保護者と良好な関係を築くとは?【伸びる教師 伸びない教師 第51回】
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「保護者と良好な関係を築くとは?」です。保護者にマイナスな感情ばかりをもっていると、保護者も学校への不信感を抱くようになります。では、保護者と良好な関係を築くにはどのようにしたらよいかという話です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
目次
保護者とよい関係が築けない理由
若い頃は、授業参観に限らず個人懇談や家庭訪問など、保護者に対して気を遣ってしまうことが多くありました。
授業参観では、「前の担任の授業と比べられるのではないか」と不安になったり、個人懇談や家庭訪問では「教師になったばかりなのにと思われているのではないか」と疑心暗鬼になったり、保護者に対してマイナスな感情ばかりを抱いていました。
また、問題を起こす子供に対しては、
「あの子は家で保護者に自分の都合のいいように言っている。おうちの人もそれを信じてしまっているから分かっていない」
と、うまく指導できない責任を家庭に押し付けている自分もいました。
しかし、よくよく考えると、子供が家で自分の都合のいいように言うのはその子が悪いのではなく、本来人間がもっている防衛本能なのかもしれません。自分が窮地に立たされたとき、自分の立場が悪くなるようなことは子供に限らず大人でも言いません。無意識のうちにそうしているのだと思います。それが子供であればなおさらです。
また、保護者が自分の子供を信じるのは当たり前の話です。保護者が信じている事実と学校で把握している事実が違うのであれば、お互い丁寧に話し合うことが必要だったと今になって思います。それを「子供がずるい」「保護者が分かっていない」と捉えている時点で、保護者とよい関係がつくれるはずがありません。こちらの気持ちは相手に伝わるからです。そうしたことを、まだ若い私は分かっていませんでした。
学級の荒れを収めるには
そんな保護者に対しての気持ちは30歳を過ぎた頃から少しずつ変わってきました。
保護者と同年代になってきたからか、自分自身に教師としての経験が積めてきたからか、なぜなのか理由は分かりませんが、マイナスの感情を抱かずに自然に接することができるようになってきました。自分が親になったことも関係していたのかもしれません。
私が5学年の担任をしていた当時、11月を過ぎたあたりから隣の学級の子供たちが騒がしくなってきました。私や他の教師が介入すれば静かになるのですが、その場を離れるとまた騒ぎ始めます。なかには授業中に出歩く子供も何人か見られるようになりました。
始まりは、1人のやんちゃな子供が担任に反発したのがきっかけでした。そのことを保護者に伝えると「家でも指導します」と言ってくれていたのですが、家庭への連絡が何度か続くと保護者も学校への不信感をもつようになってきました。
そうなるとさらにその子は担任の言うことを聞かなくなり、授業中好き勝手に歩き始めました。それを何人かがまねをし始めて今の状態になったというわけです。
学級が荒れ始めたタイミングで授業参観がありました。このときばかりは子供たちもきちんと席に着いて静かに授業を受けていました。授業参観後の学級懇談会では、私も学年主任として参加させてもらい、学級の状況を包み隠さず保護者に伝えました。そして、このような状況になってしまったことを深くお詫びしました。保護者の方々は、自分の子供からある程度様子を聞いていたようです。「どうしてこうなったか」「勉強に差し支えはないか」など、いくつか質問があり、とても心配している様子が全体の雰囲気から伝わってきました。
学校と保護者が同じ方向を向いて子供たちの教育に当たる
そのとき、あるお父さんがすくっと立ってこんなことを話し始めました。
「どうしてそうなったのか、誰に責任があるのかを今話し合っても仕方ないと自分は思います。それよりも、子供たちに、親として学校としてこれからどんなことをしていけるのかをみなさんで話し合いませんか」
この発言をきっかけに、保護者と学校がこれから何をしていくかという前向きな話合いに変わりました。保護者は各家庭で授業への参加の態度について真剣に話し合うこと、学校は、しばらくの間、大きな教室を使って3学級合同で授業を進める機会を多くし、ルールづくりをしながら学年全体で見守っていくことなどを確認しました。
この学級懇談を機に学級の荒れは収まり、子供たちの顔付きも穏やかになっていきました。
学校と保護者が同じ方向を向いて子供たちの教育に当たっていくことで、子供たちがこんなに変わっていくということを目の当たりにした出来事でした。
学校と保護者には子供たちをよくしていくという共通の目的があります。しかし、モンスターペアレントという言葉があるように、無理な要求を押し付けてくる保護者も実際にはいます。そうした保護者には学校として毅然とした態度で対応するべきだと思います。ただ、学校や担任に意見を言ってくる保護者すべてがモンスターペアレントではありません。 学校と保護者は互いに背を向け合う関係ではないのです。
学校と保護者が同じ方向を向いて子供たちの教育に当たっていったとき、子供たちは大きく変わります。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。