【ICT活用授業例】小4社会科「県の広がり」公開授業
ICTを活用した教育活動を積極的に推進する福島県新地町。ICT活用発表会で行われた福田小学校4年社会科の公開授業を紹介します。
4年社会科、自分たちの住む県の特色について学ぶ単元「県の広がり」を学習する本時のポイントは、地形や産業、交通網、都市の位置などを、ICTを使って関連付け、みんなで共有しながら考える力を育てることです。加藤教子先生の、ICTを的確に活かした授業展開で、子ども同士の交流による新たな気づきと深い思考を促します。
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目次
公開授業の前時までの流れ
本単元のねらい
福島県の地形や産業、交通網や都市の位置を調べながら、自分たちの住む県の特色を考える。
ICTを活用し、自作の地図や資料を重ねたり組み合わせたりしながら、それらの関連を見出し、思考を深める。
単元全体の流れ
・「都道府県クイズ」を作り、各都道府県への興味・関心を高める
・福島県について知っていることを挙げ、県全体へ視野を広げる
・提示された資料から、福島県についての基礎知識をつける
・「地形」「土地利用」「交通」「産業」の視点から、福島県の特徴を調べる
・それぞれの特徴が互いに関連していることに気づく
福田小学校は児童数69名の小規模校。4年生の学級は9名です。少人数学級のためか、クラスがひとつにまとまった温かな雰囲気の学級です。
授業に入る前は毎時、単元の導入として、各都道府県の特色に目を向ける「都道府県クイズ」から始まります。地図帳を見ながらクイズを出し合い、互いに答えを考える中で、「自分たちの住む県はどんな特徴があるかな?」と問いかけ、県内の特徴について考えるように促していきます。
考えを共有して学び合いを促進
福島県新地町では公立小中学校全校に統合型学習支援システム「まなびポケット」が導入されています。その中に組み込まれた協働学習支援ツール「スクールタクト」を使って、本単元の授業が進められていました。
まず、子どもたちは一人一台のタブレット端末で、知っている福島県の特徴をスクールタクトに列記していきます。福島市の桃や新地町のニラなどの特産物、名物の喜多方ラーメン、野口英世や市町村名など、さまざまな答えを子どもたちが挙げていました。
「スクールタクト」
タブレット端末、パソコンなど機種を問わず利用できる協働学習支援ツール。パソコンにとりこんだ教材や写真を児童生徒に一斉に配付したり、児童生徒の回答を共有したりでき、子どもの学習状況をリアルタイムに把握できる。
「まなびポケット」
デジタル教材、授業支援ツール、学習管理システムなどをひとつに統合したデジタル教材プラットフォーム。
スクールタクトには、子どもたちの意見をモニターに映して共有することができる機能があります。モニター上の子どもの意見を示しながら「〇〇さんは新島八重が福島の人物だとよく知っていたね」などと投げかけると、子どもたちは「知ってる!」「知らなかった」「聞いたことある」などと声を上げ、知らなかったことや、考えつかなかった答えに対する新たな気づきを得ていました。
★ICT活用のポイント
・子どもの意見を共有する機能を活用して学び合いを促進
・良い視点からの意見は取り挙げてほめる
一方、生活圏が隣の県との県境付近にある子どももおり、宮城県の蔵王町を県内の地域だと勘違いしているケースもあったそうです。
そこで、
福島県人でも福島について知らないことは、まだたくさんありそうだね。これから他県の人に福島県を紹介できるようになろう!
と呼びかけ、本単元の学習課題「福島県アンバサダーになろう!」を提示。福島県の特色を知り、県に対する誇りや愛着を高めることを単元のめあてにしました。
「小名浜港」や「磐梯山」、「猪苗代湖」などの写真を見せて「福島県にはこんな場所もあります」と投げかけ、子どもが興味・関心をもつように促していきます。さらに面積や人口、気候などの資料を提示すると、子どもたちからは福島県内の特色についてさまざまな疑問が出てきました。
どうして市や町や村と呼び方が違うのかな。
人口が多いのが全部「市」なのは、なぜだろう。
と気づいたりする子どももいました。
リアルタイムでアプローチができる導入型反転授業
基礎知識を学習した後は、地形、都市の広がり、交通、産業の視点から、福島県内の特徴について調べる学習を展開していきます。そこでは「導入型反転授業」により授業を進めました。
導入型反転授業
主体的・対話的で深い学びの実現に向け、子どもの活動時間を確保するために実施する授業スタイル。授業の導入部分を家庭で取り組むことで、深く考え、話し合いや課題解決のために協働する時間を確保することができる。
子どもたちは、タブレットを自宅に持ち帰って学習に取り組み、 疑問点などを授業前に洗い出します。子どもと教師の端末は学校外でも連動しており、教員はリアルタイムで自宅にいる子どもたちの学習状況を確認することもできます。チャット機能で子どもに学習を進めるように促したり、アドバイスをしたりすることも可能です。
自宅学習後の授業では、「地形と土地利用」など複数のことに同時に注目するように促すと、子どもたちは「市=平地=人口が多い」「沿岸部で漁業、中通りで果物、会津は野菜の産業が盛ん」など、特徴を関連付けて考え始めるようになりました。
★「導入型反転授業」による効果
・主体的に取り組み、深く考える時間を確保できる
・一人ひとりの学習状況を把握でき、授業に生かすことができる
・授業での話合いや課題解決を充実させることができる
公開授業本時の流れ(第7時/全7時)
公開授業は、本単元のまとめの授業になります。
