保護者の子育ての不安に寄り添うとは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #17

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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの17回目のテーマは、「保護者の子育ての不安に寄り添うとは?」です。保護者は子育てについてどんなときにどのような不安をもつのでしょうか。保護者が子育てに悩んだときに教師はどのようにすればよいのかという知恵をお届けします。保護者対応のヒントにしてみてください。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

子育てに不安を抱えている保護者と向き合おう!

夏休みになると町の中に昼間から子供たちの姿を多く見かけます。電車の中では「学校があると楽よねぇ」「暑いし、連れて行く場所がなくて……」「家にいてもインターネットばかり見ていて困るわ」などというお母さんたちの声が聞こえてきます。改めて学校という存在は、昼間子供たちを預かる大切な教育機関なのだということを考えさせられます。

長期休みは、子供たちにとっては楽しい自由な時間です。でも保護者にとっては、その自由な時間が不安にもつながります。今回は、そんな子育てに不安を抱える保護者との向き合い方について話したいと思います。

増える子供の習い事

昨今、宿題を出す学校、出さない学校が話題になっています。欧米の学校などを考えれば、日本の小学校は宿題が多いかもしれません。でも全くなくなってしまうと、保護者は不安になります。

塾へ通う子供が増えています。進学を考えている場合は、小学校3年生の3学期ごろから入塾が始まります。この頃になると保護者の間で、塾に入れたほうがよいかどうか、賛否の声が聞こえ出します。塾に行けば必ずしも学力が上がるわけではありません。でも、塾に行っていれば安心、そう思う保護者は多いのではないでしょうか。

塾に限らず、何か習い事をしていれば安心に思う保護者もいるでしょう。コロナ禍前から放課後の子供の預かり保育と合わせて、放課後に英語教室や体操教室などを始めるようになった幼稚園やこども園が増えました。別途料金がかかっても、希望する保護者が多いようです。

私が通っているスポーツジムが入っているビルの5階は、いつの間にかいろいろなお店がすべて子供の習い事教室に変わってしまって驚いています。以前はジムのプールで子供のクラスがあるだけでしたが、英語教室、体操教室、音楽教室、絵画教室、そして個人対象の塾などができました。体操教室では外から見えるようになっていて、多くの子供たちが通い、廊下で見学する保護者もたくさんいます。

実は、私自身も2人の子供を育てましたが、共働きだったので、放課後はスイミングや塾などの習い事へ通わせていました。当時は、体が丈夫になったら、早いうちに英会話を身に付けることができたら、などと思っていましたが、今思うと、自分の安心のためでもあったかなと思っています。習い事が悪いと言っているわけではありません。ただ、子供にとって負担になる習い事は考えたほうがよいかもしれません。

保護者が不安になるとき 

どんなときに保護者は不安を感じるのでしょうか。保護者の過度な期待に子供が対応しなくなったときに、不安は顕著に表れます。

成績のこと

小学校6年のAさんの家庭は、代々みんな同じ大学を卒業していました。そのため、Aさんは、その大学系列の付属中学校にどうしても入学しなくてはいけませんでした。残念ながらAさんはその付属中学校に合格できず、第2志望の中学校に行くことになりました。そのとき、担任をしていた私は、保護者から子供の先行きの不安を相談されました。今の私でしたら、「人生長い目で見て、何も今の結果がすべてではないですよ」と言えますが、当時まだ若かった私は戸惑いました。

子供が保護者の期待通りにいかないと、保護者は不安になります。担任から見たら十分成長している子供の姿であっても、少子化の今、保護者の期待は少ない子供たちにたくさん寄せられてしまいます。3段階の通知表に1つだけ「よくできました」ではなく「ふつう」が付いてしまった保護者が、悩んで相談に来たときもあります。

友達との関係

成績の他に友達関係も保護者の心配事になります。子供の友達とのちょっとした口げんかの報告も不安になります。コロナ禍のときには、自宅で仕事をする父親が増えました。日頃の子供の様子や友達関係がよく分かっていなくて、子供の発する言葉だけから過度の不安が生じ、学校によく電話をかけてきた父親もいました。

教師にできること

教師はカウンセラーではないので、個別にずっと相談に乗ることは難しいかもしれませんが、不安を抱いている保護者から話を聞くことが大切です。保護者が子供に対して高すぎる理想を抱いていると思っても、決して保護者の言葉を否定しないことです。各家庭の価値観も違うので、まず保護者が何に対して不安をもっているのかを知り、その不安を受け止めましょう。そして、どんな保護者でも子育てに不安をもっているんだということに気付いてください。

子供のよさを伝える

様々な不安を抱えている保護者に対して教師に何ができるかとなると、小さな気付きしかありません。私たち教師にできることは、学校で見られる子供のよさを見付けて保護者に報告することだと思います。

「クラスの生き物係でこんなことをがんばっていますよ」「学校の委員会やクラブでみんなをまとめて活動していますよ」など、日頃、たぶん保護者が気付かないであろう子供の学校の様子をよく見ていて、子供の不安について相談してきた保護者には、できるだけその子供のよさをアピールしましょう。子供のことに否定的になっている保護者に子供のよさに気付かせることが大事です。

教師は、小さなことでもよいので、日頃からメモなど記録を取っておくと、話すときの資料になります。保護者の相談内容について、学校だけでなく児童相談所などとの関わりが必要だと感じたときには、学校や教育委員会を通してすぐに対応しましょう。

事実関係を確認

友達関係の不安を相談されたときには、保護者から聞いたことをもとに、すぐに事実確認をしてください。実際に仲間外れなどの状況が分かった場合は、先生1人で悩まないで周りの先生や管理職に相談し、できるだけ早く対応して保護者に連絡できるようにしましょう。

聞く姿勢をもつ

子育てに不安をもたない親はいません。私もいまだに自分の子育てに悩むことがよくあります。保護者から何か相談を受けたら断るのでなく、まずは聞く姿勢をもつようにしましょう。

先日、私よりベテランの先生方と会食をする機会がありました。みなさん教師の仕事をしながらお子さんを育てて成人させられています。そのときにかつての教え子の保護者から「子育てに成功した」「子育てに失敗した」などいろいろ聞くが、子育てに成功も失敗もないのではということが話題になりました。忙しさの中でご自身の経験をもとに話された言葉に重みを感じました。

何が成功で何が失敗かは人生いろいろあるので分かりません。保護者はその時点で一生懸命子供に関わることしかできないのです。私たち教師も精いっぱい、子供に目を向けてその子供の成長を常に見ていきたいと思います。

「めんどくさい」から「やってみよう」へ

忙しい日々のなか、保護者の子育ての不安相談に関わっていられないという思いもあるかもしれません。でもここで関わったことが、子供を通して保護者とつながり、それが自分の人生にも戻ってきます。

あるとき、高校生たちと話す機会がありました。「進路を選ぶとき、教育学科への進学はどう思いますか?」と聞いたところ、「先生って保護者との関わりがめんどいですよね」と言われてしまいました。ぜひ、私のこのコラムを読んで考え直してみてと伝えましたが、今日、人との関わりは、特に、保護者との関わりは、「めんどくさい」と若者に捉えられていることに改めて気付かされました。でもそのように捉えるのではなく、ぜひ前向きに「やってみよう」と保護者に歩み寄ってください。

この連載の第1回で教え子とのつながりについて書きました。教え子とつながってはいますが、もちろんその教え子の保護者ともつながっています。どんな優秀なお子さんでもみなさん悩んで子育てをされてきました。いろいろな人生とつながれることが教師のおもしろさだと思います。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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