次期学習指導要領を先取り! 子どもたちの「多様性を包摂」する授業実践レポート~神奈川県葉山町立上山口小学校3年1組<後編>【PR】

「障害の社会モデル」に基づき、学級という学習環境そのものを変えていくことが求められる今後、学級担任はどのような授業づくりをするべきなのでしょうか? 株式会社LITALICO(リタリコ)の教育ソフトを自治体レベルで導入、先端的な実践に挑む葉山町立上山口小学校の授業レポートの後編をお届けします。担任・大窪教諭の授業も、いよいよ佳境です(この授業レポートの前編はこちら)。
提供/株式会社LITALICO
目次
⑥気持ちを切り替える方法をワークシートに書く
大窪教諭が黒板に模造紙を貼り、説明しながら書き込んでいきます。

みなさんはこのシーンを考えてみてください。休み時間に教室でAくんに、「緑のペンを貸して」と言ったら、「ダメ」と言われたので、「ケチ」と言ったら、けんかになりました。
それを聞いた子どもたちが、自分の意見を口にします。
ケチと言ったからだ。
貸してあげないのが悪い。
まず、気持ちをキャラクターとして表しましょう。今、どんな気持ちなのか、自分の心に聞いてみます。僕は怒りの気持ちをもっているんだけど、怒りにもたくさんの種類があります。これを見てください。
大窪教諭が、「怒りの感情のカード」をスライドで見せます。
カードには、「イライラ、不機嫌、不満、落ち着かない、ピリピリ、むしゃくしゃ」……などと書かれています。
たくさんの怒りの感情がある中で、今の僕の気持ちに一番しっくりくるのは、イライラかな。一番近い気持ちを一つ選んだら、名前をつけます。僕の心の中のイライラした気持ちには、「イライラさん」と名前をつけました。
大窪教諭がそのキャラクターのイメージを絵に描き、子どもたちはそれを見て笑いました。

怒りのキャラクター、「イライラさん」です。ここからはみなさんにも考えてほしいです。自分の中に、そういう怒りの感情を切り替えるための心のスイッチをもっている人はいるんじゃない?
子どもたちが挙手し、指名された子どもが次々に発言します。
トイレで3分ぐらい深呼吸をする。
シャワーを浴びる。
布団にもぐって、わーっ!て叫ぶ。
寝る。
何かをつぶす! 殴る!
自分の部屋に一人でいる…。
いろいろなアイデアが出てきて、子どもたちはみんな笑顔。教室はなごやかなムードに包まれます。

ありがとう。僕がみなさんの心のスイッチを聞いて、参考にしようと思ったものは、一人になることと、わーって叫ぶこと。もう一つは……、これはみんなマネしちゃダメだよ。

大窪教諭はワークシートに「ビールを飲む」と書き、子どもたちは大笑いです。
僕はこの心のスイッチがないと、人生をやっていけないので…。みなさんはあと10年待ってね!
ここで「まなび教材」から、気持ちが爆発する前に落ち着かせるためのアイデアを紹介しました。
★まなび教材3「みんなで作ろう!怒りの火山シート」より(気持ちが爆発した後にできるクールダウンリスト 一覧)

他にも、音楽を聴くとか、自分の落ち着く場所へ行く、絵を描く、大声を出す、相談する、深呼吸する、水を飲む、読書をする、ストレッチをする……なんていうのもあるよね。では、ここからは自分の心のスイッチについて考えてもらいます。
心のスイッチは、怒っているときだけ使うわけじゃないからね。
例えば、「明日、全校児童の前で発表するように」といきなり言われたときの不安な気持ちや、嫌な気持ちや、緊張する気持ちに対しても自分の心のスイッチが使えます。
または、寂しい気持ち、悲しい気持ちになったときにも使えます。だから、自分で考えてみたいシーンがある人は、それについて考えていただいて大丈夫です。「急には思い浮かばないよ」という人は、僕が提示したイライラのシーンで考えてみるといいかも。まず、その場面で自分はどんな気持ちになるかを考えて、その気持ちのキャラクターと、それとの付き合い方も考えてみてください。どうぞ。
質問は個別に受けます。
ここで、授業は残り10分になりました。子どもたちはそれぞれワークシートに「気持ちを表すキャラクター」を描き、その名前、その気持ちとの付き合い方を書き始めます。
ワークシートの記入例
★まなび教材4「気持ちキャラクターとの付き合い方を考えよう」より

