小1の国語と算数で「聞く力」を育てるアイデア
最近、注意ばかりするようになっていませんか? それは、子どもたちに「聞く力」がないことが原因かもしれません。小一の授業の中でも多くの時間を占める、国語と算数の授業時間の中で、聞く力をつけるアイディアを大阪府追手門学院小学校講師・多賀一郎先生にご紹介いただきました。
用意するものは一切ナシ! 授業も学級もきっとうまくいきますよ。
国語・算数の時間に「聞く力」を育てる
「聞く力」がすべて
一年生で絶対につけるべき最大の力は、「聞く力」だと断言します。「聞く力」さえ身についていれば、授業も学級も全てうまくいくでしょう。一年生の多くは、最初から先生の話を聞かないということは少ないものです。
しかし、一か月も過ぎてくると、緊張も解けてきて「きちんと話が聞けない子ども」が増えてきます。そこからが大変です。
授業中の「聞く力」というものがあります。小学校では、学級担任の授業時間が一年間に1000時間もあります。その時間の「聞く」をどう鍛えるかによって、全てが変わっていきます。
まずは、先生の話を一回で聞き切る力です。先生が何度も言い直しをしているようでは、子どもは聞き切ることができません。できる限り一回しか言わないということを心がけましょう。
また、聞いていないときには、困らせるということも、時には必要です。先生が聞くことへの意識を高くもっていないと、「聞く力」をつけることはできません。
聞き入る時間をつくる
先生の話にじっと聞き入る時間をつくりましょう。僕は国語の時間に「聞く勉強」というものをしていました。「今から、聞く勉強です」と言うと、子どもたちはさっと机の上の物を全て片づけます。
そして、よい姿勢になって、僕が話し始めるのを待っていました。全員がそろったら、楽しいお話(ストーリー・テリング)の時間が始まります。難しいことではありません。昔話の『桃太郎』や『かちかち山』『かにむかし』などを語ってあげればよいのです。
子どもたちの中には、おうちでお話などしてもらったことがないという子どもが、たくさんいます。たとえ、「知ってるー」という声があっても、気にせずに話し始めれば、子どもたちは必ず聞き入ります。お話にはそれだけの魅力があるのです。
どうしても話を覚えられないというならば、絵本を読み聞かせするとよいでしょう。ただし、絵本は、絵を見ながら読み聞かせてもらうものですから、子どもたちの視線は絵のほうを向いています。
それに対して、ストーリー・テリングでは、子どもたちの目は先生のほうに注がれます。先生も子どもたちの反応を見ながら語ることができるので、一体感がありますよ。
聞くルールを教える
国語に限らず授業の全てにおいて、また、学級指導でも、聞くルールというものは必要です。ルールがあまりたくさんになると、子どもたちも守れません。先生は守らせようと必死になって、注意ばかりすることになります。そうならないように気をつけましょう。ルールは必要ですが、少ないほどよいのです。
一年生には、考えさせるよりも、聞くルールを教えたほうがよいと思います。
- 話している人のほうへ顔を向ける
- 人が話しているときは、自分は話さない
- 手遊びしながら聞かない
僕は一年生の最初から、「人の話を聞くときは、心と目を相手に向けて聞きましょう」 と教えます。「心を向ける」などと難しい言葉は、一年生にはわかりませんが、折に触れて、「心を向けるとは、こういうことなんだよ」と、指導していけば、だんだんとわかっていくものです。
国語の聞き取りゲームで集中聞き
「聞く力」をつけるゲームを国語の授業の中に取り入れていきましょう。子どもたちは楽しみながら集中して聞くようになります。
●● なかまはずれを見つけよう ●●
教科書の付録のところに言葉についてまとめたものがついています。これはどの教科書にもありますが、
◆あさごはん
(ごはん・パン・おかず・おちゃ・ぎゅうにゅう)
◆いえ うち
(おじいさん・おばあさん・おかあさん・おとうさん・おにいさん・おねえさん・おとうと・いもうと)
◆そうじ
(ほうき・ぞうきん・バケツ)
というように分類されています。これを使って、語彙指導と共に「聞く力」をつけるゲームをします。
「今から先生の言う言葉の中で、あさごはんの仲間に入らないものを一つ言いなさい」
「ごはん・パン・おかず・コップ・おちゃ」
と言って、仲間外れを見つけさせます。たったこれだけのことなのに、ゲーム意識をもつだけで、子どもたちはものすごく集中して聞きます。
●● おちた、おちた ●●
全員立って、先生が
「♪おーちた、おちた」と言うと、
「♪なーにが、おちた」と歌わせます。
そこで、少し早口で
「〇〇が落ちた!」と言って、そのものに対する格好をさせます。 例えば、
「石が落ちた!」と言えば、さっと頭に手を乗せて守ったり、
「雪が空から落ちた!」と言えば、手をかざして受け止めようとしたりします。
「お母さんの雷が落ちた!」と言ったときの子どもたちの反応は、こわがったり、きょとんとしたりで、千差万別で面白いものです。こういうことにも、個性が出ます。
●● 三文字しりとり ●●
3音でのしりとりをします。「ウッホッウッホッホ」の掛け声で気持ちをそろえ、机を二つバンバンと叩いて、リズムをとりながらスタートします。三文字のしりとりをリズムよく続けていきます。集中して聞いていないとしりとりができないので、子どもたちは必死です。もちろん、2音や「ン」のつく言葉は×です。
聞くトレーニングを継続的に
私は一年生から六年生まで「聞いてQ」という聞くためのトレーニングをしています。子どもたちに3分程度の短い文章を読み聞かせして、その後、いくつかの問題に答えてもらいます。
「おはようございます」
とあいさつしたら、おじさんもかぶっていたニットのぼうしをぬいで、
「おはよう、えっちゃん。朝から元気いっぱいだね」
と、あいさつを返してくれました。それだけで、私は、とても気持ちよくなりました。
このような文章を読み聞かせた後、
問一 さんぽのとちゅうで、だれに会いましたか?
