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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #3 昔の人たちの贈り物

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北海道公立小学校教諭

藤原友和
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載。原則として毎週公開します。今回の執筆者は、北海道室蘭市出身の小林雅哉先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/小林雅哉(北海道豊浦町立礼文華小学校教頭)

はじめに

昨年度まで4年間、自分が生まれた街である北海道室蘭市で勤務しました。

天然の良質な掘り込み港である室蘭港を有したこの街は、かつて石炭の積出港として北海道の発展を支えてきました。その後、製鉄所が作られ、鉄の街として発展していきます。私が勤務していた学校は、その工場地帯のすぐそばにありました。

私自身も小さな時から目にしてきた工場の風景。私にとっては当たり前のもので、子供の頃はその価値や歴史に興味をもつことはありませんでした。しかし、教師として故郷に赴任し、教師として街を見つめてみたとき、そこは教材の宝庫でした。「えっ、ずっと住んでいたけれど、こんなこと知らなかったよ。」という発見がたくさんありました。そして、その度に故郷を誇らしく思ったものです。「身近なものほど、よく見ていないものなのだなあ」と実感させられました。

きっと、子どもたちもそうなのだと思います。身近であるからこそ、じつはあまり感じていない故郷の良さや素晴らしさがあるのです。それを見て・感じられるような授業をつくれたら…。そんな思いで組み立てた授業です。

1 教材について

室蘭という地名の由来は「小さな下り坂」という意味のアイヌ語「モルエラニ」です。その名の通り、室蘭市は坂の多い街です。崎守町というところに「ムロラン地名発祥の坂」という場所がありますが、このような坂が街のいろいろなところにあります。

室蘭地名発祥の坂。
室蘭地名発祥の坂
室蘭地名発祥の坂。

しかし、「鉄の街」の室蘭ですから、製鉄所などを建てるための工業用地を作るためには、広く平らな土地が必要でした。その土地はどうやって用意したのでしょう? そうです。埋め立てによって作られました。室蘭市は、平地が少なく、居住地などを確保するためにも埋め立てがたくさん行われた街です。市の面積の約1割が埋立地です。民間事業や公共事業で、明治から平成にかけて多くの工事が繰り返されました。それによって、室蘭港とその周辺は今の形になっていきました。勤務校の児童がよく利用していたスポーツパークやお祭りの会場、室蘭駅なども、その埋立地に建っています。

旧室蘭駅付近。一面に広がる平らな土地は埋立地。
旧室蘭駅付近。一面に広がる平らな土地は埋立地。
右:体の向きを変えると、急こう配の坂道。こちらがもとからあった土地。
体の向きを変えると、急勾配の坂道。こちらがもとからあった土地。

埋立地の一角に実際に立ってみると、ものすごい広さであることが分かります。

何気なく普段から利用してきた場所。実はそれらが、過去にたくさんの人たちが苦労して作り上げた地面の上にある。私自身、それを初めて知ったときには、先人の偉業に頭の下がる思いでした。

私が勤務していた2022年に、室蘭市は開港150周年と市制施行100周年の節目を迎えました。このこともあり、この題材を教材化してみようと考えました。

2 授業の実際

対 象:小学6年
主題名:昔の室蘭人からの贈り物
内容項目:Cー17 伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度

導入 「『昔の室蘭人からの贈り物』と言われたら、何をイメージしますか?」

はじめは「?」となります。
普段の生活とはかけ離れた問いですから、仕方ないでしょう。少し考えてから、つぶやきが聞こえてきます。

  • この
  • 製鉄所
  • 白鳥大橋
  • 焼き鳥
  • カレーラーメン
  • 歴史

など、古くから室蘭にあるものが挙げられます。どの考えも認めていきます。

子どもたちは3~4年生の地域についての学習で、ある程度、街についての知識をもっていますので、それを思い出しながら話します。

私から、次の地図を提示します。

室蘭市沿岸部、埋め立て前の地図
※『室蘭港建設史』に掲載されていた地図を参考に、私が描いたものです。以下、地図は同様。

「この地図を見て、何か気付くことはありますか?」

  • 今の室蘭と形が違う
  • 場の近くはもっと四角い形になっているはず

ということに、子どもたちは気付きます。5年生での社会科の学習でも、工場周辺が埋め立てられていたことは既習ですので、想起させます。クラスには釣りによく行く児童もいますので、体感的に「港はもっとカクカクしている」ということを知っていたりもします。

子どもたちが現在の実物との違いに気付いた頃合いで、埋め立てられた後の様子を地図で見せます。

室蘭市沿岸部、埋め立て後の地図

ピンク色で塗られている部分が、後から埋め立てられてできた土地です。

子どもたちは、ここまでは既に社会科で学習済みですが、「結構広いよね」と、改めてその面積の広さに驚いている様子でした。社会の授業の様ですが、左下にある「1km」に目を向けさせて、どのくらい広い範囲が埋め立てられているのかを確認しました。

また、「埋め立て」について、「ただ単に海に土をたくさん入れる」と思っている児童もいると思ったので、短めのYouTube画像を見せて、どのような作業をするかイメージをもってもらいました。

「埋め立てて作られた土地に、今、何があるでしょうか?」

これは、3・4年で学習した副読本には記載されていなかったことです。

子どもたちは、「分からない」「え~」「工場じゃないの?」という反応です。あてずっぽうでいろいろな場所を言う子もいます。とりあえずいろいろと声を出してもらった後に、次の地図を見せます。

