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【小2~小6】認知心理学・今井むつみ先生発「プレイフルラーニング」でクラス全員が算数好きに!(前編)

「算数が好き」と答えた子どもが、クラス全員に――。算数が苦手だった子どもたちに、いったい何が起きたのでしょうか? 認知心理学・今井むつみ先生が研究者人生をかけて考えた、「学びの上でもっとも大切なこと」。実際の小学校での取り組みを通して、その考え方と実践方法をまとめた書籍『プレイフルラーニング』と実践編の『プレイフルカード』から抜粋してお届けします。

今井むつみ●一般社団法人 今井むつみ教育研究所所長。慶應義塾大学名誉教授。文部科学省 中央教育審議会 専門委員(2025年1月~)。日本認知科学会フェロー。Cognitive Science Society Fellow(アジア初)。専門分野は、認知科学、特に認知言語発達科学、言語心理学。著書に『学力喪失―認知科学による回復への道筋』『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』(共著)『言語の本質』(共著)『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』ほか多数。同時発売のカードゲーム『遊んで学ぶ プレイフルカード 算数トランプ』も。

ごく普通の公立校で教育という仕事を愛し、子どもたちの未来に夢を持っている先生たち

私は認知科学の研究者として、人間が言語を学習する仕組みや、子どもたちの概念の学びを研究しています。しばしば国内外の幼稚園、保育園で幼児のことばと概念の発達に関わる実験調査を行ってきました。最近では、小中学校の授業を見学したり、自分の開発したテストや教材を試していただいたりしています。

国内で訪れる小中学校のほとんどは、一般的な公立校です。マスメディアでは、公立校の教員はいじめ、不登校、モンスターペアレンツ等の対応に悩み、クラブ活動や行事に休日をつぶされるブラックな仕事であるかのように語られがちで、教員採用試験の受験者数も近年では大きく減少していることが社会問題になっています。しかし、ごく普通の公立校で、教育という仕事を愛し、子どもたちの未来に夢を持っている先生たちはほんとうにたくさんいます。子どもたちの未来のため、教師の立場で何ができるか考え続け、新しい授業づくりに努力している彼らは、私の研究活動の励みにもなっています。

難しい小学2年生クラスの運営を託されたI先生の取り組み

感激した実践例の一つに、X市立N小学校での取り組みがあります。

2024年春、広島県や開発チームの研究者たちと開発した「たつじんテスト」という学力の基盤となる知識と思考力を測るテストと、当時開発中だった算数のプレイフルカードの試作品が、この小学校の2年生に試験的に提供されました。「たつじんテスト」をいっしょに開発した広島県教育委員会の研究指定校だったからです。

なお「たつじんテスト」は、これまでのテストとはまったく発想が異なる、新しい学力観で子どものつまずきを発見するための学力テスト、プレイフルカードは遊びながら数の仕組みが学べるカードで、どちらも後で詳しく紹介します。

その年、N小学校の2年生の普通学級は、1クラス22人のみでした。そのうち1学年で習った〈繰り下がりのあるひき算〉ができる子は、4月の段階ではクラスのちょうど半分の11人。指を折って計算する子も、やはり半分くらい。2年生としてはかなり心配な状況でした。

国語の力も弱く、教科書を読んでも理解できない子、黒板の板書をノートに書き写すことができない子が何人もいました。この市では民間の全国学力テストを利用していますが、そのテストの平均点も全国平均より下で、このまま何もしないと学年が上がるごとにさらに成績が全体的に下がってしまうかもしれない、と先生方は考えていました。

学力の立て直しのため、このクラスを2年生から担当することになったI先生は、新学期が始まったとき、授業開始にあわせて教科書とノートを自分から机に出す子どもが少ないことに衝撃を受けたといいます。発達障害の傾向が見られるグレーゾーンの子が22人中6、7人いることも、クラス運営を難しくしていました。