大窪教諭は、活動中の子どもたちの傍に行き、なかなか書き出せない子に次のように問いかけます。
「その状況になったら、どんな気持ちになる?」
「自分が考えてみたい場面でいいんだよ」
「キャラクターを考えたら、心のスイッチを考えてみて。このキャラクターとどんなふうに付き合っていく?」

一人で作業を進める子もいれば、友達と話しながら進める子もいて、教室内はにぎやかです。笑い声があちこちで聞こえます。キャラクターを描いた後、「見て!」と互いに見せ合う子どもたちもいます。




それ、かわいい!
ヤバい!
どの子が描くキャラクターも、個性豊かです。自然に色鉛筆で色を塗り始める子もいます。誰かの真似をするのではなく、それぞれが自分で考えて伸び伸びと描いています。

★「まなび教材」の二つのメリット
「まなび教材」について、私が気に入っている点は二つあります。
一つ目は、膨大な数(約39,000枚)があることです。「こういう授業をしたいから、こういう教材が欲しい」と思って探してみると、大体、あります。選択肢がたくさんありますので目の前の子どもたちが困っていることに合わせて授業をつくることができますし、教材の組み合わせ次第でいろいろなパターンの授業がつくれます。
例えば、私が今回使った教材の中で、「これは今のクラスの子には向いていないかな…」と思うものがあれば、キーワードで検索して、別の教材に入れ替えることもできます。
ただ、膨大な数があるがゆえに、探すのが大変かもしれません。だからこそ、通常の学級での先行事例として、私は授業を行っているつもりです。
私は今後、他の先生方の授業づくりのベースになる、「おすすめ教材一覧」をつくっていきたいと思っています。それをベースに一部を差し換えていただいて、自分なりにアレンジして活用してもらえればいいと考えています。
二つ目は、教材を他の先生と共有しやすいことです。もし私がオリジナルの教材を作るとなれば、試行錯誤を繰り返す必要があり、誰が使っても問題ないレベルまで作り上げるまでにはかなりの時間がかかります。その点、「まなび教材」なら現場ですでに十分な検討と実践が蓄積されているものばかりで、どの先生でもすぐに使えます。
⑦「心のスイッチ」を発表する
書き終わった人で、「私はこんな気持ちについてこんなキャラクターを考えて、上手な付き合い方として、こういうことを考えました」と、何人か教えてほしいな。
10人ほどの手が挙がりました。
どんな気持ち?
イライラ。
キャラクターの名前は?
「イライラネコ」。
「イライラネコ」との上手なつき合い方は?
飼っている猫のことを考える。
確かに。僕も犬を飼っているから、犬がしっぽを振っている姿を想像すると、ほっこりしますね。
次に発言した子は、他の子とは違う独自の発想をしていました。
どんな気持ち?
嬉しい気持ち。
キャラクターの名前は?
「うれしさマン」。
どうやって付き合うの?
楽しく遊んでいるとき、おいしいものを食べるときに「うれしさマン」が出てくる。
そうかそうか。嫌な気持ちのときに、嬉しい気持ちを思い出すために、「うれしさマン」を心のスイッチに使うんだね。
★予想外だった逆転の発想
「ネガティブな気持ちをどう抑えるか」を考えていたのですが、この子は、「楽しく遊んでいるとき、おいしいものを食べているときなどに嬉しい気持ちになるから、嬉しくないときや嫌な気持ちのときに、このスイッチを入れると嬉しい気持ちになれる」という逆転の発想をしました。
これには「なるほどな」と思いました。子どもと授業をしてみて気づかされたことです。こういう意見が出てきて、とてもよかったと思います。
⑧振り返りを書く
大窪教諭「ワークシートの裏は、振り返り用紙になっています。『わたしは』『ぼくは』で書き始めて、今日気づいたこと、思ったことを一行でもいいので書いてください」
★振り返りは、「わたしは」「ぼくは」で書きだす
私のクラスでは、「わたしは」「ぼくは」から振り返りを書き始めることにしています。2024年度は4年生の担任をしていたのですが、4年生なら何も観点を与えなくても、学びが深まってくれば自然と振り返りの内容も深まっていきました。
しかし、3年生の場合、観点を示さないと子どもたちは何を書いていいかわからなくて、内容の質も上がってきません。
総合的な学習の時間の講師の方に相談したところ、「わたしは」か「ぼくは」から書き始めて、「今日気づいたことや感じたことなど、なんでもいいから書いてごらん」というふうにすると書ける、と教えていただき、これを続けてみたところ、子どもたちが書けるようになりました。
「頭に思い浮かんだことを、文章としてちゃんと成立してなくてもいいから、とにかく書く」という、ジャーナリング的なイメージで振り返りを書いてもらっています。
★授業を終えて
この授業で予想通りだったのは、子どもたちが自分の感情をコントロールできなくて困っているとわかったことです。だからこそ、この授業にみんながぐいっと入ってきて、自分事として考えていたのだと思います。
反省点としては、もう少し時間をとって、もっとたくさんの子どもに自分の心のスイッチについて話してもらいたかったですね。それが子どもたちの気づきにつながると思うからです。「こういうときにこうするといいよ」と大人から言われるよりも、友達がやっていることを聞いて『なるほど。確かに』と思うほうが実感がもてるし、やってみようと思えるはずだからです。
このクラスの子どもたちは笑ったり、思ったことを口にしたりと終始にぎやかでしたが、どの子も大窪教諭に問われたことを、自分事としてしっかり考えていました。作業への着手が早く、個性豊かなキャラクターの絵や、振り返りの文章を時間内にしっかりと書き終えていました。
この授業の時点(2026年3月)までに、「総合的な学習の時間」「作家の時間」等の実践を通して、自分を表現する経験を着実に積み上げてきたことがうかがえました。
★「まなびプラン」と「まなび教材」が活躍するのはこんな場面
「まなびプラン」と「まなび教材」は、二つの場面で役に立つと思います。
まず、子どもが今、困っていることに対して役立ちます。
例えば、すぐに喧嘩をしてしまう、落ち着かないなどの行動をしやすい子どもがいたら、「まなび教材」を活用した授業を行うことで、感情をコントロールすることについて考える機会をつくることができ、自分の感情と冷静に向き合う経験をすることができます。
二つ目は、「まなびプラン」によるアセスメントをベースに、「この子たちに必要なことってなんだろう」と考え、長期的な視点に立って「まなび教材」を活用することができます。つまり、短期的な視点と長期的な視点、両方の場面で役に立つのです。
これからのインクルーシブ教育を考える
上山口小学校の田中 基校長は、特別支援教育について造詣が深く、当事者だけではなくクラス全体の子どもを支援することの重要性に早くから気づいていた、と言います。

