小学校から特別支援学級をなくしたら②

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制度としての特別支援学級をなくすことはできませんが、実質的になくすことは可能だと、宮岡愛子先生は言います。そして「いつもいっしょが当たり前」を実践した結果、教員たちの働き方改革にもつながったそうです。一体どういうことなのか、宮岡愛子先生の言葉に耳を傾けてみませんか? 木村泰子先生に師事し、現在は「みんなの学校マイスター」として講演活動や各校の支援で大活躍中です。 

【連載】大切なあなたへ花束を #06

執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子

★本記事は前後編記事の後編です。前編はこちらをご覧ください。

共に学び、共に育ち、共に生きる

あなたのクラス、あるいはあなたの学校には、さまざまな特性や個性を持つ子どもたちがいることだと思います。
その子どもたち、一人一人のかけがえのない人生を自分事として考えたときに、具体的に何をしますか? そして、どんなことができますか?
私は、小学校で多様性を認め合うことの必要性を感じ、特別支援学級を事実上なくそうと決心しました。いつもいっしょが当たり前の「共に学び、共に育ち、共に生きるインクルーシブ教育」を進めていくことが、これからの社会で生きていく子どもたちには必要なことだと考えてのことでした。
そこで、「すべての子どもを多方面からみつめる」との理念を立て、学年チーム担当制を導入して、新たな学校運営を始めました。(詳しくは前回の記事をご覧ください)

当初、保護者や教職員から、危惧や心配、不安などの意見が出たのは事実です。
しかし、それぞれの学年担当はまわりの子どもとのつながりを深める取り組みを続けてくれました。これは本当にありがたかったです。こうして、少しずつ、少しずつ、配慮を要する子どもが教室で学ぶことが当たり前になりました。そして、重度である子どもも教室にいることが増えていったのでした。

そんなある日のこと。
私が教室へ入ったら、
「○○さん、今こんな気持ちやねんで」
と、言葉を持たない子どもの代弁をしてくれた子がいました。
みんな、一緒にいることが当たり前になってきたのです。
発達障害と言われる子どもたちも、周りの定型発達の子どもたちとのつながりができていきました。

何よりうれしかったのは、不登校だった子どもが来るようになったことです。
「すべての子どもを多方面からみつめる」という理念は、言い換えれば「子どもたちのすべてを受け入れる」ということです。通常級とか、特別支援学級といった、大人による区分けを子どもに強いることなく、子どもたちは自分の所属する教室をベースにしながらも、みんながやりたい場所で勉強していい、という方針をとっていきました。
ありのままの自分を受け入れてくれる、と安心したのでしょう。来たいときに登校して、帰りたい時に下校していきました。

こうして1、2、3学期と学校運営を進め、3学期のまとめの時期になりました。来年度の取り組みについて、支援を要する子どもたちの保護者と面談をしたところ、
「このままインクルーシブをすすめていってほしい」
という願いを、たくさんの方から聞くことができました。

そして、「いつもいっしょが当たり前の学校」をつくろうと動き出してから3年目。ついに学校全体の空気が、目に見えて変わってきたのを感じました。
すべての子どもが欠席ゼロ、という日が1年間で2日もあったのです。これは心から嬉しいことでした。
さらに、家庭での虐待を疑われる子どももいましたが、学校全体に流れる温かな空気に安心し、閉ざしていた口を開けるようになってきました。

私たちは、制度として配置されている特別支援学級をなくすことはできません。しかし、特別支援学級は「あります、でもないです」という状態にすることはできます。
ある教員は、
「2年生の子どもたちは、入学してからみんなで一緒に学んでいるので、特別支援学級を知らないと思います。また、6年生の子どもたちは、はじめは特別支援の教室で学んでいたから、今ではその教室から『卒業』したと思っている」
と話してくれました。
配慮を要する子どもたちは、教室では立ち歩くこともあります。声を出すこともあります。立ち歩いても、声を出しても、それは日常のこと、その子にとっては当たり前のこととして、自分の学びを進めています。また、教室から外へ出てしまったときは、サポーターがすぐに対応してくれています。
教室の配置も、コの字型やグループ型にしてすぐに誰かに聞けるようにしたり、どうしたらよいか自分で周りを見て考えたりできるように工夫をしていました。
タブレットやミニホワイトボードも活用して、自分の学びを進め、自分の考えを自分らしく書くようにもしていきました。
でも、子どもを習熟度別に分散させるとき、特別支援学級の在籍児童だけになることもありました。
子どもの姿は、それぞれ異なります。
型にはめようとして、まるでスーツケースに入れようとするかのように、ボキボキと手を折り、足を折り、時には頭を押さえ込んでいたのを、風呂敷で子どもそれぞれの姿に応じた包み方ができるようにすること。子ども一人一人やその子のニーズに応じた柔軟な対応をしていくことが大切なのです。
そうすることによって、結果的に指示を出すことも少なくなり、子どもが考えて行動できることを促すようにもなりました。

