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これからの特別支援教育に向けた教師の心がけとは

2020/1/21

子どもたちの多様性を認め、尊重していくことが求められるこれからの社会において、特別支援教育が果たす役割は大きいものがあります。学習指導要領の改訂を受けて、教師は特別支援教育についてどのように考え、指導に生かしていく必要があるのでしょうか。特別支援学校の校長を務めた経験をもち、インクルーシブ教育などを専門に研究している 横浜国立大学教職大学院・名執宗彦教授に、これからの特別支援教育のあり方について話を聞きました。

横浜国立大学教職大学院教授・名執宗彦
横浜国立大学教職大学院 教授・名執宗彦

名執宗彦(なとり・むねひこ)●横浜国立大学教職大学院教授。神奈川県立鎌倉養護学校教諭、横浜国立大学教育学部附属養護学校教諭、神奈川県教育委員会障害児教育課指導主事、神奈川県立金沢養護学校初代校長、神奈川県立平塚盲学校校長などを経て現職。専門は特別支援教育、特別支援学校教育課程。

通常学級における特別支援教育の必要性が明確になった

インクルーシブ教育の観点からみて、今回の小学校等の学習指導要領の総則に「児童の発達の支援」という項が設けられたことは大きな意味があると考えています。その中で「特別な配慮を必要とする児童」として、障害のある児童、海外につながりのある児童、不登校の児童が取り上げられ、それぞれへの指導上の配慮事項について記載されていることも、充実化が進んだ一つのポイントと言えるでしょう。

これまで、小学校等の特別支援学級や通級による指導で特別の教育課程を編成する際の考え方は、学習指導要領解説の総則編にのみ記載されていましたが、改訂によりこれらが本文での記載となりました。また、本文内では初めて「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」という用語を正式に使用。その作成や活用が努力義務として明記され、特別支援学級と通級による指導では義務付けられることとなりました。

各教科の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」において共通に「障害のある児童などについては、学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと」と必ず記載されています。そして解説の各教科編では、これに対応して、教科ごとに「その教科等の学びの過程で考えられる【困難さの状態】に対する【指導上の工夫の意図】と【手立て】」の例が示されました。

これらを踏まえると、新学習指導要領によって、通常の学級においても特別支援教育が行われる必要があることがこれまでよりも明確化されたということがわかります。

それぞれの子どもに対応した目標設定と評価が必要

一方で、これまでの特別支援教育に関する取り組みは、対象となる「障害児の範囲」を通常学級まで広げてきただけにすぎず、その仕組みが大きく変わったわけではありません。特別の配慮が必要となるのは、障害のある子どもだけではありません。真の意味でインクルーシブ教育を実現するには、あらゆる事情を抱えた子どもへの支援ができる制度を構築する必要があります。

障害者権利条約の第24条には、「一般的な教育制度から排除されないこと」と明記されています。この文を、国際的なインクルージョンの考え方に基づいて読み解くと、障害の有無によって教育の場を分けることは望ましくないことは明白です。すべての子どもが、なるべく同じクラス、同じ学校内で教育を受けるべきだと捉えるのが当然ではないでしょうか。

特に、重度の障害のある子どもは、都道府県が設置する特別支援学校に入学します。そして、その多くの場合は居住する地域から離れて学校生活を送ることとなります。このように、完全に生活の場が分けられてしまうのは、インクルーシブ教育の考え方とは反するものです。

中央教育審議会の審議のまとめでは、連続性のある「多様な学びの場」が必要であるとの認識が示されています。ただ、一度特別支援学校に入学した後で地域の学校に戻る例はほとんど見られません。例えば、全盲の子どもが点字の基本を盲学校で学んでから地域の学校に入るなど、「学びの連続性」を実現するための見通しを立てることが必要になる場面も多くあります。

学習指導要領の中では、資質・能力に関する三つの柱が一つのセットになって示されており、これらをバランスよく伸ばすことで「人格の完成」をめざしています。しかし、「人格の完成」に向かうポテンシャルはどの子どもにもあるとしても、障害によっては「知識・技能」に対してハンデを抱える子どももいます。とりわけ、日本の学校では、学力について全体が同じ基準で結果を求める傾向があります。障害のある子どもを含めたすべての子どもを、この三つの資質・能力により評価するのは難しいことです。それぞれの子どもが個別の目標を立て、その達成度が評価される必要があります。他の子どもと比べるのではなく、その子の中で立てた目標に対してどれだけ伸びたのかという部分を見られるようになっていくべきです。

