ストレスをためない、健やかな教員生活のために! 脳科学に基づいた「気にしない哲学」の実践ガイド

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元山形県公立学校教頭

山田隆弘
気にしない

教育の現場は、時に厳しく、予測不可能なことに満ちています。保護者、上司同僚、そして児童たちからの心ない言葉でストレスを受け、辛い日々を送っている人も多いのではないかと思います。本来教職は、児童を幸せにするための存在です。そんな人たちこそ、率先して幸せで楽しくあってほしい。
だからこそ、心の平穏を保つために、「気にしない哲学」を身につけてみませんか?

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

1 気にしない=囚われすぎないこと

「気にしない哲学」とは、外部からの否定的な影響に囚われすぎないこと。そして自己の価値と尊厳を守ることであると言えます。「ストレスを跳ね返す」というより、「ストレスを感じたとしても、それに囚われ過ぎない」ような心の持ち方をすることです。
心理学には「レジリエンス」という概念があります。直訳すると「弾力性」です。柔らかい物体は外から力を加えられて変形しても、やがて元の形にもどります。そのように、ネガティブな要因で凹んだ心を元に戻すような、精神的な回復力のことを指します。
ネガティブな出来事に対して、無関心や無感動になれ、ということではありません。
自分自身の精神的な健康を守り、教員としての使命を全うするための戦略として、この「レジリエンス」を意識してみましょう。

2 「気にする」あるいは「悩む」感情の正体とは?

例えば皆さんには、こんな体験がありませんか?
指導案提出の締め切りが迫っているのに、一向にアイデアが浮かばず、整理もついていない。
「どうしよう?」という悩みはあるものの、思考はストップしたまま…。
「脳の学校」代表である、脳内科医の加藤俊徳氏によれば、脳には役割に応じた「脳番地」があり、悩んでいるときに動いているのは唯一、感情系の脳番地だけだそうです。
思考は感情の上位に位置づけられるため、土台となる感情が動揺していると、思考が十分機能できなくなるわけです。そしてずっと不安を感じるということは、それだけ長く感情系の神経細胞を稼働させているということでもあります。身体はそのために必要な酸素を供給しようと血圧を高め、脳は疲弊して、身体も脳もどんどんパフォーマンスが落ちてきます。
一方、「考える」ことは、思考系の脳番地に身体のリソースを全振りできます。あるいはそこに「考えることが楽しい」という感情系の働きが加われば、相乗効果が期待されます。
ネガティブな感情のあるなしで、パフォーマンスには歴然とした違いが出ると言えるでしょう。

3 脳の癖を変えるための行動を!

「気にしない」脳にするには脳の癖を変える必要があります。
加藤氏による、「よい癖のつけかた」を、学校現場に即してステップ化してみましょう。

STEP 1 【悩みの自覚・悩みの言語化】 

自分が気にしていること、悩んでいることを言葉にして、整理してみます。
悩みを言語化するわけです。なんかもやもやしている。これって何なんだろう?
「指導案作成がうまくいかない」
「保護者から若い教員が担任だと困る、と言われた」
「○○さんがいうことをきかない」
など、気にしていることを文字化していきます。
人間は、何らかの形で情報が不足しているとき、悩んでしまいます。
つまり、文字として悩みを情報化してあげることで、感情系脳番地が暴走するのを防ぎ、思考系脳番地を働かせるようにしてあげるのです。

STEP 2 【第一歩の行動へ・解決策の模索】     

自分が気にしていることや悩みの具体を言語化できたら、次は解決のために「行動」に移してみましょう。
「学年主任に相談する」
「管理職にアドバイスをもらう」
「関連するセミナーを受講する」
「ネットの中で同じような悩みをもっている人と出会ったり、みん教などのサイトに類似例がないか探したりして、解決のヒントをもらう」
などして有効な方法にたどり着くようにします。