インクルーシブ教育に取り組んだ結果、休職する教員もいなくなりました。
学年チーム担当制としたことで、各教員の負担が軽減され、時間外勤務は大きく減っていきました。
授業も保護者対応も子どもへの支援もチームでやることにより、それぞれの教員が一人で抱えこまなくてもよくなったのです。
困ったことを相談できる。困ったときには同じ学年担当の他の教員が、子どもや保護者と関わってくれる、ということが、教員たちの大きな安心感につながっていったのだと思います。
教職員同士で、今まで以上に力を貸したり借りたりできるようになりました。
大人同士が「助けて」「手伝って」「教えて」と言えることは素敵なことです。それに対するサポートを誰かがしてくれ、感謝できる関係って安心できませんか?

私は、子どもが一斉に同じことを同じ方法で学ぶのではなく、個々に応じた学びが成立するような学び方改革が、教員の働き方改革につながっていく、と考えています。学び方改革と働き方改革はセットです。

今、振り返ってみて思います。
インクルーシブ教育に取り組んだことで、学校の空気が明らかに和らぎました。
誰もが排除されない、ということは、子どもばかりか大人にとっても、気持ちの安定につながります。学校でどんなことをしても、何があっても、そこに居場所が保障されているのです。
もう一つは、大きな理念を打ち立てたとしても、やってみないと分からないことばかりだ、ということです。
想定外のことは必ずあります。やってみて、直すべきことは修正をしていけばよいのです。

最後に、配慮を要する子どもを持つ教員と交わした会話をご紹介したいと思います。

教員「1月に能登半島地震があり、災害が一層怖くなりました。もし、私が障害のある子どもと一緒にいないときに災害が起こったら、と考えたからです。その子たちは、災害が起こっている、ということが分からないかもしれません。子どもは避難させられるでしょうか? 避難所へ行けたとして、周りの人が受け入れてくれるでしょうか? 過敏な子どもは、避難所では過ごせません。避難所でパニックになった子がいる、と聞いたことがあります。確かに、周りが見知らぬ人ばかりだったら、そうなるかもしれません。でも、小学校でずっと一緒だった子どもが周りにいれば、その子たちから『大丈夫だよ』と言ってくれるだけで安心できる。親たちがそう思えることが、安心につながるのではないでしょうか」

「うちの小学校なら大丈夫だよね。避難所になっている小学校へ来て、誰もがみんなから声をかけてもらえるよね。安心して過ごせるよね」

2024年の夏「みんなの学校全国大会」が横浜で開かれました。あいにくの台風で新幹線が止まり、会場へ行くことはできなかったのですが、オンラインで参加することができました。そこへ参加することを(木村)泰子さんに伝えると、ある新聞記事を送ってくれました。
そこには、主催者の一人の、こんなメッセージが書いてありました。

「小学校では一時的な交流だったため支援学級の子たちを『お客様』感覚で受け入れ、クラスの一員や仲間と言う対等な関係を築けていなかった」
と。まさにこれです。

「誰もが分け隔てられず、自分らしく生きられる共生社会を目指すなら、同じ場で学ぶことが当たり前になる」
とも書かれていました。

そして、もう一つ、当事者の方のメッセージをお伝えします。
「障害があるから違う学校に行く、違うクラスに分けることは、子どもたちに、障害があったら分けていいと教えている事だと思いました」

多様性を認める社会をつくっていく子どもたちを育てるために必要なことは、誰も排除しない多様な子どもがいる学校をつくることなのです。

★本記事は、前後編の後編です。前編の記事はこちらをご覧ください。

イラスト/フジコ


宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。


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