学級で「ポジティブ行動支援」に取り組んでいくために大切なこと|東京学芸大学・松山康成先生

「適切な行動を支援することで問題行動を予防する」という考え方で注目されている、ポジティブ行動支援。最近、日本でも注目され始めているこの考え方について、教育現場で長年取り組んできた松山康成(まつやま・やすなり)先生に教えていただきました。(取材・構成:村岡明)

松山康成(まつやまやすなり)
東京学芸大学講師。大阪府公立小学校教諭、私立小学校教諭を経て2023年より現職。公立小学校在職中に広島大学大学院教育学研究科教育学習科学専攻に進学し、2022年修了(博士、心理学)いじめやけんか等の対立問題の予防・対応・修復の検討を研究テーマとしている。

ポジティブ行動支援はステキな行動を増やす

ポジティブ行動支援(PBS:Positive Behavior Support)は、問題行動を減らすのではなく、適切な行動を増やすことに焦点を当てるアプローチです。これは、適切な行動が増えれば相対的に問題行動が減るという考え方に基づいています。

ポジティブ行動支援の実践上の重要ポイント

みなさんの学級では、問題行動があったとき、どのように対処しているでしょうか。子供の問題行動に対して教師が注意や叱責ばかりすると、子供のほうでは「自分は見られているんだ」というように注目メリットを感じてしまい、さらなる問題行動の増加につながってしまいます。

ポジティブ行動支援では、注意や叱責ではなく、具体的な行動を指示します。「~しない」ではなく、「その場面ではどのような行動が期待されているか」を具体的に伝え、その理由を説明します。

教師はポジティブな行動が生まれるために必要な支援は何かを考え、同時にできた場合にどうするか、できなかった場合はどうするかを考えます。これを「行動契約」といいます。

実際の「行動契約」にどんなものがあるか、具体的に見てみましょう。

行動契約の実際例

学級でのポジティブ行動支援の実践

学級でポジティブ行動支援を実践するには、子供同士の人間関係構築と、基礎的な環境整備を実現する学級経営が必要です。以下、人間関係構築と基礎的な環境整備について説明いたします。

学級のポジティブ行動支援を実現する人間関係構築

まず子供同士の人間関係を構築するのに大切なことは、仲間のステキを見つけることです。「良いところ」ではなく「ステキ」であるところがポイント。人間関係構築の第一歩は、相手をよく見ることです。

「ステキ」の具体例を見てみましょう。

人間関係の構築で次に大切になってくるのは、ポジティブな言葉(学級で増やしたい大切な言葉)を見つけるということです。認める言葉、伝える言葉、支える言葉など、これらの学級で増やしたい言葉を子供たちと出し合い、まとめて、学級に掲示します。

仲間のことを理解し、ポジティブな言葉が共有できたら、ポジティブな関わりを増やします。ポジティブな関わりとして次のような基本的な4つの関わりを取り上げ、子供たちとどのように関わればいいか考え合い、練習をします。

  • ステキな聴き方
  • ステキな頼み方
  • ステキな断り方
  • ステキなあやまり方

そして人間関係構築に大切でありながら見逃されがちなのが、自分の感情と体調です。自分の感情や体調は、自分でも意外と分わかりません。これを可視化して学級内に掲示し、さらにグラフ化すると、自分の感情と体調はもちろん、仲間の感情と体調も知ることができます。

下記は私のクラスで掲示していた、感情と体調を示す掲示です。朝、学級に来たら自分の状態を示し、休み時間などに変更があればカードの色を変えます。一目で分かるように、色のカードで表す仕組みです。

学級のポジティブ行動支援を実現する基礎的環境整備

基礎的環境整備の第一歩は、学級目標と、目標を実現する価値、そしてその価値を実現する行動を決めるということです。たとえば「ポジティブな学級を作ろう」という目標に対して、「自分を大切にする」「友だちを大切にする」「環境を大切にする」という3つの価値を設定し、それらの価値が実現するステキな行動を考え合います。