授業の導入では、本時でも「都道府県クイズ」を行い、活発に活動した後、加藤先生は本時のめあてを確認します。
福島県ってどんなところなのかな。これまでの授業でグループごとに見つけたことを、まとめてもらいたいと思います。
まず、ルーブリックでねらいを明確にする
学習に入る前に、本時の「ルーブリック」を提示して確認します。
「ルーブリック」とは、授業内での学習到達状況を評価するための基準です。子どもたちは、授業のはじめにルーブリックを確認して、この授業でどんなことを身に付けるのかを確認することができます。そして、授業の終わりには、子どもたちはルーブリックの自己評価を行います。子ども達の学習到達状況を把握することで次回の授業に生かすとともに、単元の評価の参考としても活用できます。また、子どもたちに学習の見通しをもたせるとともに、意欲を高めることも期待できます。
ルーブリック
子どもの学習到達状況を具体的な基準に基づいて評価する手法。テストなどでは評価が難しい課題への取り組みの姿勢も評価できるとされている。評価規準や評価の項目数を教員が調整することで、さまざまな学習に対応した基準の設定が可能。
今回の授業で設定されたルーブリック
加藤先生が子どもたちに示したルーブリックは、SとAの2段階に設定されていました。
S評価:複数の視点や他の資料を関わらせながら、福島県の特色について考えることができる。
A評価:2つの視点がどのように関わっているかを考えることができる。
まったく別の地図を重ねて、どのように関わっているかを考えられたらAです。これまで配付した資料を関わらせて、新たな視点で福島県の特色について考えることができたらSです。
みなさん、S、ねらえるでしょうか。
子どもたちからは、「うーん」「ねらってみる」などの声が聞こえてきます。
ここから、ICTを子どもたちが使用して協働で学習する授業が進んでいきます。3つのグループに分かれて、これまで各自が調べてきた様々な関連性をひとつの資料にまとめていきます。加藤先生は、グループでまとめるための活動の時間を15分に設定しました。
2つの視点を重ね合わせて関連を見出す
導入型反転授業で学んできた、福島県内の「地形」「土地利用」「交通」「産業」の特徴の関連を子どもが考えやすいように、市町村・交通・工業団地・産業のシートに透過処理を加え、地形図と土地利用図に重ねて提示します。
各グループの机には、タッチで操作できる「インタラクティブ・プロジェクター」が用意されています。それに重ねた地図を表示させ、子どもたちが意見交流しながら、調べてきたことを書き込んでいきます。
インタラクティブ・プロジェクター
プロジェクターに接続し投影された映像の上に書き込みができるツール。キーボードや電子ペン、指を使って簡単に操作することができる。
加藤先生は、各グループを回りながらアドバイスし、協働作業を促します。意見がまとまらないグループには、考えを一人ずつ話して内容を整理するようにアドバイスします。早く終わったグループには、さらなる工夫やまだ改善できそうなことを伝えます。
★ICT活用のポイント
・地図を重ねることで特徴の関連を視覚で捉えやすくする
・複数人で使えるインタラクティブプロジェクターで話し合いを促す
eポートフォリオの記録を効果的に活用
複数の視点の関連や他の資料との関連を見つける際には、これまでの学習の記録も活用します。子どもが取り組んできた学習は「eポートフォリオ」としてデータを蓄積しておくことで、すぐに振り返ることができます。グループでの意見交換を行う際に、端末を使って自分の学習記録を見せながら考えを伝える子どももいました。
eポートフォリオ
子どもが行った学習活動の記録をインターネット上に蓄積する、いわゆる「学びのデータ」。教員は評価の参考として活用することができる。時系列や教科別に絞り込むことができ、保管場所に困らず、必要な課題をすぐに探すことができる。
グループ学習のまとめをスクールタクトで共有・発表
グループで福島県の特徴を地図内にまとめたら、各グループが前に出て成果を発表します。
工業団地の近くに交通網が充実している理由などについて予想するなど、発展的に考える子どももいました。 それぞれの特徴の関連に気づいたり、友だちの意見から気づきを得たりした子どもたちは「なるほど!」と納得した様子を見せていました。
子どもたちが自分の言葉で伝え、発表に対しての質問も認めることで意見交換がさらに深まります。
★ICT活用のポイント
・考えを整理する際にこれまでの学習記録も活用する
・作成した地図は大型モニターで見やすく表示
子どもたちの発表をもとに、加藤先生は、発表で挙がった要素を板書していきます。子どもの気づきを引き出しながら要素を線で結んでいくことによって、3つのグループで調べたそれぞれの要素が、実はすべてつながっていることに気づくことができる板書になっています。
「何かわかったことない?」との加藤先生の問いかけに、子どもたちから「あーっ、会津のほうが雪が降りやすいからだ」「(会津に雪が降りやすいのは)山が多いし」と言葉が挙がってきます。一人ひとりが調べていたことが、実はすべて関わり合っているということが導き出されました。
【動画】子どもたちの発表から出た要素をつないで関連性に気づかせる授業場面
本時の終末では、「わかったことをノートに6行以上でまとめる」という指導で、学んだことをしっかりアウトプットするように促していました。最後にルーブリックの自己評価をしてふりかえるところで授業が終わりました。
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取材・文/加藤隆太郎(カラビナ) 撮影/編集部