この状況を見て、I先生はサポート教員とともに、まずは子どもたちの良いところを見つけ、ほめることを始めました。いじめや悪口など、ダメなことは厳しく言いますが、それ以外では子どもたちに信頼され、教室が明るい雰囲気になることを優先しました。そして、授業を理解できていないと思われる子どもには、休み時間に「今日やったところ、わかった?」などと声をかけ、「わからなかった」と言いやすい関係づくりを心がけました。

子どもたちがなににつまずいているかを明らかにする

その作戦が成功し、クラスがだんだん落ち着いてきたところで、「たつじんテスト」をしてみると、数の仕組みがわかっていない語彙が少ないなど、子どもたちのさまざまなつまずきが見えてきました。そこで、I先生は感情をあらわすことばを覚える活動や、1行でもよいから短い文で作文を書き、少しずつ2行、3行と量を増やしていく活動などでことばの力を育てるとともに、算数の基礎を強くする活動を取り入れていきました。その中で、私が提供した2種類のカードゲームも活用してくれました。

はじめI先生はカードゲームの効果を、ちょっと疑っていたようです。算数が得意でない子どもたちが楽しく遊べるのか、という心配もあったようです。それでも、かけ算の単元に入る前に、かけ算遊びのカード〈ばいばいまほうカルタ〉を試してみると、子どもたちは算数の勉強のためのカードであるとは思わず、とても盛り上がりました。

丸・三角・四角のすべてが読み札の2倍になっている取り札カードを瞬間的に選ぶには、相当な注意力が必要です。でも、子どもたちには速さを競うところが逆におもしろいらしく、「難しい」「疲れる」とは感じないようです。そして、子ども同士で「これがそうじゃない?」と助け合ったり、声を掛け合ったりして、自然なコミュニケーションも生まれていました。

〈ばいばいまほう〉の遊びかたはカルタに似ています。取り札と読み札に分かれ、どちらにも赤い丸、青い三角、黄色の四角が描かれています。取り札を場に広げておき、ひとりが親になって、積み重ねていた読み札から1枚抜き、みんなに見えるように出します。他の人は取り札の中から、そのカードの2倍の数の図形が書かれたものを探し出し、取ります。これを繰り返し、取り札がなくなったとき、持っているカードが一番多い人が優勝者となります。

ばいばいまほうかるたの遊び方

「子どもたちが楽しめるなら」とI先生も安心し、何回か使っているうちに、いよいよ算数でかけ算の単元が始まりました。

1年生の算数でつまずいている子どもに「かける」という概念を理解させるのは難しいことですが、〈ばいばいまほう〉で遊んでいた子どもたちには、「×2」は「いつもカードでやっていること」になっていました。かけ算を教える苦労を覚悟していたI先生は、授業が意外にスムーズに進むことに驚いたと言います。

授業で習うよりも前に遊びで数字にふれ合うと起こること

学年の後半では、3年生で学習する分数に先立って、分数遊びのカードを使ってもらいました。「先立って」と言っても決して「2年生に分数の授業をして、ドリルをさせる先取り授業」をしたわけではありません。分数遊びのカードには、分数をあらわす数字と、その数を意味するゲージ(数直線)とイラスト(ピザ、リンゴ、水の入ったビーカー)が書かれています。

分数遊びのカード 4/3 ピザ
分数遊びのカード 3/4 りんご
分数遊びのカード 1.33 ビーカー

〈『遊んで学ぶ プレイフルカード 算数トランプ』より 今井むつみ作/小学館刊〉

最初の1枚を除く全部のカードをプレイヤー全員に分け、場に残った1枚のあらわす数よりも大きい数を順に手札から出していきます。カードを出す人がいなくなったら、最後のカードを出した人が場に1枚出し、また一巡します。これは手札が早くなくなった人が勝ちです(トランプの大富豪と同じルール)。

