学習指導要領の全項目へのタグ付けがされれば、教科横断や学年を超えた取組もしやすくなる 【中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」#08】


今回からは、中央教育審議会の委員であり、教育課程企画特別部会の副主査として学習指導要領の方向性に関する審議に携わる、堀田龍也教授(東京学芸大学教職大学院)にお話を伺っていきます。特に今回の諮問では、4つの諮問項目すべてにデジタル学習基盤や生成AIに関する内容が関わることから、このインタビューでは、堀田教授のご専門であるデジタル・テクノロジー(以下、デジタル)と、今後の学校教育のあり方を中心にお話を伺っていくことにしましょう。
なお、学校教育とデジタルの活用を考えていく上で、非常に大きな示唆を与えてくれる、堀田龍也教授と田村学・文部科学省主任視学官による、リーディングDXスクール事業特別講座2025、「これからのGIGA!!!教科の学びをどう深める!?」も、ぜひ下記URLよりご参照ください。
https://www.youtube.com/watch?v=IbvS65qEMo4&t=2048s
目次
情報活用能力を重要な「学び方」として身に付けさせることが必要

デジタルと学校教育についてお話をする前に、私の視点から、ざっと諮問文におけるデジタル関連の課題について概説をすると、今回の改訂の議論では、大きく3つの大事なポイントがあると考えています。
まず1つ目は、学習指導要領の表現形式・形態の問題で、これがデジタルで表現されるようになると、現在よりももっと使いやすいものになるということがあります。学習指導要領が構造化されて使いやすいものになり、先生方がたびたびアクセスするようになれば、学習指導要領と教科書、教材がうまくつながるようになって教えやすくなるし、子供たちも学びやすくなる。教材研究も深まるし、見通しをもった指導ができるようになるので、授業時数も余裕が出る方向に機能するでしょう。そういう環境をデジタル学習基盤でやりましょうというのが1つ、大きなポイントだと思います。
2つ目に、個別最適な学びを実現するためには、子供たちがデジタル端末を使って取り組むことが多くなるわけですが、自ら端末を使って学ぶ場面では、情報活用能力が育っていないと「うまく入力できない」とか「うまく調べられない」という問題が生じます。ですから、情報活用能力を重要な「学び方」としてしっかり身に付けさせることが必要になります。それが、諮問文にも「情報活用能力の抜本的向上」という文言で示されています。
3つ目は、生成AIやフェイクニュースなど、世の中がテクノロジーに振り回されがちになる時代であり、テクノロジーをより主体的に使いこなしていくことが求められる時代になるからこそ、教科等の内容にもより専門的な内容として入ってくる、ということが考えられます。
その他、先生方の関心の高い内容、例えば教師の負担の話については1つ目のポイントに関わると思いますし、子供の学びの自立性の話は2つ目のポイントに関わりますし、生成AIや国の政策などについては3つ目の話に関わってくると思います。
学習指導要領に戻って、いつでもアクセスできるような形にしておくことが大事
まず1つ目の、分かりやすい学習指導要領の表現形式・形態とデジタル学習基盤についてお話をしていきましょう。
現在、次の学習指導要領に関して、教育課程企画特別部会で審議を行っているわけですが、1回目の会議では各委員が課題だと考えることについて意見を出していきました。その後、2、3回目の会議では、(諮問事項の第一にある)分かりやすい学習指導要領はどうあるべきかについて提案がなされ、2回目では主に、分かりやすく使いやすい学習指導要領の構造化についての提案と議論がなされました。それに続く3回目で、私は「分かりやすい学習指導要領を実現するためにデジタルで何かできないか」という視点で提案を行いました。
これまでの学習指導要領は文章で示されているため、紙で提示され、一定の厚さの本になっていました。小学校、中学校、高等学校、特別支援学校がそれぞれ別の冊子で示されており、例えば小学校のある内容が中学校のどこにつながっているかというのは、両方をよく読み込んでいかないと分かりません。同一校種の内容だけで考えても、例えば算数・数学と理科のどんな内容が関係していて、教科横断的な学びを構成できるのか、パッと見て分かるようにはなっていません。これをデジタル基盤によって、うまく示すことができれば、先生方のアクセシビリティは高くなるのではないかということです。
実際に、現時点でも学習指導要領をじっくり読んでいる先生は少ないという指摘があります。その理由としては、先生方が日常教えている具体的な内容から言えば、学習指導要領は抽象度が高く、1つの文章が1単元くらいになっているわけで、具体的な学習場面がイメージしづらいということもあるでしょう。それは、学習指導要領と日々扱う具体的な内容との粒度が違うという言い方をするのですが、その粒度の差があるために両者のつながりが見えにくく、あまり読まれていないわけです。
しかし大事なことは、学習指導要領に書かれていることであり、教科書には大事なことも瑣末なことも書かれているのに、それをすべて網羅的にやろうとすることでカリキュラム・オーバーロードが起こっているという現実があります。そう考えると、先生方がいつでも学習指導要領に戻って、「ああ、本質的に大事なことはここなんだね」と分かるような構造にしておくことが必要だし、いつでもアクセスできるような形にしておくことが大事だということです。
そのためには、まず学習指導要領を中核的な概念と個別の知識・技能といったものの上下関係で表すような構造化ができないかということが、2回目の会議で議論されました。当然、同じような構造が他の教科にもあるわけで、教科を超えて横に見て、つながっていることが分かるように見せられないかという話もありました。
【資料】

これは現在の紙の冊子ではむずかしいのですが、近年のウェブサイトの技術を使えばそのように見せられます。例えば、同種の方法がすでにカナダやオーストラリアのカリキュラムでは導入されていますが、内容に応じて色分けされたところにマウスを動かしていくと、その中身が大きく見え、クリックをすると、より具体的な内容に飛んでいくというようなことができます(資料参照)。あるいは小学校ならば、算数で重さに関する学習を行うだけでなく、理科でも学習するので、そうした項目にタグ付けがなされれば、他教科との行き来がしやすくなり、教科横断的な取組もしやすくなるわけです。これは「重さ」というような内容知だけではなく、例えば「観察する」というような方法知についてもタグ付けがなされれば、より多様な教科横断や学年を超えた取組もしやすくなります。
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今回は、教育課程企画特別部会の副主査である堀田教授に、デジタル学習基盤と学校教育に関わる課題の概説、さらに第3回会議での提案内容の前半を中心に伺っていきました。次回は、同提案の後半から紹介をしていきます。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
【中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」】
次回は3月27日公開予定です。