赤坂真二先生講演|学級経営とリーダーシップ改善のため教師ができること@北の教育文化フェスティバル
2024年8月10日に札幌市で開催された「北の教育文化フェスティバル」での、赤坂真二先生による学級経営についての講演の内容を2回に分けてお届けします。今回はその後半。学校改善に取り組むいくつかの学校を紹介しながら、教師の成長と学校改善の道筋について提言しています。
取材・構成/村岡明
赤坂真二先生講演〈前編〉|いま「学級経営」ができること~クラス会議とケア機能~
目次
N小学校の学校力向上
N小学校での「学校力向上」研究に4年間関わりました。この学校は、20代の若手教員が多く、学級経営に不安を抱えている状況でした。
1年目は学級経営、特に教師のリーダーシップ改善に重点を置きました。2年目は学級単位でチーム学習の導入を試行し成功事例を作り、3年目は学校全体でチーム学習に取り組みました。
これを行うために「学級機能アップのための20ポイントチェック」を作成しました。これは私の著書『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』(明治図書)にも書いています。以下20のポイントのそれぞれを紹介します。
学級機能アップのための20ポイント
児童生徒との信頼関係
- (1)子供たちといることを楽しんでいる
子供たちを「かわいい」と感じますか? - (2)笑顔で教室にいる
子供たちといるときのほとんどの時間を笑顔(和やかな表情)で過ごしていますか? - (3)子供たちを想起したときに、いつも順番が後になる子や思い出せない子がいない
声かけや関心が特定の子に偏っていませんか? - (4)子供たちと個別の信頼関係を築くための具体的方法をもち、日々実践している
一人一人とつながるルーティンをもっていますか? - (5)一人一人を知るための時間を取っている
積極的に「子供情報」を集めていますか? - (6)毎日、全員にあたたかな声をかけている
あなたの好意は伝わっていますか? - (7)子供たちの前で、自己開示をしている
自分(人間らしさ)を見せていますか? - (8)叱ったら、フォローをしている
叱りっぱなし、見放すような叱り方をしていませんか?
ゴールイメージ・プロセスイメージ
- (9)ゴールイメージとそれを実現するための手立てが一致している
学級づくりのゴールイメージがありますか? 今やっている手立てはゴールを実現するのに有効ですか? - (10)本気でその理想を実現したいと思い、折に触れて効果的にそれを伝えている
あなたは心からそれを願い、その意味や価値を明るく伝えていますか?
かかわりの意図と場
- (11)子供同士がかかわる必要性を伝えている
かかわる意味・協力する意味を伝え続けていますか? - (12)子供同士がかかわる機会を意図的、定常的に設定している
カリキュラム全体を通じて交流する時間を確保していますか?
集団成立の必要条件
- (13)安心して過ごすことができるルール、マナーが共有されている
「時・人・場」(相手意識)に関するルールが守られていますか?
「助けて」「教えて」と言えますか?
学級生活を送る手順が理解されていますか? - (14)認め合いや、あたたかな感情の交流がある
子供同士の認め合いの場がシステム化されていますか?
一人一人に味方がいますか?
活動への意欲
- (15)子供たちには、学習やその他の活動に自ら取り組もうとする意欲と習慣がある
個別の声かけがなくても活動に取り組める子が8割以上いますか? - (16)子供同士で学び合う意欲と習慣がある
個別の声かけがなくても8割以上の子が交流に参加できますか?
協働的問題解決力
- (17)子供同士で問題を解決しようとしたり、活動しようとしたりする意欲がある
「イベントがしたい」「クラスの問題を解決したい」などの声が挙がりますか? - (18)子供同士で問題を解決したり助け合ったりするための定常的な場がある
自主的な企画、子供たちが決めたルールがありますか?
学校体制と評価とアクション
- (19)学校体制で学級経営の向上に取り組んでいる
学級経営における共通実践がありますか? - (20)定期的に学級経営を評価・改善している
定期的に学級経営を振り返り、評価・改善のアクションを起こしていますか?
