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知らないではすまされない『性の多様性』 子供たちへのLGBT教育

2019/10/20

少しずつ社会に浸透してきた「LGBT」という言葉。同性を愛するレズビアン(L)やゲイ(G)、両方の性を愛するバイセクシュアル(B)、心と体の性が一致しないトランスジェンダー(T)などのセクシャル・マイノリティの割合は、あるデータによると約8%、クラスに1人~2人いるとも言われています。平成27 年には文部科学省から、性同一性障害にかかわる児童生徒へのきめ細やかな対応等を求める通知がありました。自分の性に揺れている当事者の子供を救うだけでなく、すべての子供たちが豊かに生きるために、「自分の性や相手の性を大切にする」ということを、先生も子供と一緒に考えていきましょう。

公立小学校の教員でありながら、勇気をもって、自らのセクシュアリティをカミングアウトした鈴木茂義先生に、「LGBT教育」についてお話しいただきました。

鈴木茂義先生●都内の小学校教員退職後に、ゲイであることをカミングアウト。現在は小学校で非常勤講師を務めながら、セクシャル・マイノリティについての教育・啓発活動を行っている。東京都世田谷区男女共同参画センターらぷらす相談員。

LGBT教育

自分の性に揺れていた小学校時代「嘘をつくのが辛かった・・・」

クラスの中に、「女の子っぽい男の子」や「男の子っぽい女の子」はいませんか? そして、その子たちがそれを理由にいじめられていたり、悩んでいるとすれば、先生はクラスの子供たちをどんなふうに指導しますか? 「LGBT」や「性の多様性」は、もはや「大人の性の問題」ではなく、小学校からしっかり教えて、みんなで考えなくてはいけない「生き方と在り方の問題」だと、ぼくは思っています。

ぼくはゲイです。自分のことを男性だと認識していて、性的指向が男性である男性同性愛者です。当事者として、自分の小学生時代をふり返ってみると、最初から「自分はゲイ」だと自覚していたわけではありません。ただ柔らかい物腰だったので、男らしさのヒエラルキーにおいては底辺でした。地域のソフトボールチームに誘われるのも嫌だったし、スポ根のアニメも苦手。男の子のコミュニティでフットボールに誘われたりする同調圧力も、しんどかった記憶があります。

でも、同級生の女の子を好きにもなりました。ただ、好きな男の子もいたし、男の先生を好きになることもあって、自分の性は揺れていました。宿泊活動のときなどに、「誰のことが好き?」みたいな話題になると、好きな女の子は当時おらず、男の子が好きだったので、話ができなくてごまかしていました。それが、一滴一滴水を垂らすように、「なんで、嘘をつかなくちゃいけないんだろう」というしんどさとなり、溜まっていきました。こんなふうに、ぼくの小学校時代は、性の芽ばえの時期でした。

小学校でわかりやすいのは、早い時期に芽生える「T」

LGBT教育

ごまかせないのは、服装や髪型、思考や言動が、身体の生来の性と逆になっている子供。「LGBT」の「T」であるトランスジェンダーの子供です。トランスジェンダーの子供は、自然にカミングアウトの状態になっていることが多いので、周囲にもわかりやすい傾向があります。また、性的指向と関係ないので、比較的早い時期に違和感を覚えるようです。すでに七五三で、「女の子のかわいい着物を着たくない」という子も現われます。就学前健診の段階で、小学校に相談案件として寄せられるケースも増えてきました。

生まれたときの性別と自分が認識している性別とが違ってくると、本人はそのギャップに苦しむことになります。また、トランスジェンダーは見た目でわかることもあるので、周囲も気が付きます。周りの子供は思ったままの疑問を口にするかもしれません。

そんなときに、心ない言葉を浴びて、心に深い傷を負ってしまうかもしれません。いじめや不登校につながる可能性だってあります。

先生が「あの子、そうなのかなぁ」と気付いたとき、早期にさりげなく「何か困っていることはない?」と声をかけるなど、個別の対応が必要です。「集団の中で適応できているだろうか?」が一つポイントになります。本人に困り感がなければ、ひとまず、見守る姿勢でよいと思います。

「LGBT教育」は、もう「知らない、わからない」ではすまされないのです。

「思春期になると異性に関心が・・・」 変わらない教科書で先生はどう教える?

「LGBT教育」というと、先生方から「自分は当事者でないし、教え方も教わってないからわからない」と言う声をよく耳にします。でも、「戦争」については、戦争経験者ではないのに教えていますよね。同じことです。

人によっては、物事をカテゴライズして安心する習慣があります。「男女二元論」もしかり。「男の子は青色、女の子の赤色」のように、無意識に男女二元論の中に自分や他人を当てはめて考えようとしています。カテゴライズしたほうが理解しやすいからです。

ところが、LGBTという自分の理解を超えた新しい概念が出てくると、みんな対応に困ってしまうわけです。

セクシャル・マイノリティの割合は、いろいろなデータがありますが、日本の人口の13人に1人、約8%がLGBT層であるとも言われています。これは、左利きの人や、AB型の人とさして変わらない割合なのです。

