理想の教師像にとらわれないとは? 【伸びる教師 伸びない教師 第48回】
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「理想の教師像にとらわれないとは?」です。教育界では理想の教師像が多数存在します。そうした理想像を心のよりどころとし頑張れることもあるのですが、その通りにできない自分がいるとき、逆に自分自身へのプレッシャーになることもあります。そのときにどうするかという話です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
目次
責任は自分の内に置く
「やる気がまったくなくて困っちゃう。自分から動こうとしないんだから」
放課後の職員室でこんな声が聞こえてきました。
教師だって人間です。時には愚痴を言いたくなることもあります。1日の授業を終え、ほっとしたところでつい言いたくなる気持ちも分からないでもありません。しかし、私は大学の先生から次のように教えていただきました。
「責任は自分の内に置く」
その先生が
「人はうまくいかないことがあると、他人のせいにしたがるものです。しかし、他人のせいにした時点で自分の成長は止まります」
と、おっしゃっていたのを強く覚えています。
確かに、できないことを教師が子供のせいにしたらそこで終わりです。自分のやり方のどこがいけなかったのか、できるようにさせるには他にどんな方法があったのかなど、自分事として考えなくなるからです。それがつまり、これからの自分の成長が止まることにつながると私は捉えています。
ですので、私は職員室で子供のことを悪く言うような会話が聞こえてくると、口を閉ざすかその場を離れるようにしてきました。自分が担任している子供に関わるような場合には、意を決し自分の思いを相手に伝えたこともありました。ただ、その教師との関係を壊す結果となってしまいました。 しかし、こうした考え方は、私の中で年齢とともに変わっていきました。
自分の気持ちがマイナス方向に
40歳を過ぎた頃、生徒指導主任を任されたことがありました。
「子供が授業中騒いで授業にならない」と聞けば、自分の授業の合間にその学級に行き、様子を見たり子供たちを指導したりしました。その学級の子供たちが反抗的な態度なので強い指導をすると、担任以外の教師から叱られたと保護者からクレームが来ることもありました。
「子供がいじめられていると保護者からクレームが入ったが、担任では手に負えない」と聞けば、担任に代わってその保護者の電話対応をしました。カスタマーサービスでよく聞く「お前でなく上の者(校長)を出せ」と言われたこともありました。
とにかく、毎日のように生徒指導に関する学校のマイナスの情報が私のところに入ってきました。生徒指導では、晴れやかに問題解消となる問題はなかなかありません。とりあえず、今の状況を継続的に見ていくという経過観察的な問題が多く残ります。毎日入ってくる情報に加え、未解決のまま継続的に見ていかなければいけない問題も増え、次第に私自身の気持ちがマイナス方向へ向かっているのが分かりました。さらに、「責任は自分の内に置く」の言葉を大切にしてきた私は、生徒指導の問題が増えているのは自分の責任ではないかと思い始めました。
今できることをする
「このままでは、自分のメンタルがもたなくなる」
と思った私は、責任が自分にあるという考え方をやめました。
これは、人に責任を押しつけるわけではありません。
自分で責任を負うわけでもありません。
「自分に責任があるから何かをする」という考え方から「責任の所在はどうあれ、今、自分にできることをする」という考え方に変えただけです。
実際にやっていることはさほど変わらなかったのですが、考え方を変えたことで私にとってはプレッシャーがなくなり、気持ちが楽になりました。
教育界では、教師は「こうあるべきである」といった理想の教師像が多数存在します。「責任は自分の内に置く」も理想の教師のあるべき姿を言葉で表しています。
私たちは、そうした言葉を心のよりどころとし頑張れることもあるのですが、その言葉通りにできない自分がいるとき、逆に自分自身へのプレッシャーになることもあります。
しんどくなったとき、理想の教師像にとらわれていた自分をリセットするのも1つの手だと思います。「自分は自分、自分にできることをやっていく」と、理想の教師像から自分を解放するとすっと楽になることがあるかもしれません。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。