以上20のチェックポイントは、「年に1度チェックしたら終わり」ではなく、定期的に確認することが重要です。たとえば5月・7月・10月・12月・2月と定期的に確認することで、教師自身の振り返りと業務改善につなげることができます。
専門学校における学級経営の成功事例
学級経営の考え方が重要なのは、小中学校だけではありません。
ある専門学校では、不登校・退学・資格取得率の低下・就職しても長続きしないといった問題を抱えていました。これらは学校の存続に関わる問題です。この学校では、個別カウンセリングによる等による個別対応を行っていたものの、思うような効果が見られませんでした。
しかし、あるクラスでクラス会議を導入したところ、高い資格取得率と就職後の定着率増加を実現しました。このクラスの担任は、学校の現状に危機感を持ち、学級経営学会に参加。クラス会議関連の研修会にも参加して、学んでいたのです。この事例は、専門学校においても、個別対応よりクラス全体でのアプローチが効果的である可能性を示唆しています。
教師の関わりを「Management」へ
ある附属学校では、「マネジメント機能を生かした学級経営と教科指導の一体的な充実」というテーマで研究を行っています。ここでは、「何のために授業をするのか」という問いから、教師の関わりを「Teaching」から「Management」に変えようとしています。
マネージャーの仕事は、「他者を通じて物事を成し遂げること」です。「Management」という著書で有名なドラッカーは、マネジメントについて「目標を設定する」「組織する」「動機づけとコミュニケーション」「評価測定する」「人材開発をする」という5つの視点を提示しています。
「Management」視点の授業
またある附属学校では、学習者を育成するという視点から授業の改善を研究しています。ここでの主な関心事は、授業における学習者の反応と、それをもたらした教師の働きかけです。
たとえば「安心保障システム」とも言うべき工夫がありました。前の時間に体育で、授業準備ができていない子がいると見るや、授業の趣旨説明をしながら、学習の場作りと時間調整を行います。これにより、子供たちはスムーズに学習モードに切り替わりました。
授業でも、課題提示から予想を立てるまでに約5分もの長い時間をかけ、丁寧な導入を行っています。 そして課題解決に向かって、子供同士の自由な交流を促進しています。ある子が説明に詰まった際には「ここまでは間違いないですか」「誰か代わりに言ってくれる人は」といったサポートに入るのです。また子供の否定的な発言に対しては、穏やかながらも断固とした態度で「大丈夫だよ、それでもいいんだよ」 と心理的な安全性を確保しています。
ここで注目すべきは、子供同士の身体距離が近く、男女の壁が低いということです。教師が「場をマネジメントする」という意識に徹することで、こうした学習環境が自然に形成されたものと思われます。
改善のための重要なポイント
学校全体の改善を進めていく上で、いくつかの重要な点が明らかになりました。まず、教師の実践力と説得力が基盤となっています。その上で、職員間の信頼関係を構築し、組織力を向上させていくことが求められます。
そのために必要なことは、授業を学級経営的な分析視点でチェックすることです。
- 必然的領域視点
人権を守るためにどんな配慮をしているか
信頼を得るためにどんな配慮をしているか - 計画的領域視点
どんなルールをどんな方法で指導しているか
どんな関係性をどんな方法で育成しているか - 偶発的領域視点
協働的問題解決能力は育っているか
良質な学級文化は育っているか
教師の成長と学校改善
教師の成長過程については、さまざまなモデルが示されています。一般的に4~6年目までは基礎的な実践力の確立期間とされており、その後、現状を維持する道を選ぶか、前進を目指す道を選ぶかという重要な分岐点を迎えます。
重要なのは、自己の実践を謙虚に振り返り、常に改善を目指す姿勢を持ち続けることです。 特に、ある程度の経験を積んだ後も、自分の実践に対して批判的な意識を持ち続けることが、教師としての成長につながると指摘されています。
さらに、教師の学び方と教室の学び方が齟齬を起こさないことが大切です。安心感のある関係性の中で、明確な学びの目標に向かい、適切な方法で学ぶこと。これが学校単位で共有されれば、学校改善が達成できます。
学級経営の改善には、個人の教師のリーダーシップ向上、それも学校全体としての取り組みが重要です。ここには、学習者育成の視点や教師のマネジメント能力向上の視点をもち、に注目されることの重要性が示されています。
(了)