入学前の検診、知ってた?就学時検診と発達障害への配慮~シリーズ「実践教育法規」~

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シリーズ「実践教育法規」
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早稲田大学大学院教育学研究科教授

髙橋あつ子

田中博之

教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、教育にまつわる法律や制度を分かりやすく解説していく本連載。第17回は「就学時検診と発達障害への配慮」について。就学時検診の意義や、課題点について解説します。

執筆/髙橋 あつ子(早稲田大学教職大学院教授)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)

【連載】実践教育法規#17

就学時健康診断の変遷

市町村教育委員会は、翌年に小学校に入学する幼児に対し、健康診断を行うことが「学校保健安全法」に定められています。その結果から「【就学】義務の猶予若しくは免除又は特別支援学校への就学に関し指導を行う等適切な措置を」とること、とされています。学校保健安全法施行規則に規定された内容は、栄養状態、脊(せき)柱及び胸郭の疾病及び異常の有無、視力及び聴力、眼の疾病及び異常の有無、耳鼻咽(いん)頭疾患及び皮膚疾患の有無、歯及び口腔(くう)の疾病及び異常の有無、その他の疾病及び異常の有無」とされ、この「その他の疾病及び異常の有無」に「知能」も含め、「知的障害の発見につとめ」と記されています。

その手法は、従来の「標準化された知能検査法」以外でも「適切な方法」であればよいと改められ(2002年)ましたが、「就学時の健康診断マニュアル」(日本学校保健会、2008、2018年改訂)に紹介された検査手続きに基づくものが多くなっています。ただ、この知能検査の実施状況は、地域により異なっています。

市町村教育委員会には、特別支援学校への就学を都道府県教育委員会に通知する必要等から、知的障害の有無を判別し、就学猶予や免除の判断に、就学時健診(における知能検査)は重要だったわけです。しかし、保護者にとっては、わずか1日の教員による簡易な検査で、就学先が決定され、分離教育の渦の中に飲み込まれていくかもしれないという不安を生む可能性もありあります。

就学システムの変更

障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」(文部科学省、2013年)では「可能な限り障害のある児童生徒等が障害のない児童生徒等と共に教育を受けられるよう配慮」し、就学に関する手続きについての情報提供や本人および保護者の意向を尊重するよう周知されました。早期に気づき支援を開始する必要性は、発達障害についても同様で、これまでの知的発達の程度で場を決める指導から、教育的ニーズを把握し支援を相談するプロセスへと変化してきています。

これまでは、障害ごとに定められている就学基準(学校教育法施行令)をもとに就学先を指導していましたが、この就学基準も見直され(2002年)、就学先決定には専門家の意見聴取、保護者の意見聴取(2007年)が義務づけられました。そして、「特別支援教育の更なる充実に向けて」(2009年)では、「個別の教育支援計画の作成・活用」によって、障害だけでなく教育的ニーズを把握し、保護者・専門家の意見や、就学先の学校が提供できる教育環境や支援内容等を総合的に判断して決めるよう提言されました(文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」(令和3年)参考資料)。

さらに「障害のある子供の教育支援の手引」では、一貫した教育支援の充実、教育的ニーズの重視、就学先決定等のプロセスに基づく教育支援の質の向上、就学先となる学校や学びの場における教育機能等の具体化、情報の引き継ぎ等を重視した対応が明記されています。

発達障害への配慮

発達障害は、知的な遅れを伴わない場合も多いため、知的能力の高さ低さより、個人の中での得意不得意を検討すべきですが、簡易型知能検査では把握しきれません。また、感覚や行動の特徴も把握する必要があります。そのため、幼稚園・保育園、療育機関等と連携し、早期に相談や支援を開始できれば、就学相談も早期から時間をかけて行うことができます。さらに、発達障害の児童生徒は、通常の学級に就学することも多いため、教育の場を決める以上に、どのような支援と合理的配慮が必要かを検討し、それを個別の教育支援計画に記していくことが求められます。これを基軸に、就学後も支援方法を検討し、時に柔軟に学びの場を変えることも含め、一貫した支援に活用することが成長につながります。

『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正

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