葉山町立上山口小学校 田中 基校長
たなか・もとい。大学卒業後、養護学校(現在の特別支援学校)で9年間勤務。その後、中学校の理科教諭となり、通常の学級での特別支援教育の重要性に気づく。内地留学で横浜国立大学にて特別支援教育についての研究を行い、当事者だけではなく、クラス全員への支援を行うことの有効性を示す論文を執筆。
<田中 基校長のコメント>
2025年12月にLITALICOさんに本校で研修をしてもらい、「まなび教材」の中には、特別支援学級の子供だけではなく、通常の学級の子どもたちにも使えるものがあることを知りました。ユニバーサルデザインという言葉がありますが、何らかのハンディキャップのある人にとって使いやすいものは、一般の人にとっても使いやすいわけです。それと同じで、当事者だけではなく、クラスの全員に支援をしたほうが、それぞれの心が満たされてクラスの雰囲気がよくなるのだと、私は以前から考えていました。
LITALICOさんが特別支援教育に取り組む姿勢は、私がこれまでに進めてきた研究と一致していますから、「まなび教材」を使って本校でぜひ授業をやってもらいたいと思いました。今回が初挑戦です。
今の子どもたちはレジリエンスが低く、打たれ弱い面があります。ちょっとうまくいかないことがあると、「もう僕はできません」と言い出します。ですから、自分を助けたり守ったりして、立ち直れるようになることは非常に大事であり、自分を助ける方法を学校で教える必要があると考えます。
今回の授業は大窪先生から、「こういう授業をやりたいのですが、どうでしょう」とご提案いただき、詳しい話を聞いてからOKを出しました。私は、「先生たちのチャレンジを支えることが管理職の仕事」だと考えています。
もちろん、新しいことにチャレンジする際には、どんなに綿密に進めてもうまくいかないことが出てきます。職員室内部からも「ちょっと困ってるんですけど…」という声が上がることもあります。
その辺りは私の方で全て受け止めます。チャレンジした上で見えてきた改善すべき点については、「次にやるときはこの辺をクリアした状態でやろう。でも、これは良かったよね」などと、次につないでいくようにしています。
葉山町では2024年度より正式に導入。メリットは?
葉山町では、インクルーシブ教育を積極的に推進しています。LITALICOの教育ソフトを2023年度からトライアルで使い始め、2024年度から正式に導入。
現在、町内の全小中学校(中学校2校、小学校4校)の特別支援学級で使用中です。そのメリットについて、葉山町教育委員会指導主事・山口慎一郎先生に聞きました。

