小学校高学年「思春期」児童の男女別トリセツ

特集
小学生「思春期」のトリセツー高学年対応に自信が持てる!ー

株式会社 感性リサーチ代表取締役

黒川伊保子

思春期を迎えようとする小学校高学年は、脳の構造という面からも大きく変化し成長する時期。小5小6担任ならば特に、脳科学の視点を持つこと、男子と女子の脳の違いを知っておくことは非常に大切です。

『娘のトリセツ』(小学館新書)『妻のトリセツ』(講談社+α新書)も大ヒット中の、AI研究者、感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子さんにお話をうかがいました。

黒川伊保子さん
黒川伊保子さん 写真/五十嵐美弥

黒川伊保子: 株式会社 感性リサーチ代表取締役。 人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。 脳機能論と人工知能の集大成による語感分析法を開発。性や年代によって異なる脳の性質を研究対象とし、男女脳論を展開。著書多数。 近著に『娘のトリセツ』(小学館新書)『妻のトリセツ』(講談社+α新書)ほか 、『恋愛脳』『夫婦脳』『家族脳』『成熟脳』(新潮文庫)、『母脳』(ポプラ社)など。

9歳から12歳は脳のゴールデンエイジ

9歳の誕生日から12歳の誕生日までの3年間は、脳のゴールデンエイジです。この時期は、特に寝ている間の脳神経回路が爆発的に発達します。子供たちは想念としての世界観をどんどん広げていきます。

世界とはどんなものなのか、自分とはいかなるものなのかを知っていく時期で、先生という存在はとても大事になります。観察の対象にもなり、仮想敵にもなり、一生の師にもなります。ですから先生方にはぜひ正しい日本語を遣い、子供の理想の大人としてふるまっていただきたいと思います。そうすることで、子供たちも自分なりの世界観の中で、先生に対し、一目置くようになるでしょう。

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男子脳の特徴

男子には目標が必要
教師は憧れの存在になるべき

男性脳は、ゴールを明確にすることで、やる気を出す傾向があります。例えば野球をする子は、「大谷翔平のようになりたい!」と、憧れの選手を決めます。ロールモデル(役割の手本)が必要なのです。

そして、小5くらいの男の子には、大人としての目標も必要です。基本的には身近な人をロールモデルにしていくので、もっとも身近な目標は父親です。そして次は学校の先生です。ですから、先生方にはぜひ男の子が憧れる大人になることを目指してほしいと思います。

服装や歩き方が格好よい。話し方や姿勢が美しいということも大事なことです。自分の趣味を持ち、自分が何かを追求している姿を見せるのもよいでしょう。また、これまでに何かに悩み、それを克服した時の話をするなど、人生の幅、人間としての奥行きのようなものを見せられると、より魅力的に感じられます

ほめる時は大人の都合でほめない

ほめ方も低学年と違って工夫が必要になります。高学年の男子は、先生にほめられるために頑張るということは減ってくるでしょう。

低学年・中学年では、「君は一番に片付けができるね」などと、きちんとしている子をほめて、その良さを周りの子に広めるやり方も有効ですが、高学年では、先生が大人の都合でほめていることを見透かします。そして押しつけがましさを感じるようになります。

男子の場合は、片付けや花の水やりをしてくれたなど、大人の都合のよいことでほめるのではなく、頑張ってテストの点数が上がったなど、その子が成果を出したことをほめるほうが効果的です。

男子は戦いたくて仕方がない時期
競い合う活動が必要

男子にとって、勝負に勝ち、他者から認められるということはとても大事なことです。特に小学校高学年以降は、テストステロンの分泌が始まる時期。テストステロンは、戦いや攻撃を好む男性ホルモンです。戦いたくてしかたがないこの時期に戦わせてもらえないと、せっかく用意された力強いエネルギーが、問題行動や、いじめなど、別の方向に向かってしまいます。