問二 おじさんは、どんなぼうしをかぶっていましたか?
問三 おじさんは、なんと言い返してくれましたか?
というような問題を出すのです。
子どもたちはものすごい集中力で話を聞きます。くり返して継続していくと、子どもたちに「聞く力」がついていきます。
算数の授業での「聞く」とは
算数という教科において、とくに聞く指導というものはありません。しかし、国語に次いで授業数の多い算数です。一年生の「聞く力」を鍛えるための大切な機会だと考えましょう。
一年生の算数で圧倒的に多いのは、器具を使った操作活動の時間です。おはじき、色板、積み木、ブロック、お金、数え棒などのさまざまな器具を使って操作しながら算数の概念をつくっていきます。色板を使っていろいろな形をつくったり、ブロックで数の結合分配をしたりします。
それぞれの活動には、全部違う意味や目的があります。そのため、自由に遊ばせるだけではなく、ポイントポイントでの的確な指示が必要となります。
先生の指示通りに操作しないと、活動そのものの意味が薄れてしまいます。例えば、「あわせていくつ、ふえるといくつ」というような単元で、ブロック三つとブロック二つを両側から押してくっつけて五つで一つにするという活動をさせるとします。
「左の三つのブロックと、右の二つのブロックを、両側から押して、くっつけることが『あわせる』ということなんだよ」と言って、その通りにさせます。先生の手本を目で見ることも大事だし、言葉で「左の三つ」と「右の二つ」をしっかり聞き取って、同時に動かさなければなりません。もし、一つずつ動かしていけば、3 + 2 = 5 のイメージがつくれなくなります。
算数には独特の言い方があります。耳を使って、独特の言い方に慣れていくこともとても大切です。10の合成分解は、これからの算数学習において、最も基礎的な力となる大切な力です。ぱっと聞いて、さっと理解する練習をさせましょう。
例えば、数字を一つ見せて、「あといくつで、10になりますか?」と聞いていきます。「あといくつ」という概念も、けっこう難しい概念です。くり返し聞くことで、頭に入っていきます。集中して聞くことと、言葉として定着することを同時に行っているのです。
ここでも、聞くことが重要な役割を担っているのです。
話すことと聞くことをセットにして
次のようなお話をさせる単元があります。
りんごは上から△ばんめです。
下からは○ばんめです。
このときに、子どもたちがペアになり、お互いに話すようにします。そのときに「うなずきながら、笑顔で聞きましょう」と、指示します。これは、友達の言葉の聞き方を教えているのです。
そして、話し手は、受け止めてもらっているという心地よさを味わうのです。アクティブ・ラーニングにも通じていく「聞き合い」の第一歩にもつながっていく活動です。
「ふえたり へったり」の単元では、バスに動物たちが何匹か乗ったり降りたりをくり返して、「今、何人乗っていますか」とたずねます。これも、書いてあることを読んで考えるだけではなく、先生の話すことをよく聞いて考えるようにすれば、聞く学習に早変わりです。話すときに、速さを少し変えるだけで、聞き取り方のトレーニングにもなります。
あせらず、続けること
「聞く力」は簡単にはつきません。時間をかけてていねいに指導し続けて、数か月はかかるものです。あせらないで、続けることが大切です。そして、子どもの話をよく聞いて、子どもたちに聞き方のお手本を見せることも重要です。話を聞いてくれない先生の話を、子どもが聞くことがあるでしょうか。
また、一年生は45分間集中して授業を受けることは、基本的に難しいものです。オムニバス型(モジュール型)学習にして、いろいろな活動を短い時間ですこしずつ入れていくことが効果的です。聞く活動には、ぴったりの学習法なのです。
〔参考〕『全員を聞く子どもにする教室の作り方』(多賀一郎著 黎明書房)
教えてくれたのは・・・
多賀一郎: 追手門学院小学校講師。神戸大学附属住吉小学校を経て私立小学校に30年以上勤務。「親塾」を各地で開いて保護者の相談に乗ったり、公私立小学校で指導助言や全国でのセミナーを通して教師を育てることにも力を注いでいる。
多賀マークの教室日記
http://www.taga169.com/
『小一教育技術』2017年6月号より