<葉山町教育委員会 山口慎一郎指導主事のコメント>
近年、町内では配慮を要する子どもが増えています。特別支援学級に在籍している子どもには個別の教育支援計画・指導計画の作成が必須ですから、まずは「まなびプラン」を使い始めました。そのメリットは三つあります。
一つ目は、小学校から中学校への引継ぎがスムーズになったことです。以前は、各小学校において個別の支援計画・指導計画の書式に多少のばらつきがありました。そのため、中学校には小学校ごとの異なる書式の指導計画が集まることで、中学校で改めて作り直す必要があり、この作業が中学校の教員たちの負担になっていました。現在は、同じ書式のものが各小学校から引き継がれ、中学校では続きを記入する形で作成することができます。特に、中学校の特別支援学級の担任たちから、「本当に助かる」という声が聞かれます。
二つ目は、特別支援教育の知識や経験が少ない若手教員の負担が軽減されたことです。
最近は若手の教員が増えていて、経験年数の少ない方が特別支援学級の担任になることも多くなりました。小学校では1年生に上がった時点で支援計画をつくるわけですが、経験や知識が少ない教員がゼロから作成するのは大変なことです。その点、「まなびプラン」を使えば、アセスメントの文例があり、「まなび教材」の中にもヒントがあります。特に、初めて特別支援学級の担任になった教員にとっては、「専門的な知識が少なくても書けるのでとても助かる」と大変好評です。
三つ目は、アセスメントをもとに客観的な視点を踏まえた記録を残せることです。今までは、担任の主観が記録に入りやすい傾向にありました。「まなびプラン」を使ってみると、自分の主観とあまり相違がなくて「やっぱり」と思うこともあれば、「自分にはそういった視点はなかったな」と感じるような、新たな発見もあるようです。
今回の授業は、「まなび教材」を通常の学級の学級活動で使っていました。通常の学級にも配慮を要する子ども、担任が支援のあり方に悩んでいる子どもはいますので、今後、町としては、特別支援学級の子どもだけではなくて、少しずつ通常の学級での活用を広げていきたいと考えています。
300以上の自治体で選ばれています!
個別の指導計画やアセスメントのデータを記録するシステムを、もしも各自治体で開発するとしたら、大変な手間と費用がかかります。その点、既存のシステムを使うほうが手間がかからず、費用面での負担も小さくなります。
LITALICOの教育ソフトは、現在トライアルも含めると、全国の約300の自治体で導入されています。文部科学省指定のフォーマットをベースに作られており、どの自治体にも対応できると言います。
そのメリットは、業務負担の軽減に貢献することだけではありません。先生方に精神的な余裕ができれば、困っている子どもは通常の学級にもたくさんいることに気づけるはずです。当事者を変えようとするのではなく、環境を変えていくために、ぜひ使ってみてはいかがでしょうか。
「まなびプラン」「まなび教材」「まなび動画」についてもっと知りたい方は、LITALICO公式サイトをご覧ください。
https://s-edu-soft.litalico.jp/?utm_source=shougakukan&utm_medium=casestudy
取材・文/林 孝美
撮影/西村智晴

