“LGB”と“T”って、まったく違う話って知っていた?【教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業】#6
小学校や中学校で性教育の指導に長年携わったスペシャリストである、帝京平成大学教授・郡吉範先生による連載「教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業」の第6回です。この連載では、安心して実践できる基礎的・基本的なことがらやすぐに使えるヒント、ちょっと背中を押す言葉などをお届けします。第6回のテーマは「“LGB”と“T”って、まったく違う話って知っていた?」。「LGBT」という言葉はよく聞くけれど、分かっているようで曖昧なイメージしかないのではないでしょうか。LGBTについてどういうことなのかを紹介します。具体例は、郡先生の経験や現場での実践に基づくものですので、現場でのヒントにしてください。
執筆/帝京平成大学人文社会学部教授・郡 吉範

目次
LGBTって全部“同じ”じゃない!?
最近よく耳にする「LGBT」という言葉。ニュースや授業でも当たり前のように登場するようになりましたよね。でも――ちょっと立ち止まって考えてみてほしいんです。
この4つのアルファベット、「LGBT」。実は前半と後半で、まったく違うことを指しているって、知っていましたか?
前半の「LGB」は、“誰を好きになるか”という恋愛の話。
後半の「T」は、“自分をどう認識しているか”という性自認の話。
「えっ、同じじゃないの?」と感じた方こそ、ぜひ読んでみてください。この違いを押さえるだけで、子供への説明や理解の仕方がグッと深まります。
【LGB】=「誰を好きになるか」の話
まず「LGB」は、自分がどんな相手に恋をするか、好きになるか――つまり“恋愛の方向”に関わるものです。
・L(レズビアン):女性が、女性を好きになる。
・G(ゲイ):男性が、男性を好きになる。
・B(バイセクシュアル):性別に関係なく、男性も女性も好きになることがある。
ここでのポイントは、「自分の恋愛感情がどこへ向くか」という視点です。だから「LGB」は、“好きになる気持ち”=性的指向に関わる言葉なのですね。
【T】=「自分の性をどう感じるか」の話
一方で「T」は、“自分自身をどう認識しているか”、つまり性自認(ジェンダー・アイデンティティ)に関わるものです。
・T(トランスジェンダー):生まれたときに割り当てられた性別と、自分の感じている性別が一致していない状態。
例えば、出生時に「男の子」とされたけれど、心の中では「自分は女の子だ」と感じている――そうしたケースを「トランスジェンダー」と言います。つまり「T」は、“好きになる相手”ではなく、“自分自身の性の感覚”についての話なんです。
「LGB」と「T」は、似ているようでまったく違う
ここで大切なのは、「LGB」と「T」は別々の問いに答えているということ。
・「LGB」は、“どんな人を好きになるの?”という恋愛の話。
・「T」は、“自分はどんな性別だと感じているの?”という自己認識の話。
「LGBT」とひとまとめにされることが多いですが、実はこの中にはぜんぜん違う種類の“多様性”が入っているんですね。
この違いをしっかり押さえておくだけで、LGBTQ+についての理解が格段にクリアになります。子供たちに説明するときも、「“誰を好きになるか”と“自分がどうありたいか”は別の話なんだよ」と伝えると、「あ、なるほど」と腑に落ちることが多いんです。
「なんとなく聞いたことがある」から、「ちゃんと意味が分かる」へ。その一歩は、案外こうした“基本の整理”から始まるのかもしれません。

「T」は1つじゃない?
「T(トランスジェンダー)」という言葉、よく耳にするようになってきましたが、実は3つのタイプがあることをご存じでしょうか? 多くの場面では「トランスジェンダー」とひとまとめに語られますが、実際には、もう少し丁寧に整理してみると見えてくることがあります。
そのうちの2つ、「トランス・セクシュアル」と「狭義のトランスジェンダー」について、分かりやすく見ていきましょう(※1)。
①「トランス・セクシュアル」=“体”への違和感が強いタイプ
まず1つ目が、「トランス・セクシュアル」と呼ばれるタイプです。 この方たちは、自分の体に対する強い違和感を抱えていて、「この身体では、自分らしく生きられない」と深く悩んでいるケースです。
例えば、「もう少し身長が高かったらなぁ」や「筋肉があったら……」なんて、誰でも一度は思ったことがあるかもしれません。
でも、トランス・セクシュアルの方たちの違和感は、そのレベルとは違います。“性別そのものがズレている”という苦しさなのです。だから、ホルモン療法や手術など、医学的なサポートを希望する人がいるのも特徴です。
心と体のギャップを少しでも埋めて、自分らしく生きられるように――。この気持ちは想像以上に深刻で切実なものです。普段私たちは、自分の体についてあまり意識せずに受け入れて暮らしています。でも、トランス・セクシュアルの方たちにとっては、「この体のままではつらい」という感覚がずっとついてまわるのです。
②「狭義のトランスジェンダー」=“社会的な期待”への違和感
次に2つ目。「狭義のトランスジェンダー」と呼ばれるタイプです。名前がちょっとややこしいですよね。「トランスジェンダーの中に、さらに“狭義のトランスジェンダー”? どういうこと?」と混乱してしまうかもしれません。簡単に言えば、このタイプの方たちは、“体”そのものには違和感がないけれど、言葉遣いや振る舞い、着る服や進路選択など、性別によって“こうあるべき”とされる期待に違和感を抱いているのです。
例えば、こんな場面、思い当たることはありませんか?
・「男の子なら、もっとハキハキ話さないと」
・「女の子なんだから、ズボンばかりじゃなくてスカートを履いたら?」
・「男子が料理部? それ女子のクラブじゃないの?」
・「理系は男子が多いし、君もそっちのほうが合ってるんじゃない?」
・「子供ができたら、女性が家庭を優先するよね?」
こうした“男らしさ”“女らしさ”の押し付けに対して、「どうしてそんなふうに決め付けるの?」と強くモヤモヤしたり、苦しさを感じたりする。それが、「狭義のトランスジェンダー」と言われる人たちの特徴です。