以下は、それぞれの価値を行動に落として、チャート表にしたものです。具体的な行動を示すことで、より目標に近づくことができます。

学級目標を実現するために、自分が心がける行動を付箋に書いて貼り付けるスペースを学級に設けます。子供たちには、どんな小さな行動でもよいので、考えて、貼り付けることを伝えます。子供たちは「係の仕事を心をこめてする」「落ちている物をひろう」「できるだけほめたり、はくしゅしたりする」などの行動を考えました。

目標を実現するために心がけたい行動を考えて貼り付けていく

そして授業中や休み時間などの「場面」ごとに、「自分のかがやきを大切にする」「友だちのかがやきを大切にする」の2軸でマトリクスを作り、ポジティブな行動を分類していきます。

ポジティブな行動を集めよう!ーポジティブ行動マトリクスの作成ー

ポジティブな行動を「ポジティブカード」に書いて、お互いに贈り合います。

ポジティブな行動を認め合おう!―ポジティブカードの導入―

これらの手だてを通して、学級ポジティブ行動支援を実現するための基礎的環境を整備していきます。

行動支援計画シートの活用

さらに具体的な支援策を「ABCフレーム(先行事象・行動・結果事象)」に基づいて考えるために、行動支援計画シートというのを開発しました。これは、クラスの中で望ましい行動を可視化して共有するためのシートです。誰でもダウンロードできるようにしています。

ABCフレームについては下記記事を参考にしてください。
学級の問題を予防的に支援する「ポジティブ行動支援」の基本を学ぼう|北海道教育大学・杉本任士先生

例えば、チャイム着席を目標としたとき、次のようなシートを作成しました。

データの活用とグラフフィードバック

行動の変化を可視化するためには、データを収集しグラフ化することが重要です。これにより取組の効果が明確になり、さらなる改善につながります。

こうした取組は、ある程度成果が確認できたら、振り返りをして終わります。長く続けると、行動改善の「手段」であるべき取組が「目的」になってしまう危険性があります。取組はあくまでも行動改善の手段です。もしまた悪化が見られたら、再度データを踏まえて取組を考えなおしてみるといいでしょう。

ポジティブ行動支援を学校全体に広める

ポジティブ行動支援の効果を高めるためには、学級だけでなく、学校全体、できれば自治体全体で取り組むことが必要です。その実現のためには、次のようなポイントがあります。

  • 学校目標を明確にし、それを実現するための具体的な行動を考える
  • すべての教職員の同意形成をはかる
  • データ・効果を示していく
  • 管理職の理解を得る
  • 教師の教育実践・指導観を尊重する
  • 有識者と連携する(客観的な視点を取り入れる)
  • チームをつくる

学校全体で複層的に支援を実行

実際には「個別のポジティブ行動支援」「学級でのポジティブ行動支援」「学校でのポジティブ行動支援」の3つのレベルで、学校全体で複層的に支援を実行していきます。それぞれのレベルで「先行事例(きっかけ)」→「行動」→「結果(フィードバック)」を重ねていきます。

  • 個人的な実践から始め、データに基づいた成果を共有します。
  • 既存の取組をPBSの視点で見直し、改善します。
  • 教職員の個性や既存の教育実践を尊重しながら、徐々に広めていきます。

ポジティブ行動支援の効果と課題

ポジティブ行動支援を実践することで、以下のような効果が見込めます。

  • 子どもたちの適切な行動が増え、問題行動が減少します。
  • 教職員の指導力が向上し、より効果的な支援が可能になります。

一方で、課題もあります。

  • 一方で、PBSの考え方を理解し、実践することには時間がかかります。
  • 学校全体で取り組むためには、管理職の理解と協力が不可欠です。

ポジティブ行動支援は、子供たちの適切な行動を増やし、学校全体の雰囲気を改善する効果的なアプローチです。ただし、それを実践するには教職員同士の意識共有と取組を継続させていく仕組みが必要です。データに基づいた実践と、子供たち・先生方との対話がうまく組み合わされれば、効果的で魅力的な教育環境を作り出すことができるでしょう。

ぜひみなさんの学級でも、ポジティブ行動支援に取り組んでみてください。

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