低学年ではまだ分数を習っていませんが、子どもたちはカードに書かれたイラストとゲージを見ながらゲームを楽しむことができます。そのため試作カードを試してもらう学校には、低学年からの使用をすすめてきました。

I先生のクラスでは、はじめ何人かは「これ、よくわかんない」と苦手そうにしていましたが、彼らもI先生とサポートの指導員が手伝うと、すぐにひとりで参加できるようになりました。ときどき分数の大きさを読み取れないことがあっても、子どもたち同士で教え合ってくれました。

プレイフルカードを楽しむ子供たち

こうしたさまざまな活動の結果、3学期には繰り下がりのあるひき算のできない子どもは0人になり、指を折って計算する子はほとんどいなくなりました。そして、子どもたちは友だちに自分の気持ちを伝えられるようになり、子ども同士でぶつかり合うこともぐっと少なくなりました。

民間の全国テストの成績も、ほぼ全国平均と同じレベルにまで持ち直していました。小学生の算数の理解には読解力が不可欠なので、ことばの力をのばす取り組みは、算数の伸びの要因にもなっていたでしょう。

カードゲームの結果、もっとも注目した効果は

けれども、私がもっとも注目したのは、学力テストの平均点の上昇よりも、学期末に行ったアンケートで、「算数が好きですか」という質問に、「大好き」と「まあまあ好き」と答えた子どもの割合が、合計で100%になったということです。1クラス22人は人数としては決して多い数ではありませんが、全員が「算数が好き」な子どもになっていたなんて、驚きのデータです。

算数の授業内容がわからない子どもは、「算数が好き」とは言いません。もともと算数が苦手だった子が多いクラスで、カード遊びでみんなと楽しみながら算数の学習ができたことで、たった1年で全員が「算数が好き」と答えられるようになったのは、本当にすごいこと、すばらしいことだと思います。

日本では現在、教育の予算がとても限られていますが、I先生の取り組みは公立小学校の枠組みの中で実現できています。ぜひ全国の小学校で、算数が好きになる子どもを100%にしてほしいと思います。

いつのまにか算数が好きになった子どもたちは、「ドラえもん」でのび太くんの姿を見て、親に

「昔の小学生は、算数が苦手な子が多かったの?」

と不思議そうに聞いてくるかもしれません。

書籍『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』ではそんな未来に近づく方法を提案したいと思います。

そのために第1章〜第5章では、まず、現在の状況を客観的に見つめ、子どもたちの学習の困りごとの原因が本当はどこにあるかを整理し、認知科学の視点から子どもたちの学習に大切なポイントを確認します。第6章では、子どもたちが、学校で学んだことを、暗記して記憶にはあるもののまったく使えない知識─「死んだ知識」─にせず、様々な場面で使いながら、進化していく「生きた知識」にしていくために必要なレシピと、しなければならないこと(料理法)の理屈をお話しします。そして第7章では、いよいよ、「生きた知識」をつくるために、楽しみながら学びを深める「プレイフルラーニング」について解説し、なぜ「プレイフルラーニング」が大事なのかを説明します。そして、プレイフルラーニングの実践例の一つとして、私たちが作ったカードゲーム『遊んで学ぶ プレイフルカード』シリーズのいくつかを紹介し、実践した子どもたちにどのような変化がおこったのかをお話しさせていただきたいと思います。

死んだ知識と生きた知識のイメージ図

日本で学ぶすべての子どもたちが、生きた知識を身につけ、学校でも、学校の外でも、学校を卒業した後も、自分の好きなことを思い切りすることができる。そのために必要な「学ぶための基盤の知識と思考力」を楽しみながら身につけていく。プレイフルラーニング、ぜひ学校でもご家庭でも、実践していきましょう!