男の子はゴール志向とお話ししましたが、ゴールデンエイジで世界観が広がっている時は、さらに目標を欲しがります。このエネルギーを正しい方向に向かわせるためには、例えばクラスで大きな目標を持つとよいでしょう。

縄跳び大会や合唱コンクールなど、何かを競い合う活動はとても効果的です。例えば、クラス対抗で競わせ、みんなで助け合い、何かに勝つ。こうした目標が、この時期の男の子に必要不可欠です。クラス対抗ですることが難しければ、懸賞に応募したり、壁いっぱいに模造紙を貼って、チーム対抗で何かを描いたりといった目標でもよいでしょう。

察する能力は女子の6分の1
掃除はタスク分析をしよう

「なぜ男子は気づかないの?」

「なぜ男子は掃除をちゃんとやらないの?」

これは女子の永遠の嘆きかもしれません(笑)。こうした男子の特性に対して、女性の先生は「自分をバカにしているのではないか」と思う時があると思います。「ここをきれいにしなさいと言ったら、先にほうきで掃いてモップをするのが当たり前でしょ? どうしてモップからやるの? 私をバカにしているよね」と(笑)。

しかし、男子はバカにしているのではなく、本当にわからないのです。
男子の察する能力は、女子の6分の1と言われます。掃除に関しても、女子がリーダーシップをとり、『〇〇くんはこっち、○○くんはあっち』と命令するほうが効率的なのです。もし、男の子に完璧を目指させるのであれば、タスク分析とタスクのリストアップが有効です。

例えば、学級会などで話し合ってはいかがでしょうか。掃除タスクをすべて付箋紙に書き、それをどの順番で進めるのが一番合理的かを話し合うのです。何から始め、何が一番時間がかかるのか、掃除というタスクをもう一回考え直すのです。これをシステムエンジニアは、クリティカルパスと呼ぶのですが、こうしたタスク分析なら、男子も喜んでやるはずです。チームをつくって、ネーミングを考えさせたり、掃除をポイント化して、一番辛い作業のポイントを高くしたりするなどの工夫もよいでしょう。

女子脳の特徴

10歳を過ぎたら一人前の女性
大人の女性に話す言葉を遣う

女子の特徴は、4歳ですでに一人前の自我を持つということです。女性は生まれてきた時から、右脳(感じる領域)と左脳(顕在意識)の連携がとてもよいので、男性とは比べものにはならないくらい、自分のことを観察しているのです。

さらに、10 歳を過ぎ、生殖ホルモンが出てくるようになると一人前の大人としての成長が始まります。ですから、一人前の女性と同じ扱いをしなくてはいけません。親しみを表現するために友達口調で話すという戦略もあるかと思いますが、高学年の女子は馴れ馴れしくされることを好みません。

「みさき、あれやれよ」など命令口調ではなく、「田村さん○○してくれますか」などと、子供扱いせず、大人の女性に話すような言葉を選ぶとよいと思います。

エストロゲンが活発に分泌し
集中力が欠如し、イライラする

女子は、初潮を迎える前の二年間が身長の伸びる最盛期と言われ、大半の小学校五、六年の女の子は身長が伸びる時期です。背が伸びる時や生理が始まる時は、血中鉄分が足りなくなり、貧血になりやすくなります。脳に酸素が行きづらくなるので、どうしてもボーッとします。つまり、背がぐんぐん伸びている二年間と、生理が始まり毎月出血することに体が慣れてくるまでは、女の子は集中力が欠如するのです。これはその子の責任ではなく、女性の特有のもの。叱るよりも、レバーや肉を食べさせて、鉄分を積極的に採らせるほうが効果的です。

さらに、第二次性徴期の女の子の脳には、エストロゲンが活発に分泌してきます。エストロゲンはイライラするというのが特徴。つまり、集中力散漫でイラついているのが、この時期の女の子の基本特性なのです。自分自身でどうしようもないことなので、先生方も、過敏に反応するのではなく、大らかに捉えていただきたいと思います。

