学校の管理下はどこまで?学校で発生する事件・事故への対応~シリーズ「実践教育法規」~

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シリーズ「実践教育法規」
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日本女子大学教授

坂田仰

田中博之

教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、教育にまつわる法律や制度を分かりやすく解説していく本連載。第29回は「学校で発生する事件・事故への対応」について。学校が安全配慮義務を負う範囲や、リスク・マネジメントとクライシス・マネジメントの2つの観点の違いを理解し、適切な対応ができるようにしましょう。

執筆/坂田 仰(日本女子大学教職教育開発センター教授)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)

【連載】実践教育法規#29

学校の管理下において安全配慮義務を負う

学校保健安全法は、学校の設置者は、児童生徒等の安全の確保を図るため、その設置する学校において、事故、加害行為、災害等により児童生徒等に生ずる危険を防止し、及び事故等により児童生徒等に危険又は危害が現に生じた場合において適切に対処することができるよう、当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすると規定しています(第26条)。2008年、学校保健法から学校保健安全法へと名称変更を伴う改正が行われた際、新たに設けられた条文です。

しかし、当然のことながら、児童生徒を受け入れた以上、規定の有無にかかわらず学校の設置者は、自己の管理下にある間(学校の管理下)、その生命・身体の安全を確保する義務を負います(安全配慮義務)。そして、学校に勤務する校長、教員、その他職員は、学校設置者の履行補助者として、安全配慮義務の一翼を担うことになります。

ここでいう「学校の管理下」とは、一般的に教育課程に基づく授業や課外指導等、学校における教育活動中を意味する概念です。したがって、例えば登下校中の事故に対し、原則として学校は損害賠償責任等を負うことはありません。しかし、独立行政法人日本スポーツ振興センターの「災害共済給付」等、学校の管理下を拡大する例も存在するため注意が必要です。

独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付制度における「学校の管理下」
※独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令第5条2項

リスク・マネジメントとクライシス・マネジメント

学校における事件・事故への対応は、リスク・マネジメントとクライシス・マネジメントの2つの観点から考えることが求められます。リスク・マネジメントは、事故等が発生する前に、それを予測し、対応策を講じることを意味します(事前の備え)。これに対し、クライシス・マネジメントは、発生した事故について、その被害を最小限に抑えることに力点が置かれます(ダメージの最小化)。

リスク・マネジメントに関連して学校保健安全法は、学校に対し、児童生徒等の安全の確保を図るため、学校安全計画の策定と危険等発生時対処要領(いわゆる「危機管理マニュアル」)の作成を義務づけています(第27条、第29条)。学校安全計画には、学校の施設及び設備の安全点検、児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導、職員の研修等の計画が記載されます。

これに対し、危機管理マニュアルは、当該学校の実情に応じて、危険等発生時において職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めたものです。いずれも作成することに意義が存在するのではなく、実際に事故等が発生した際、児童生徒等の安全確保に役立つことが重要となります。それゆえ、PDCAサイクルを踏まえ、定期的に見直しを図ることが求められる点に留意すべきでしょう。

知識・技能の更新が必要

他方、クライシス・マネジメントの観点からは、適切な救急処置を迅速に行うことが重要となります。

特に争いが生じやすいのは、心肺停止者に対する一次救命(Basic Life Support)です。2004年、本来、医療行為であるAEDの使用が一般に開放(厚生労働省「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」2004年7月1日付け医政発第0701001号)されて以降、AEDの使用を巡る対立が後を絶ちません(新潟地裁長岡支部判決平成28年4月20日等)。また、人工呼吸の省略が認められるなど、心肺蘇生法(CPR)が変化していることも見落としてはなりません。

司法はガイドラインや通知を重視する傾向にあり、教職員は定期的に救急処置に関する知識・技能を更新していくことが必須となります。

『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正

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