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【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯16 保護者(教員)からの要望に、チームでどう対応するか? 

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令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ
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元北海道公立中学校教諭

千葉孝司
【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ バナー

近年の子どもたちと昭和型学校システムとのミスマッチを要因とした令和型不登校への対応を、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案する好評連載、今回は、教員である保護者からの専門知識に基づいた要望に対し、どう対応していくかについて提案します。

執筆&イラスト/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)

今回の相談事例

中学1年生担任からの相談(架空事例)です。

初めてクラス担任を受け持つことになりました。中学1年生のクラスに、Aさんという学校を休みがちな女子生徒がいます。無理に引っ張るのではなく、Aさん自身のペースを大切にしながら、ゆっくり関わっていきたいと思っています。
今悩んでいるのは、Aさんの保護者の方との関係です。保護者の方は中学校の教員で、私が初めて担任をしていることもあって、Aさんについていろいろアドバイスをしてくれます。例えば「ルールをしっかり守らせてほしい」とか「クラスの子たちとの関係づくりを大切にしてほしい」といったことです。
もちろん大事な視点だとは思うのですが、今のAさんにそれを求めるのは、少し負担が大きいようにも感じています。本人の状態や気持ちを考えると、どこまで求めていいのか、どう折り合いをつければいいのかと悩んでしまいます。    (20代女性)

学級経営の要「ルール」と「リレーション」

早稲田大学の河村茂雄教授らが開発した学校生活アセスメントツール「QU」では、学級での満足度を「ルール」と「リレーション」という二つの視点から見ていきます。被侵害得点と承認得点を手がかりに、日々の子どもたちの生活を丁寧に見取る仕組みです。

「ルール」がしっかり働いている学級では、いやがらせなどのトラブルが起こりにくくなり、子どもが学校に行きたくないと感じる理由が減っていきます。反対に、「リレーション」が豊かな学級では、人と人とのつながりに温かさや安心感が生まれ、学校に行きたいと思える気持ちが育ちます。

こうした視点に立つと、Aさんの保護者が、お子さんとの関わりの中で「ルール」と「リレーション」のどちらも大切にしてほしいと願うのは、とても自然なことだといえます。

とは言え、Aさんが抱えている負担の大きさを思うと、保護者の方のアドバイスに沿って積極的に関わっていくべきなのか、それとも慎重に進めたほうがよいのか、迷ってしまうということですね。

学級全体の運営に必要なことと、今のAさんにとって本当に必要なことを切り分けて考える視点も、とても大切になってきます。

「ルール」と「リレーション」から生まれる緊張

ルールとリレーションが大切にされている学級は、子どもにとって安心できる環境になります。子どもが安心して過ごせることが本来の目的であり、そのための手段としてルールとリレーションが機能している、と捉えることができます。

ところが、この「安心」は目に見えにくく、意識していないとすぐに背景へと押しやられてしまいます。そうなると、いつのまにか手段であるはずのルールや指導そのものが目的化しやすくなるのです。

ルールを守らせることが目的化すると、できない子どもへの圧力が強まります。教師からの指導だけでなく、周囲の子どもたちからの同調圧力も加わり、もともとは安心をつくるためのルール指導が、逆に緊張を生み出す場面が増えてしまいます。

例えば、子どもたちはこんな思いを抱えやすくなります。

 きちんとできるかな
 周りから何か言われないかな
 〇〇さんみたいに先生に怒られたら嫌だな
 巻き添えを食ったらどうしよう

こうした不安は、特に真面目で周囲に気を配る子どもほど強く感じやすく、結果として安心とは反対の方向へと気持ちが引っ張られてしまいます。

イラスト1・緊張を感じる子ども

リレーションについても、ルールと同じような構造が見られます。

いまの社会を見渡すと、インターネット上を中心に批判や攻撃的な言葉があふれています。何をしても叩かれる、どんな発言でも揚げ足を取られる――そんな空気の中で日常的に情報に触れている子どもたちは、「攻撃されるかもしれない」という不安を過剰に抱えやすくなっています。自分の言動がどう受け取られるか、どこで誰に批判されるか分からないという感覚が、心のどこかに常にまとわりついてしまうのです。

こうした背景がある中で、人間関係づくりそのものが目的化してしまうと、子どもにとってはむしろ緊張を高める要因になります。「仲よくしなければならない」「みんなとつながらなければならない」というプレッシャーが強まると、本来は安心を育むはずのリレーションが、逆に子どもを縛る枠組みになってしまいます。

