宿泊学習に向けて事前に心得ておきたいこと|11月【特別支援学級の学級経営】

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は宿泊学習に向けて事前に準備しておきたいことについてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

短期目標2:動物が入る作品づくりでは、同じテーマの友だちの作品と並べて展示することができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

短期目標2:会話の中で質問されて、はい、いいえの答えを返すことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

短期目標2:タブレットで文字を書いたり入力したりすることができる

宿泊学習を目前に控えた教員室での会話

(島原先生)
そろそろしゅんたさんの宿泊学習ですね。何も起こらないといいな……。

(根本先生)
今年は、皆川先生が宿泊学習に引率していただけるのですよね。昨年度は、知的クラス1の先生のお子さんがまだ小さかったので私が代わりに行ったけれど、本当にいろいろなハプニングがあって大変だったな……。

(皆川先生)
そうね。宿泊学習の間は、非日常の連続ですもんね。いつもなら歯みがきはできるのに、場所が違うとそれだけでできないこともあるからね。現地へ行ってからどうするか判断しないといけないけど、ゆったりと構えてやるしかないわね。

【POINT1】宿泊学習は非日常の連続。家庭での様子を知っておく

しゅんたさんのように、独特の世界観をもっている子どもについては、宿泊学習は非日常の連続になります。いつもしている「寝る」「歯みがき」「食事」「お風呂」もルーティーンが変わります。支援をしてもらっている人も変わります。場合によっては、支援をする人との関係性の構築を図ることも必要になります。保護者さんのなかには、前向きな意味で、参加を見送る場合もあるぐらいです。だから、失敗と見える行為であっても、子どもの動きを待ち、ゆっくりと行為の手順を追って取り組ませることも大切です。

例えば以前受け持った児童に、家で歯みがきをするときには、必ず自分のお気に入りのコップで3回うがいをしてから、歯ぶらしに歯みがき粉をのせる子どもがいました。なので宿泊学習ではそのコップも持ってきてもらうようにしました。このように家庭での様子は保護者から聞いておくことも必要です。

様々な見学やグループの自由行動も非日常です。とくにグループ活動は難しい場合も想定されます。また、周囲の子どもたちにとっては、「どうして大人がついてくるの?」と感じることがあるかもしれません。その活動に参加できなかった場合も想定しておきましょう。そしてグルーピングする際には、本人と支援の大人の関係だけではなく、その周囲の子どもとの関係性も、学年の先生方と相談する必要があります。「しゅんたさんの状態が○○になったときは、離れて行動することがあるからね」など、グループの子どもたちと事前の確認も必要になります。

【POINT2】失敗も経験値! 周囲が判断しすぎないこと

失敗に見えるような経験でも、その子どもにとっては大きな経験値です。失敗してしまったかのようなことが何度も繰り返されても、最後に成功すれば、それは失敗ではなくなります。人生はロールプレイングのようなもの、いろいろな苦難を乗り越えてこそ、達成されたときの気分は爽快です。私を含め、これを読んでいる先生方もたくさんの失敗の上に生きています。ついつい体が大きくなり、ときには担任を超えるような背丈の子もいますが、子どもは子どもです。成功も失敗も大切な経験値になるので、たくさん積ませたいものです。

ただ、二次障害につながるような行為はNGです。細かい作業が苦手だとわかっている子どもに対し、「経験させるため」と配慮をせずに、ほかの子どもたちと同じスタートラインに立たせてしまう行為は、その子の誤学習や自己肯定感などの低下につながります。この見極めが、特別支援教員に求められる専門性なのかもしれません。

【POINT3】音声言語の指示を視覚化する

宿泊スタッフによる活動の指示や説明は、ほとんどが音声言語で伝えていることが多いように感じています。話の内容によっては物を使って話してくれる方もいますが、活動の最初にひととおりの説明をして、「はい、活動開始です」というケースが多いように感じます。支援のひとつとして、音声言語のほかに視覚化による説明のフォローも大切です。私は、校外での活動や体育学習のときは、スケッチブックと油性の太ペン(黒、赤、青の3色)を持って行くようにしていました。そして、自分の話だけではなく、ほかの方の話でもできるだけ短い言葉で書いて見せるようにしていました。こうすると、話の内容も焦点化され、しゅんたさんだけではなく多くの子どもたちとの共有化も図れます。

【POINT4】 荷物の管理は保護者の協力が不可欠!

宿舎では、友だちと部屋で過ごすことになるでしょう。その際、たくさんのエネルギーを使うのは荷物の管理です。場所にこだわってしまう子は、その部屋に入ってから、支援の大人と置き場所を相談して決めましょう。場合によっては、置き場所に目印をつけてわかりやすくしておくのもおすすめです。そして、荷物の整理がしやすいよう、保護者の方に協力をお願いしておくことも大切です。服などは、一日目の下着、活動Aで着る服など小分けにしてあると整理に困らないからです。

宿泊学習によっては急きょ、プログラムの変更などがあります。プログラムを見て、一日目の服、二日目の服と分けたつもりでも、プログラムの変更のために、活動と服が合わないということがあります。そのプログラムに合った服などが必要なこともあるので、小分けにする際はプログラム名で整理しておくと便利です。

宿泊先でどんなハプニングがあるのか、ちょっと楽しみなのよね。

大人の余裕ですね。いつか、そうなりたいなあ。

楽しい宿泊学習になるといいですね! でも……皆川先生がいない間の学校が心配です。一秒でも早く帰ってきてください!


いかがでしたか。楽しいことはもちろん、困ってしまうことや友だちとのトラブルがあったとしても、子どもたちにとっては大事な大事な経験値です。学校はできる限りの準備をして、宿泊学習に臨みましょう。そして、宿泊学習での貴重な経験を通し、一歩成長した姿で学校に戻ってきたいものです。

イラスト/terumi

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