現在の地名が入った地図

子どもたちが放課後によく遊びに行く体育館があるスポーツパークや港まつりの会場になる入江公園、ソフトクリームがおいしい道の駅や、「家族で行ってきたよ」という話をよく聞く温泉、大型スーパーなども、埋立地にあります。

子どもたちは「他にもあるんじゃない?」「あのお店は?」と気になったようですので、少し時間をとって調べてもらいます。自分の親が勤めている工場やよく行くコンビニなども、埋立地にあるものが少なくないことに気付いていました。

「もしも、埋立地がなかったとしたら、どうなっていただろうね?」

  • 別の場所に建っていたのかな
  • でも、建てる場所がないんじゃないの
  • 工場とかがないと、困る

といった声が出ていました。

「埋立地を作った人たちは、どんな願いをもっていたのでしょう」

 子どもたちに少し考えさせてから、次のことを少しかみ砕いて説明します。

  • 1889年(明治22年)8月に田中良兵衛、栗山勇治という人たちが発起人になり、室蘭港埋め立て工事起業出願委員会を発足させた
  • 埋め立ての許可をもらうために提出された「室蘭港民埋立熱望主意書」というものが残っており、次のような内容が書かれていた

 埋立地は一には個人々々の土地をうることであり、一つは未来数万戸人民のため、永世保存すべき共有地を設けることである。未開中は率先して来住したわれわれの意を後世に表わすことにもなる (『室蘭のうつりかわり(編集:室蘭市史編集)』P170より引用)

(『室蘭のうつりかわり(編集:室蘭市史編集)』P170より引用)

自分たちの土地を手に入れたいという気持ちと同時に、「未来の室蘭に住む人たち」のことを考えていた、ということを押さえます。

「今日の授業の感想を書きましょう」

  • 昔の室蘭人が、私たちに残してくれた埋立地を大切に使っていきたいと思った。
  • 埋立地を作ってくれていなかったら、スポーツセンターなどもなかったので、作ってくれてありがとう、という気持ちになった。
  • 室蘭に埋立地がたくさんあったことは知っていたけど、それが自分たちの生活とこんなに関係があったとは知らなかった。
  • 埋立地を作った人たちのように、僕も未来の室蘭に住む人たちのために、何かを残すことができたらいいなと思った。

子どもたちは、普段は意識することもなくただ踏みしめている土地にも、先人たちの努力や思いがあったことを知り、そのことと今の自分たちの生活がつながっていることに気付き、自分たちも室蘭市民の一人として、できることをしていきたいという思いをもっていたのではないかと思います。

3 どこにどのようにつなげるか

「室蘭市」でしか使えない材であると思いますので、汎用的ではないと思います。しかし、どの学校でも3・4年生の社会科では地域の歴史や文化についての学習を行うと思います。社会科の学習の中ではさらりと流されていた部分をちょっとだけ詳しく見てみると、地域に暮らしていた人々の思いや努力が強く感じられるものがあるかもしれません。それを改めて道徳の材にしてみるというのは、面白いのではないでしょうか。「もう、習っているはずだ」と思っていることの中にも、じつはまだ深掘りの余地があるように思います。

社会科に限らず、他の教科等の中にも道徳と関連する部分はたくさんあります。あえて、それらを題材としてみることで、「教育活動全体で行う道徳教育」の実現につながるのではないかなと思います。

また、6年生は修学旅行と総合的な学習の時間を絡めている学校も多いのではないでしょうか。この授業を行った学校は、小樽市・札幌市に修学旅行へ行きました。空知の炭鉱、室蘭の鉄鋼、小樽の港湾は、明治以降の北海道の近代化を支えました。それら3つはまとめて「炭鉄港」と呼ばれ、日本遺産に指定されています。この年の総合的な学習の時間は、炭鉄港を柱に組み立てており、その学習につなげる入り口としてこの授業を活用しました。

いろいろな場所に子どもたちが足を運んだ際に、「この場所にも、先人の思いや努力が込められているのではないか」と想像することにつながっていけば嬉しいなと思います。

4 おわりに

小学校学習指導要領解説 特別の教科道徳編「Cー17 伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」では、5・6年生の指導の要点として「受け継がれている我が国の伝統や文化を尊重し、更に発展させていこうとする態度を育てることが大切」であると書いています。この伝統や文化というものは、「はじめに」でも書かせていただいたように、身近にあればあるほど気付きにくいという側面があるように思います。

「○○は昔からこの街に伝わっている、伝統文化です」といったように、明文化されているものについては、当たり前すぎてその価値を考えようとしないことが多いのではないでしょうか。また、いつもそこにあるものは、当たり前すぎてその価値を考えようとしないことが多いのではないでしょうか。
そういう「見えづらいものを見てもらう」ことができるような道徳授業をつくることができたらいいなあと常々思っています。なかなか難しいと感じることばかりですが、これからもつくり続けていきたいです。つくり続けることでしか、「見えないものを見ようとする目」は身に付けられないと思うからです。

次回の執筆者は、北海道函館市の長澤元子先生です。
高校で、地域教材道徳がどのように展開できるのか。私自身とっても興味があります。

皆様もぜひ、お楽しみに!

参考文献
北海道開発局、室蘭開発建設部、室蘭港湾建設事務所『室蘭港建設史』
室蘭市『室蘭のうつりかわり』

※この連載は毎回執筆者が交替し、原則として毎週公開します。どうぞお楽しみに!

編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。

単行本「オリジナル地域教材でつくる!「本気!」の道徳授業」カバー
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