深谷圭助先生の 言葉が育つ教室ー「辞書引き学習」からひらく語彙指導#7「借りたら、すぐに返す」―算数の言葉と、子どもの言葉

「辞書引き学習」で著名な深谷圭助先生が、AI時代における語彙教育のあり方について提案する全10回連載。安易にAIやデジタルディバイスに頼ることなく、紙の辞書も効果的に活用しながら子どもたちの語彙力を確かに伸ばす実践を、毎回具体的に提案します。
執筆/深谷圭助(中部大学教授・『例解学習国語辞典/小学館』編集代表)
目次
52−27=35。よくある間違いだと思っていました
先日、ある愛知県の小学校で、知り合いの先生からこんな話を聞きました。
私はしばしば、「算数授業における言語活動」についての指導を依頼されるのですが、国語ではない教科の先生方や教科書での言葉の使い方はずっと気になっていたので、その先生の話を実に興味深く聞くことができました。
二年生の算数、ひき算の筆算の学習でのことです。
繰り下がりのある二けたのひき算になると、いつも間違えてしまう子がいました。
たとえば、こんな問題です。
52−27
その子の答えは、決まって「35」になります。
正しい答えは、25です。
この「35」という答えを見たとき、多くの先生は、すぐにこう考えるのではないでしょうか。
「ああ、一の位で2から7は引けないから、逆にして7から2を引いたんだな。」
一の位は、7−2=5。
十の位は、5−2=3。
だから、35。
小さい数から大きい数は引けないので、上下を入れかえて、大きいほうから小さいほうを引いてしまう。
筆算の学習では、とてもよく見られるつまずきです。
答えを見ただけで、原因がわかったような気になる。
経験を積んだ教師ほど、そうした見立ては速くなるものです。
この話を聞いたとき、私もそう思いました。
繰り下がりの手続きが、まだ身についていないのだろう、と。
ところが、そうではなかったのです。
その子は、ちゃんと十を「借りて」いました
その子の考え方を、一つひとつたどってみると、思いがけない姿が見えてきました。
一の位は、2から7は引けません。
そこで、その子は十の位から十を借りてきます。
2に10を合わせて、12。
12−7=5。
ここまでは、まったく正しいのです。
繰り下がりの手続きを、その子はきちんと実行できていました。
問題は、その次でした。
十の位の計算を、その子はこう考えていたのです。
50−20=30。
そして、一の位の5と、十の位の30を合わせて、35。
十の位を「5−2」ではなく、「50−20」と、位の大きさで捉えています。
位取りの理解も、しっかりしているのです。
ただ一つ。
十の位から十を借りてきたはずなのに、十の位は、50のまま残っていました。
本来なら、十を一つ一の位に回したのですから、十の位は40になっていなければなりません。
40−20=20。
5と20で、25。
その子の頭の中では、借りてきた十が、いつの間にか十の位に戻っていたのです。
