました。

そして「キー・コンピテンシー」とは、それら多くのコンピテンシーの中で、

①個人の成功と社会の発展にとって価値がある
②さまざまな状況における複雑な課題に応えることができる
③特定の専門家だけではなくすべての人にとって重要である

という3つの条件に適う汎用的能力のことであると定められました。

3つのカテゴリーと9つの能力で構成される

キー・コンピテンシーは、3つのカテゴリーに区分される9つの能力で構成されています。

  1. 相互作用的に道具を用いる(A.言語、シンボル、テキストを相互作用的に用いる/B.知識や情報を相互作用的に用いる/C.技術を相互作用的に用いる)
  2. 異質な集団で交流する(A.他者と良好な関係をつくる/B.協働する/C.争いを処理し、解決する)
  3. 自律的に活動する(A.大きな展望の中で活動する/B.人生計画や個人的プロジェクトを設計し実行する/C.自らの権利、利害、限界やニーズを表明する)

第1のカテゴリーは、コンピューターのような物理的な道具、および言語、情報、知識といった社会文化的な道具を活用して、自らをとりまく環境や他者と対話し、世界に働きかける力のことです。

第2のカテゴリーは、多様化・断片化しつつある社会の中で、異なる歴史・文化・社会経済背景などをもつ人々と関係を構築し、共に学び、生活し、働く力のことを指しています。

第3のカテゴリーは、個人的アイデンティティを発展させるとともに、いろいろな社会生活の場面において自分自身で判断し、責任ある役割を果たす力です。

これら3つのカテゴリーの力は、相互に重なって機能することで、広範囲にわたって能力を発揮することができるようになります。さらに、3つの中核に位置づけられるのが省察性(思慮深さ)です。そこには、自分の経験を相対化できること、物事を多角的な視点で捉えて批判的に考えられること、多様な変化に創造性をもって柔軟に対処できる思考力などが含まれます。

学校教育にキー・コンピテンシーはどのような影響を与えているか

OECDは2000年から、15歳の子どもの読解力、問題解決能力などを国際的に比較し教育方法を改善しようという目的で「国際学習到達度調査」(PISA)を開始し、キー・コンピテンシーの「相互作用的に道具を用いる力」、すなわち知識の活用力を評価しています。

日本の学校教育は、2003年に行われた2回目のPISAで順位が急落するという「PISAショック」を受け、「脱ゆとり」路線に舵が切られました。しかし、キー・コンピテンシーと高い親和性をもつ「生きる力」の理念は継承され、2017年~2018年に改訂された学習指導要領では、「何ができるようになるか」を重視して、これからの学校教育で育成すべき資質・能力を「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3本柱で整理しています。

まさに後者の2つはキー・コンピテンシーにつながるものです。さらに、学習の基盤となる教科等横断的な資質・能力として、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力が挙げられたことも注目されます。

どのようにキー・コンピテンシーを育成するか

コンピテンシーは特定の具体的な場面で機能する能力ですが、同時に、さまざまな状況のもとで効力を発揮することができる性質をもちます。

なかでもキー・コンピテンシーは汎用性が高く、コンピテンシー育成のための羅針盤になりますが、「コミュニケーション能力」のような抽象的な力を育てることは困難です。まずは羅針盤を参考にしつつ、子どもの実態や教師・家庭・地域の期待などをふまえて、学校ごとに身につけさせたいコンピテンシーを、より具体的なレベルで設定しなければなりません。

次に、それを各教科・領域さらには各単元の学習状況と組み合わせることで新たな行動目標を作成し、その達成に向けて経験を積み重ねていくことが求められます。より多くの場面を経験することで、コンピテンシーは育っていきます。

そして、コンピテンシーを高めるために最も重要なことは、子ども自身が学習を「自分事」として捉え、成果を自分の言葉で言語化し、ある状況で身につけた能力を別の状況でも使えると思うことです。そのための手立てとして、2020年度から導入された「キャリア・パスポート」(キャリア・ポートフォリオ)を活用することは有効でしょう。

▼参考文献
ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク編著、立田慶裕監訳『キー・コンピテンシー』明石書店、2006年
松尾知明『21世紀型スキルとは何か』明石書店、2015年
京免徹雄「ポートフォリオでつなぐ特別活動のカリキュラム・マネジメント」(ぎょうせい編『特別活動のアクティブ・ラーニング』ぎょうせい、2020年)

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