インクルーシブ教育はソーシャルスキルを育成する

私は、インクルーシブ教育は障害のある子どもにとってだけでなく、その周りにいる子どもたちを育てるのにも必要なことだと考えています。障害のある子どもとそうでない子どもが分けられた状態の学校では、障害のある人との関わり方を学ぶ機会がありません。他者と関わる中で予想外のことが起きたり、衝突したりすることを経験して、子どもはソーシャルスキルを身に付けていきます。インクルーシブでない状態での学校教育は、こういった経験を奪ってしまっていると言えるのではないでしょうか。

学習指導要領には、交流及び共同学習を通して、障害のある子どもとそうでない子どもとの相互理解を図ることが重要だと明記されています。しかし、特別支援学校との交流及び共同学習が実施されるのは年に3回程度といったところ。人との関係づくりは、日常生活をともにし、同じ環境の中で学んで育まれるものです。これでは、お互いの性格や関わり方を知ることはできず、十分な理解にはつながりません。

誰にでも必要に応じて支援を行う姿勢を子どもに示す

通常の学級でともに学ぶ中でも、あらゆる子どもが理解できるユニバーサルデザインな授業が実現できれば、個々に対応しなければならない場面は減らすことができます。その上で、必要に応じて個別の配慮や指導をしていくという考え方で授業づくりに取り組むべきです。すべての子どもが活躍できる、という視点からは、間違えることを躊躇しないで自由に発言できるような空気をつくることが重要。学級経営の話になりますが、発言が活発なクラスでは、子ども同士の学び合いも促進されます。

子どもたちがインクルーシブな考え方をもつようにするには、教員が姿勢で示す必要があります。子どもたちは、予想外の事態に教員がどう対処しているかをよく見ています。慌てたり、少しでも面倒な素振りを見せたりすると、子どもたちはそこから受けた印象通りの考え方をもつようになってしまいます。障害の有無に関係なく、必要に応じて支援をするということを伝えることが重要です。声掛けひとつをとっても、子どもからどう見えているかを意識するようにしましょう。教員が適切な支援を実践できている学級では、課題を抱える子どもに対して周囲の子どもがサポートしている姿も見られるようになります。

個別に解決方法を探り支援の改善を重ねる

予想外の事態が起きても学校全体で落ち着いて対応ができ、課題を抱える子どもがいる学級の担任が安心して働けるようにサポートする体制を構築する必要があります。障害や事例ごとに対応をシミュレーションするというよりは、教務主任や同学年の担当教員など、誰がサポートに入れるかということを担任に伝えて、すぐに助けを呼ぶことを確認しておくことが重要です。言葉で学ぶよりも「他の先生が助けてくれた」という体験を通しての方が、支援にあたる教員の精神的な負担の軽減への近道になるのではないかと思います。

特に経験の浅い教員はまず、特別支援教育に関する基礎知識を身に付けておくことが求められます。子どもは聴覚よりも視覚から多くの情報を得ること、急な予定の変更は子どものパニックを招く可能性があることなどを知っておくだけでも、問題の芽を摘むことにつながります。その上で、同じ障害でも子どもによりその特性は異なるので、障害の型にあてはめて指導するのではなく、子どもの様子をよく観察して個別に解決方法を試行錯誤して、改善を重ねていくという支援をめざすべきでしょう。

また、学級にいる子どもの人数も、授業を円滑に進めるために注目すべきポイントです。学校視察の経験から感じたことですが、クラスあたりの子どもの人数が多すぎると、全体の統制がとりづらくなります。ティームティーチングができることが最も望ましいですが、それが不可能な場合、教員が一時的に個別対応をする間に授業が崩壊しない人数は25名程度が限度ではないかと思います。教員が少なく、負担が大きくなっている学校は多くあります。このようなことを発信して、外部に働きかけていくことは校長の重要な役目です。

障害の種類や程度によらず、ニーズがあればすべての場において適切な指導と必要な支援を行うのが、特別支援教育の定義。とりわけ、通常の学級における特別支援教育が充実すれば、インクルーシブ教育の実現に近づくはずです。 同じ学年の子どもは同じ場所で学校生活を送るという考え方が当たり前になり、その実現のために最大限の努力をしていく必要があるでしょう。

取材・文/加藤隆太郎(カラビナ)

『総合教育技術』2020年1月号より

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