〈『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』「はじめに」より引用 今井むつみ著/小学館刊〉

認知心理学者・今井むつみ先生「プレイフルラーニングという考え方が生まれた背景や、認知科学や学習科学の科学的な根拠をお伝えすることを大事に執筆しました。

<書籍目次>
◆はじめに 生きた知識を身につける
【第1章 子どもたちを襲う学びの無力感】
【第2章 「なんでできないの」と責められる子どもたち】
【第3章 学校での「わからない」の原因は「学力=学力テスト得点」という社会一般の考え方】
【第4章 つまずきの見える化を目指す「たつじんテスト」がこれまでの学力テストとどう違うのか】
【第5章 「たつじんテスト」の問題からわかった学びのつまずきを引き起こす原因】
【第6章 「生きた知識」はどういう学びから生まれるか】
【第7章 プレイフルラーニングを引き起こすカードゲーム】
◆カードゲームでの遊び方についてのFAQとティップス
◆おわりに 「お勉強」か「楽しい遊び=学び」、どちらになるかは大人の腕次第

『プレイフルラーニング 楽しみながら学ぶ力を伸ばす奇跡のメソッド』
今井むつみ・著
定価:1,980 円(税込)
四六判192ページ
2026年7月30日発売 小学館
ISBN:978-4-09-389859-1
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389859

『遊んで学ぶ プレイフルカード 算数トランプ』
今井むつみ・作
価格:2,750円(税込)
B6判 カード128枚、取扱説明書1枚
2026年7月30日発売 小学館
ISBN:978-4-09-942559-3
https://www.shogakukan.co.jp/books/09942559

実際にプレイフルカードをクラスで使用している先生方の感想

2年生・分数の算数トランプ

楽しく取り組む様子が見られました。ピザのカードで取り組みました。はじめは分数の大きさが分からず、難しそうな様子でまちがえながらだったのですが、下の線の長さをみたら分かると気づいた子がいて、2回目は自分たちで考え話し合いながら進める様子が見られました。

2年生・分数の算数トランプ

初めはイラストをみてもなかなか大小関係がわからず、ただただカードを順番に出しているグループが多かったです。しかし、進めるにつれて「これとこれ、一緒かな?」「この線を見ればいいんじゃない?」というつぶやきが聞こえてきました。最後まで大小関係がわからない子も少なくありませんでしたが、「またやりたい」という声が多くあがりました。イラストや下の線を見ても大小関係がわからない子が多かったにも関わらず、難しいと感じずにみんな楽しんで行うことができていたので、ゲームを通して少しずつ学んでいくことは、実際に学ぶ時のハードルを下げることにつながりそうだなと感じました。

5年生・ばいばいまほうカルタ, 時計カルタ, 分数の算数トランプ, 単位トランプ_長さ, 単位トランプ_液体_ゲージのみ

子どもたちは、プレイフルラーニングをとても楽しみにしています。「まだプレイフルラーニングやらないの。」と声が上がることが増えました。また、実施すると集中して取り組み、なおかつ笑顔が増えてきました。子どもたちの振り返りを見ると、「勉強になった。」「もっと早くやりたかった。」「私、時計が苦手だったからもっと早く遊べていたら……。」などの声がありました。実践していく中で、すぐには結果は出ないと思いますが、低学年から少しずつ継続して行っていくことが、子どもたちの学びに繋がるんだなと感じました。今後が楽しみになりました。

6年生・ばいばいまほうカルタ, 算数トランプの約分カード

笑顔で楽しんでいました。学習が苦手な子も「もう一回やろう!」とグループの子に再戦を挑んでいました。朝学として取り入れていますが、次回を楽しみにしている子が増えてきました。

6年生・分数の算数トランプ

クラスではなく、別室登校している児童5年生と6年生と担当(教員と支援員)の4人で行いました。「分数わからない」と言ってやろうとしなかった子も下のテープ図の長さでその量が分かり取り組むことができました。何度も「もう一回やりたい」と言っていました。


文/今井むつみ
編集協力/長野伸江 
構成/小学館辞書編集室
イラスト/スタジオびりやに

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