【教師の休職対策】誰がサポートに入っても困らないシステム作りを
仕事が大好きで、ストレスなんて全く感じていなかったのに、過労が原因で心を病み、休職した経験を持つ公立小学校教師・松原夢人先生。
突然病気で学校へ行けなくなってしまった松原先生を周りの先生が気持ちよくサポートしてくれたのは、普段からの仕事の仕方に理由があったようです。サポートに入ってもらいやすい仕事の仕方をしている人は、普段から心に余裕を持つことができるはず。ぜひ、元気な時こそ意識をしてみてください。
執筆/東京都公立小学校・松原夢人
残業や休日出勤もいとわず一生懸命働き、仕事は順調そのものだったはずの松原教諭が侵された「心の病」。充実した日々の中で、「過労」は教諭の心身を蝕んでいました。
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目次
「もしも」の時に円滑にサポートしてもらうために
「心の病」が悪化すると、頭が働かなくなる症状が出てきます。必死で考えようとしても、全く何も思い浮かばなくなるのです。自分の意志に反して「思考停止」の状態になってしまうのです。こうなると、他の先生方にどのようにサポートしてほしいのかさえ考えることができませんし、伝えることも困難になります。自分のことだけで精一杯になります。
だからこそ、「心の病」になる前から、事前に準備しておくことが必要です。これは「心の病」に限らず、人間はいつ病気になるか、あるいは事故に巻き込まれるか予測が不可能ですから、全ての状況において言えるかもしれません。
文書データの整理・管理を徹底する
私は病気で急に職場に行けなくなりましたが、「あのデータファイルはどこにあるのか?」という連絡が管理職の先生からきたのは一度だけでした。学年フォルダに全てをまとめていたので、休職していた2週間、データファイルに関するやりとりは特にありませんでした。当然ながら、職場の先生たちが配慮してくださったおかげもあります。
どうしてファイルデータの連絡のやりとりをしなかったのかというとそれは、仕事がしやすいように日頃から整理していたからだと思います。
パソコンのデスクトップにデータファイルを貼り付けて、作業をしている教員の方もいらっしゃると思います。パソコンの電源をつければ、すぐにデータファイルを開くことができますし、デスクトップを見れば「どこに何のデータがあるのか」「進行中の仕事は何なのか」が把握できるため、とても便利です。
しかし、自分が病気や事故で学校に出勤できなくなってしまった時に、その仕事を代替する人(引き継ぐ人)が、データファイルを見つけることができなくなってしまいます。もし、パソコンの管理システム上、デスクトップが共有管理ファイルとして認識されていなければ、検索して探し出すことができません。最初から作り直しという事態が起きてしまいます。
また、フォルダをたくさん作ってデータファイルをバラバラに置いていると、病気になってしまった時に思い出せなくなってしまいます。
そうならないようにするためにも、必ず全教員が確認できる共有ファイルの中の指定されたフォルダの中に、データファイルを入れておくことが必要です。
どうしてもデスクトップにデータファイルをおきたいのであれば、「ショートカット」を貼ることを強く推奨します。共有ファイルから右クリックでデータファイルのショートカットを作成し、それをデスクトップに貼っておきます。こうすることで、デスクトップからすぐにデータファイルを開くことができますし、共有ファイルから移動させることなく資料の作成・管理をすることができます。
データ管理については、学年フォルダならば「学級便り」「保護者会」「個人面談」「児童名簿」「社会科見学」など、誰が見ても分かるように分類整理しておきます。また、フォルダの中のデータは「20200131_3年生 学級便り2月号」のように、日付と名前を明示しておきます。
机上の整理をするとともに、適宜パソコンのデータファイルの整理をするように心がけることが大切です。
明確な学級システムの構築
学級経営として「担任が不在でも子供たちだけで運営できる学級システム」を構築することが重要です。学級担任は出張や病気、忌引等で不在になることがあります。そのことを想定して、4月の学級開きの段階から、学級システムを明確に子供たちに伝えて運営していくことが求められます。
最初は、朝や帰りの会、掃除、給食などは担任の手伝いがあってもいいですが、少しずつ担任の手から離れて、全て子供たちだけでやり遂げられるようにならなければなりません。
指導のポイントは、学級システムを変えずに一貫して行うことです。システムを頻繁に変えてしまうと、担任が不在で補教の先生が入った時に、全体が混乱してしまいます。「あの時はこうだったけど、今回はどうなるの?」と子供たちの間で過去と現在のシステムが混在し、無駄に時間を使ってしまったり、トラブルが起きたりする原因になります。
もし子供たちの意見を反映し、システムを変えるのであれば「学期の始め」に子供たちに共通理解させるとともに、しばらくはシステムの変更をした内容の文言を教室に掲示するなどの工夫が必要になってきます。
また、同じ学年の教員や専科の教員等に学級のシステムを伝えておくことも大事です。
私の場合は学級が持ち上りだったので、病気になって私が休むことになっても学級システムが変わることなく、子供たちは自主的に学級を運営してくれました。自分が動けないところは、子供たちに頼るしかありません。子供たちに任せれば、様々なところで力を発揮してくれます。
1人で何でもやろうとするプライドは捨てる
「心の病」になると自分の能力が発揮できず、全身の力が抜けて何もできない状態になります。学級経営、学習指導、生活指導、進路指導、事務処理などやれることは何でもやってきたつもりなのに、それができなくなってしまうと悔しくてたまらなくなります。
ほとんどの教員に資質として備わっている「教師としてのプライド」「強い責任感」「真面目さ」が使い物になりません。全て失ってしまったように虚無感、自責の念にとらわれてしまうのです。
自分の情けなさを恥じ、弱さを見せることが怖くて、体調が悪いことを隠そうとしていました。また、自分が「心の病」だと認めたくない気持ちが邪魔をして、症状が出ても我慢をしてしまう傾向があります。でも、いつかは限界がやってくるのです。
しばらく経ってから分かったのは、「誰かに頼ってもいい」「助けを求めてもいい」ということです。そして、「自分の状況を受け止めること」が大切であると感じました。サポートしてくださる先生の気持ちを素直に受け止め、感謝をすることが最善だと思います。
松原夢人/1981年生まれ。東京都公立小学校。教員14年目。小学校主任教諭。研究分野:算数。地区教育研究会(算数部)研究授業3回。第93回全国算数・数学教育研究大会 「量と測定・図形」発表。都算研資料委員会9年間所属。平成27年度 東京都教育研究員 算数