例えば、

 うまく関われなかったらどうしよう
 変に思われたら嫌だな
 仲間外れにされたら困る
 無理に合わせないといけないのかな

といった不安が積み重なり、関係づくりが「心地よいもの」ではなく「失敗できないもの」へと変質してしまいます。

本来、リレーションは子どもが安心して自分を出せるための土台であるはずなのに、目的化するとその土台が揺らぎ、かえって緊張や息苦しさを生み出してしまうのです。

「リラックス」を優先する

学校を休みがちな子どもにとって、まず大切なのは「安心できること」です。

どんなに丁寧にルールを示したり、関係づくりを進めたりしても、子ども自身が不安や緊張を抱えたままでは、その働きかけは十分に届きません。まずは心と体がほっとゆるみ、「ここなら大丈夫」と感じられる状態をつくることが、子どもを支える第一歩になります。

休みがちな子どもにとって、教室は必ずしも安心できる場所ではありません。

イラスト2・安心している子どもの姿

集団の中に入ることへの不安や、周囲の視線・評価への緊張、過去の経験からくる警戒心など、さまざまな理由で心が固くなってしまうことがあります。そのような状態では、教室に戻ること自体が大きな負担となり、ルールやリレーションよりも先に「安心していられるかどうか」が重要になります。

一方で、教師の目はどうしてもルールの徹底や関係づくりに向きがちです。もちろん、それらは教育活動に欠かせない大切な要素です。ただ、休みがちな子どもに対しては、まず安心の土台を整えることが優先されます。子どもが心身ともに落ち着き、無理なく過ごせる状態が整ってはじめて、ルールも関係性も自然に機能し始めます。

学校から足が遠のいてしまった子どもに対して出来ることの最初の一歩は、「リラックスできる関係づくり」です。担任が子どもに変化を求めると、そこにリラックスできる関係は生まれません。そのことを保護者にも理解してもらう必要があります。

イラスト3・リラックスしている子ども

「チーム」で対応する

「子どもがリラックスできる関係をつくりたい」という担任の願いは、保護者と丁寧にすり合わせていくことが大切です。しかし、保護者が同じ教育関係者である場合、どうしても“経験年数の差”が意見の重さに影響し、担任が一方的に説得されてしまうような状況が生まれることがあります。そのようなときには、校内の別の先生にも話し合いに加わってもらうことが大切です。第三者が入ることで、視点が偏らず、双方の思いを公平に整理しやすくなります。また、担任が一人で抱え込まずに済み、保護者も学校としての方針をより理解しやすくなります。

保護者との会話例(担任+副担任と保護者との対話例)

担任  今日はお越しいただきありがとうございます。Aさんが学校で少しでも安心して過ごせるように、一緒に考えたいと思っています。今日は副担任のB先生にも同席してもらっています。
副担任 Bです。よろしくお願いします。Aさんのことをチームでサポートできればと思っています。
保護者 よろしくお願いします。お忙しいところありがとうございます。
副担任 親御さんの目から見て気になることとか、ここで困っているとか、お話を聞かせてもらってもいいですか?
保護者 学校に来たくなるような人間関係を築いてほしいですし、多少嫌なことがあっても、決まっていることはきちんとできるようになってほしいと思っています。
担任 そうですよね。それで少しずつかかわりを増やしていこうかと考えていたところです。
保護者 担任の先生のお力を借りながら、少しでも登校日数が増えたらいいなと思っています。
副担任 ありがとうございます。Aさんにとって、一番大切なのは“安心できること”だと思います。この点についてはいかがですか。
保護者 本人も、「教室に入ると緊張する」と言っていました。
担任 教室にいるときは楽しそうにしているんですが…。
副担任 緊張する気持ちはわかります。教室は人が多く、音や視線もあって、安心しにくい場所ですよね。まずは、担任の先生との間でリラックスできる関係づくりから始めたいと思っています。その点はいかがですか?
保護者 はい。それは大切だと思います。
担任 私としても、Aさんが安心して過ごせる関係をつくりたいと思っています。
副担任 ルールや関係づくりも大切なことですので、そのことについての働きかけは主に私の方からしたいと思います。担任の先生には、Aさんがありのままの自分でいいんだと感じられる関係を築いてもらいたいと思っています。
保護者 なるほど、役割分担ですね。確かに両方はきついですね。
副担任 ◯◯さんも教員としてのご経験がおありなので、何か気づいたことがあれば言っていただけると助かります。
保護者 そうですね。私自身が、先生に“こうしたほうがいい”と言い過ぎないことも大切ですね。
副担任 リラックスできることを土台に、Aさんがより主体的にルールを守れるようになり、人ともっと開放的に関われるようになればいいなと思っています。両立は簡単ではありませんが、意見を整理しながら進めていきたいので、ぜひいろいろなお話を聞かせてください。保護者も含めてチームですので。
担任 これからも、気になることがあれば遠慮なくお話しください。Aさんが安心して過ごせる環境づくりを進めていきます。
保護者 ありがとうございます。学校の考えがわかりました。よろしくお願いします。

 

 

 

イラスト/千葉孝司
この連載は、原則として月に1回の更新予定です。

<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。

千葉孝司先生のご著書(必読の名著!)、好評発売中です。

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