LGBT教育 性の多様性

トランスジェンダーの子は宿泊学習での入浴、着替え、体操服や制服など、教育現場でも、当然配慮しなくてはいけません。文部科学省の「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」(平成28年)の通知では、子供が相談しやすいように、先生が性的マイノリティについて心ない言動を慎むことや、子供の服装や髪型について否定したり、からかったりしないように明記されています。つい「もっと、男らしくしろ!」などと言ってしまう先生は、要注意です。自らのジェンダー意識について考えるきっかけになるかもしれません。

しかし、新・学習指導要領には、残念ながら「性の多様性」は盛り込まれませんでした。つまり、次の改訂までの10年間、教科書に性の多様性についての記載はないままです。小四の保健の教科書では、「思春期になると、異性への関心が芽生えます」という文言のまま「女性は男性を、男性は女性を好きになる」と教えられるのです。そうすると、ぼくのような性的指向が同性に向く子供は、「自分はおかしい?」と、ますます苦しくなってしまいます。

問題意識をもっていれば、教えるチャンスはどこにでも!

「性の多様性を教える具体的なノウハウを知らないから、どうやって教えてよいのかわからない」「クラスの中に、トランスジェンダーかなと思うような子がいるけど、どう対処したらいいのかわからない」。そんな声を聞くこともありますが、「LGBT教育」を、新しいトピックとしてことさらに身構えることはありません。性の多様性は個性の一つであり、LGBT教育は「一人ひとりの個性を大切にしよう」の延長線上にあるだけです。

教科書に記載がなくても、性の多様性を教えるチャンスは日常会話の中にいっぱいあります。例えば、男の子がピンクのTシャツを着てきて、友達に「おまえ、何、女みたいなTシャツ着てるんだよ」と言われたとき。そこからもう授業が始められます。誰かのことを「オカマ!」と、からかった子がいたとします。「今はいろいろな人がいるとわかってきた時代だから、オカマなんて言うと、時代遅れだと思われちゃうよ」とプライドをくすぐりながら教えることもできるでしょう。

教科書の「思春期になると異性への関心が芽生えます」の一節を読んで、「この中に間違っているところがあります。どこだと思う?」と、授業で仕掛けたこともあります。先生が問題意識をもっていれば、どんなきっかけでもLGBTや性の多様性の話はできるのです。

言葉がけは「いつでも相談に乗るからね」

LGBT教育

教師は、性の違和感で困っているように見える子がいたら、「困っていることがあったら、いつでも相談に乗る準備はできているからね」とだけは伝えておきましょう。

ぼくの場合は、学期の間に1回はクラスの全員と、給食準備中や放課後に個人面談をしていました。そこでの質問は二つだけ。「学校で一番楽しいことは?」と「学校で一番困っていることは?」。子供は二人きりだと悩みを打ち明けやすくなります。その子の困り感を早めに知って、問題が表面化する前に手立てを考えるようにします。二人で「作戦会議」もよいでしょう。

何も打ち明けてこないならステイ。無理に「ほじくる」ことはないのです。子供たちも毎日セクシャリティのことだけで悩んでいるわけではありません。「白」か「黒」かはっきりさせる必要はなく、小学生の間は、性が揺れ動いていることもあるので、経過を見守ることも大切です。

自分の多層性にも目を向け、差別なく助け合える社会を!

LGBTの子供に、どんなことを言ったら傷つくのか不安になる先生もいるかと思います。

でも、ぼくだって、ゲイのことは理解できるけど、レスビアンのことはわかりません。「セクシャリティは一人ひとり違う」とわかっているから、やさしくなれるだけです。

だから、ぼくも言葉選びを間違えることはあります。でも、間違えてもいいんです。間違えた後、どうやってコミュニケーションをとっていくかが大事です。「そんな言い方をしないで」「私のことはこう思って」「そうか、ごめんね」「これから気を付けるね」という、双方向のやりとりが必要なのです。

これまでは学ぶチャンスがなかったLGBTや性の多様性ですが、これからみんなで学べばよいのです。「先生も知らないことがいっぱいあるから、みんなと一緒に勉強していこう」と。

一番大切なのは、「差別意識をもたない」ということです。人はともすると、「マイノリティを差別したり、下に見てしまう」傾向があるかもしれません。でも、はたして自分の中には、マイノリティな部分は全くないと言えるでしょうか?

先生自身も自分の「多層性」に注目してみてください。誰もが、ある部分ではマジョリティであり、ある部分ではマイノリティであることがほとんどです。

世の中には目に見えるマイノリティ(身体的障害など)もあれば、目に見えないマイノリティ(性的指向など)もあります。福祉の教育で、「困った人に手を差し伸べよう。バリアフリーの世の中にしよう」と、ちゃんと教えられる先生なら、性の多様性だって同じようにできるはずです。トランスジェンダーの子に限らず、困っている子がいたら、「何かできることある?」と自然に手を差し伸べ、お互いに助け合える教室。それが目指すところです。

LGBTや性の多様性の教育は、決して特別なことを教えるわけではないのです。

イラスト/河合美波 取材・文/谷口のりこ

『小三教育技術』2018年10月号より

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