特別支援学級にこそICTを活用しよう~国語科と自立活動の授業づくりの実践~

GIGAスクール構想によってタブレット(またはノートPC)が普及してから5年が経ちます。
「ただタブレットを使えばよい」「とりあえず試してみる」という時代は終わりました。
今は、「タブレットを使う目的や、使った上での効果」が求められていると感じます。主体的で対話的な深い学びの実現のために、ICT機器を使って、また、国語科と自立活動の目標を設定して授業を行いませんか? 今回ご紹介する方法なら、短時間で準備できるので、忙しい時期にぴったりの授業だと思います。ぜひ、参考にしてみてください。
【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #09
執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉
国語科の時間に行った授業です。「言葉あそび×ICT」で子どもたちの思考を促そう! というテーマで、「しりとり」や「言葉集め」をクラスの子どもたちみんなで行いました。
子どもたちの実態として、発語する言葉数の少なさが挙げられます。子どもたちとの関わりを通して、言葉が子どもたちの中に増えていければ、子どもたちの豊かな生活につながると考えました。また、しりとり、言葉集め両方とも、子どもたちが意欲的に楽しんで取り組める題材であると考えました。また、言葉を一生懸命考えようとする子どもたちの姿も目に浮かびました。
コミュニケーションを楽しむきっかけの1つとして、本授業が子どもたちのためになればよいと考えました。友達とコミュニケーションをやってみた結果、トラブルに発展したり、気持ちが乱れたりする場面も見られるので、コミュニケーションに対しての意欲づけになればと考えました。
このような子どもたちの実態や教師の思いから、以下のように指導計画を立ててみました。
<目標>
① 知っている言葉を使って、しりとりや言葉集めをすることができる。
(国語科:思考判断の目標)
② 出てきた言葉を使って、友達とコミュニケーションをしようとしている。
(自立活動:コミュニケーションに関する目標)
<指導計画>

主体的な学びや深い思考を促していくために、今回はパワーポイントのテキストボックス機能を使いました。出てきた言葉が画面に残っていた方が、子どもたちが思考する際の手助けになる=思考が促されるものと考えたからです。また、テキストボックス内に、子どもたちが発表した文字を子どもたち自身で打ち込めるようにしました。打ち込む方法については一つの方法に限定するのではなく、
① タイピングで入力をする
② 音声入力で入力をする
③ スクリーンキーボードで入力をする
この3つの中から選択できるようにしました。子どもたちは自分に合った方法ややってみたいやり方で文字を入力することができるため、主体的な学びにつながるのではないかと考えました。
実際のパワーポイントを掲載します。

リーゼントから始まり、とんかつ→釣り→りんかい鉄道→浮き輪大きいなと進み、飯田橋で終わりました。
「1回出た言葉だからこの言葉はもう使えない」
(残っている文字を見ながら)「〇から始まる言葉は何だろう」
などなど、子どもたちはテキストボックス内に残された文字をじっと見つめながら、それを手掛かりとして続く言葉をじっくりと時間をかけて考えていました。
なかなか言葉が思い浮かばないときには、「似た言葉はないかな」と、テキストボックスに残された文字をヒントにして言葉を考えている様子も見られました。
言葉が出てこない子に対しては、周りの子たちがヒントを出して助けようとする様子が見られました。「この言葉と同じ仲間だよ」
「この言葉に似ているよ。ジェスチャーをして教えよう」
などと、テキストボックスを指差しながら教えている光景が見られました。
また、グレーの付箋にあるように、あえて鉄道に関係のある言葉を発表しようという子もおり、このことは、視覚的に言葉が残っているからこそできたことではないだろうかと考えています。
このような子どもたちの様子から、テキストボックス内に、しりとりで出た言葉を文字で残しておくことは思考を促すことにつながったものといえます。子どもたちは様々な思考を頭の中で巡らせながら、クラスの仲間とコミュニケーションをとりながらしりとりをすることができました。
また、子どもたちが発表する中で、聞き慣れない言葉やイメージを頭に浮かべづらい言葉が出てきたときには、子ども用のパソコンでインターネットを立ち上げ、子どもたち自身の力で言葉の意味を調べる時間を設けました。インターネットを使って馴染みのない言葉を調べることも、思考が深まったり、主体的に考えようとしたりすることにつながってくるのではないかと考えました。
実際の授業では、リーゼントの言葉の意味を、パソコンを使って調べたいという声が挙がったため、子どもたちに自分のパソコンで調べるよう声かけをしました。
調べる前に
「リーゼントと言う言葉を聞いたことがありますか。どんな意味だと思いますか」
と聞きましたが、リーゼントと言う言葉を発表した子どもも、発表を聞いていた子どももよく分かっていませんでした。何人もの子どもたちがリーゼントと言う言葉の意味を調べたいと言っていたため、インターネットで言葉を調べる活動は子どもたちの主体的な学びにつながったといえます。
リーゼントを画像で見つけた子がおり、自然とその子の席の近くに他の子どもたちが集まっていきました。
その画像を見て、
「僕の髪型には名前がついているのかな」
と疑問を発言をした子がいました。そこから子どもたちが自分の席に戻って「髪型 画像」と自分の髪型に近い髪を検索する姿が見られました。
子どもたちは食い入るようにパソコンの画面を見つめ、夢中になって自分に近い髪型を探していました。「ボブ」「マッシュ」など、自分の髪型には名前があることを子どもたちは知ることができ、嬉しそうにしていました。
このような姿から、自分の髪型についてもっと知りたいと思い、意欲的にパソコンで調べていたことに主体的に学んでいる姿勢が伺えました。また、自分の髪型にも名前がついているのではないかという発言から、子どもたちは思考をしながら授業に望んでいたといえます。
子どもたちは、考えることを楽しみ、主体的にとても活き活きと活動に取り組んでいました。ICTを活用することは、子どもたちの主体的な学びや思考を促すためには非常に有効な手段だということが実証できました。また、授業を進めるにあたってICTを活用することは、主体的な学びや思考を生み出すだけではなく、言葉の可視化や音声入力、間違ったときに消しゴムで消さなくてもよいなど、支援としての側面があることにも気がつくことができました。
これからも子どもたちのためにICT機器を積極的に活用し、授業実践をしていきたいと思います。

イラスト/イラストAC

奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
・「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)