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女子の生殖本能は優遇と共感を求める

女性の脳は、自分が他者から尊重され、共感されることを望んでいます。その理由は哺乳類のメスだからです。哺乳類のメスは、自分の体の中で子供を大きくし、命懸けで産み、その後も自分の血液を母乳として与えます。そのため、比較的健康で栄養状態が良い必要があり、自分が所属する集団の中で優遇されていないと、生殖が完遂できないのです。

女の子が、「自分が大切にされたい」と思うのは、わがままなのではなく、生殖本能の一番強い脳の信号として、自分の所属する集団の中で比較的優遇されることを望んでいるからであることを、先生方も理解しておくとよいでしょう。

叱る時には、気持ちとファクトを使いわける

感においては、「気持ちがわかる」という受け止め方が大事になります。女性に話をする時は「気持ち」と「事実(ファクト)」をわけて話すことで伝わりやすくなります。

叱るときも、「気持ちわかるよ。私があなたと同じ立場だったらそうしたかもしれない。でも、それは間違っているよね」と、気持ちとファクトを使いわけて話をするとよいでしょう。ファクトだけで頭ごなしに叱られるというのは、女性にとっては特に、受け入れ難いものです。もちろん、気持ちもファクトも両方否定したくなる時もあるでしょう。

「申し訳ないけれど、そういうことをする君の気持ちがわからない。するべきではない」という言い方もあります。しかし、私は学校の先生は、「気持ちがわからない」という言い方は極力しないほうがよいと思います。ファクトの善悪は伝えなければなりませんが、女の子を相手にする時には、気持ちの部分で「君の気持ちはわかる。私も小学校の時にそう思ったことがある」などと、一旦は受け止めてあげましょう。そうでないと女子は傷付き、一生心に残る悲しい思い出になってしまうかもしれません。

言葉で労をねぎらうほめ方は信頼感につながる

ほめ方は、男子同様に、自分がしてほしいことをしたらほめるなど、大人の都合でほめないこと。そしてこれは匙加減が難しいのですが、人知れず努力していることを、言葉に出して労ってあげることは、女の子には効果的です。

例えば、当番ではないのに人知れず花瓶の水を替えている場合などには、「ありがとう。よく気づいてくれたね」と言って労う。先生はちゃんと自分を見てくれていると思うと、信頼感につながります。

すべての男性を拒絶する時期
男性教師は反応しないほうがよい

この時期の女子はエストロゲンが活発に分泌することで、男性を拒絶するようになります。父親に対しても一緒です。哺乳類のメスは、脳の辺縁系に異性をシャットアウトする警戒スイッチがあるのです。異性は基本近づけず、見た目や匂いなどから、相手の遺伝子情報を読み解いて、自分がこの人と決めた相手にだけ、警戒スイッチを切るのです。そのスイッチがピークになるのが二十五歳くらいと言われます。

高学年の女子は、警戒スイッチが入っている状態なので、急に男子や周りの男性を避けるようになります。ですから、男性の先生は、女子に近づいただけでイライラさせることがあるので注意が必要です。徒党を組んで先生を嫌い、その反応を見て面白がることもあるので、もし嫌われても反応しないようにしましょう

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先生は大人の「見本」

先生自身の人生を楽しもう

目線を子供だけでなく、自分にも向けましょう。ご自身が楽しめる趣味をお持ちになっていただきたいと思います。先生自身が人生を楽しみ、成長していく姿を見せることは、子供たちの脳に、人生への信頼をつくります。人生の早い時期に出会う大人の「見本」として、先生は重要な存在なのです。

そして、子供たちの生きる力を信じてください。脳は、好奇心と意欲をもって生まれてきます。指導してつくるものだと思うと苦しくなりますが、埋もれているものを出現させると考えたら、少し楽になりませんか。指導者が時に厳しく、大半は大らかに振舞っていると、混沌の中でも芽を出すのが子どもの脳です。現実の中では裏切られることもあると思いますが、どうか、信じてあげていただきたいと思います。

取材・文/山岡文絵

『小五教育技術』2018年4月号より

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