インタビュー/上越教育大学教職大学院教授 赤坂真二さん:生成AIが身近になったからこそ、今まで以上に学級づくりが重要【AI時代の教育-教師の新たな役割とは③】

大人たちが気軽に生成AIを使う時代になり、小学校でも生成AIを使った授業が徐々に増えてきました。ただ、「小学生が生成AIを使っても大丈夫なの?」と気になる方がいるのではないでしょうか。そこで、専門家の話を聞いてみることにしました。連載の第3回は、生成AIが人間関係に及ぼす影響について、学級経営の専門家である上越教育大学教職大学院の赤坂真二教授に聞きました。

赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授。新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会共同代表理事。新著に『子どもが動くのは、ルールより関係だった オルタナティブスクールから学ぶ「つながる」教室づくり』(共著、明治図書出版、2025年)がある。
目次
AIと共に生きる社会で人間に必要なものは?
生成AIがこの数年で驚くほどのスピードで進化し、身近な存在になりました。生成AIは現在、発展途上にあり、これから様々な問題が出てくるのだろうと思われますが、交通事故が起きるから「自動車の運転を禁止する」という選択肢はないのと同じで、生成AIという便利なものを使わないことのほうが非現実的です。これからまさしく生成 AIと共に生きる時代になるのでしょう。
みなさんは生成AIと共に生きる社会で、人間に必要なものは何だと思われますか?
いろいろな意見が出てきそうですが、その一つは共感性だと私は思っています。
共感性とは、一般的には、他者の感情を自分のことのように感じる力と言われます。例えば、対面で人に聞きたいことがあるとしたら、相手意識をもった問いかけをしないと答えてもらえないことがあります。相手のことを思いやる、相手の感情を慮る、そういった経験を繰り返す中で共感性は育てられていきます。反対に、自分の思いを他者に受け取ってもらったり、承認してもらったりすることでも共感性が育っていくわけです。これが育たないとどうなるかというと、「人の不幸の上に自分の幸せを築いても平気」だというマインドをもった人になります。そのような人が増えれば、人と人が一緒に生きていく社会が成り立たなくなります。
では、生成AIとの対話の中でも共感性は育つのでしょうか。答えはNOだと考えています。生成AIが行っているのは共感の模倣です。会話が成り立ち、まるで友達であるかのような感覚をユーザーにもたらしてくれるとしても、それは錯覚です。AIはユーザーの感情を理解しているわけではありません。
共感性には、認知的共感と情動的共感があります。認知的共感は相手の感情に気づくこと、情動的共感は自分の感情が動くことです。この二つのプロセスを得て、他者を助けるような思いやり行動につながっていきます。生成AIとの対話では、投げやりな聞き方をしても答えてくれますから、ユーザーはAIの感情を理解しようとは思わないわけです。そのため、相手の感情の動きに気づいたり、自分の感情が動いたりすることがないまま、ずっと会話が続いていきます。「壁打ち」で何回AIとやり取りをしても、やり取りの内容は変わっても、AIは基本的に何も変わらないし、それに応じてユーザーの思いやりの心情に変化が起こらないので、共感性が育たないのです。
つまり、共感性はリアルに人間と一緒にいないと育てられないものです。共感性は、人間を人間たらしめるものだと思われますが、AIとのやり取りではそれは育たないでしょう。
「個」か「協働」か、これからの小学校の役割
これまで学校教育は「個」と「協働」のバランスの中で行われてきましたが、今はどんどん個が肥大化しています。このままいくと今後は学校では個が中心になって、協働の部分が脇に追いやられる可能性さえあります。しかし、特に発達段階が下になればなるほど、しっかり人と関わること、協働することが重要です。その経験がないと、共感性が育たず、自分のことしか考えず、自分勝手な行動をするようになるからです。
世の中というのは、自分の自由と権利を尊重してほしかったら、他者のそれらも尊重しなければいけない、という一つの原理原則の下で成り立っています。人と関わることができない人には、自分の自由と権利を尊重してもらいにくい人生が待っていることでしょう。
生成AIの発展によって、この人間社会の在り方の根幹が揺らぐかもしれないと、私は危機感のようなものをもっています。なぜかというと、生成AIを使うことで「一人でなんでもできる」「一人で生きていける」と錯覚し、他者と関わろうとしない人が増えると予想されるからです。しかし、それは錯覚であって、実際にはリアルな人間関係の中で学ぶことが、人として重要な資質能力を育むことにつながります。AIと共に生きる社会だからこそ、小学校では、人と一緒にいないと育たない力を育てる時間をカリキュラム全体の中で保障していくことが、大事なのではないでしょうか。
(取材・構成・文/林 孝美)