STEP 3 【実際に行動してみる・実行】

実際にその方法を現場で試行します。このように、次にすべき行動を明確化していくと、物事が一気に解決の方向に向かいます。「どうしよう」という不安いっぱいの脳から「こうすればいい」という脳に変えていくわけです。

4 悩みに触らずに、悩みを解消する方法も

また加藤氏によると、「悩みに触らず悩みを解消するコントロール術」というものもあります。
毎日の教員生活に即すると、例えばこんなことです。

① 脳番地の働かせ方を工夫してみる

感情以外の脳番地を働かせてみたり、悩み以外のことで感情の脳番地を働かせてみます。

 運動系の脳番地を働かせてみる。例えばスイミングやランニングなど。
 楽しいことに思考系の脳番地を使ってみる。例えば教育とは無関係の本を読んだりする。
 感情系の脳番地をプラスなことに使ってみる。例えばピアノを弾いたり、カラオケを歌ったり。

② 目新しいものに触れてみる

 新しいお店を探したり、早めに退勤してウィンドウショッピングをしてみる。
 趣味を始めたり、見知らぬ場所に旅行してみたりする。
 映画を観たり、仕事とは関係ない本を読んでみたりする。
 カラオケで新しく覚えた曲を歌ってみる。
 新しく習い事を始めてみる。
可能な範囲で環境を変え、脳が新たな刺激を受けるようなものを探してみるわけですね。

③ 自分でどうにもならない悩みは手放す

悩みは自分の力で解決できることと、誰かの協力なしには解決できないことにハッキリとわかれます。自分だけでは解決できないことに思いを巡らせても、ただ脳を疲弊させるだけです。

 肯定的な思考法をする。できなくても、誰かに助けてもらえばいいじゃないか等。
 絶対に不可能なことは潔く諦める。
 早めに寝てしまう。
睡眠の力は侮れません。眠っている間に脳の中が整理され、起きると悩みが軽くなっていたりします。

④ オンとオフの時間を区切る

悩む時間は仕事の間だけ。仕事の終わりを決めます!

 今日の仕事は○時○分まで、と時間で線引をする。
 今日やることはここまで、と毎日の仕事のメドを設定する。
エ 悩む時間は児童の帰った後30分だけ、と時間を決める。
オンからオフへの切り替えが苦手な人ほど悩みやすい、という傾向があるそうです。
「交友関係」「着ている服」「いる場所」「属する環境」などが、オンオフを変えやすいスイッチになりますので、ぜひ意識してみてくだい。

5 過去の自分にさよならを

悩みやすい人は同じことで悩む場合が多く、過去の嫌な経験にも囚われがちです。
例えば、「〇〇さんが言うことをきかない」という事例があったとき。過去の同じような記憶が呼び起こされ、フラッシュバックを起こしてしまうことがあります。
いやな経験は、映像と感情がセットになって記憶の中に残っています。そのため、嫌なことを思い出すと、一気に嫌な感情までたくさん湧き上がってくるわけです。
こうした場合には、
「今日のわたし」は、「昨日までのわたし」と違うんだ!
と切り離していきましょう。

また、違う番地の脳を働かせたり、考えることをやめたり、新しい情報を入れたり、といった新しい要素を取り入れることは、長い目で見る必要がありますが、確実に効果を発揮します。少しずつ人として生まれ変わるわけですね。

わたしは、「気にしない哲学」を実行するようになって、胃薬などは一切必要なくなりました。
悩みやネガティブ感情を放置せず、脳番地のいろいろなところを使って上手に対処していけば、仕事も私生活も、両方の質がアップしていきますよ。
あなたに合った、自分なりの対処方法を編みだしてください!

イラスト/イラストAC

【参考資料】
・他人の目を気にしない技術 (DAiWA Premium Select) /諸富祥彦/大和出版
悩まない脳の作り方/加藤俊徳/辰巳出版


  こんな問題を抱えているよこんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!

その他にも、マスターヨーダに是非聞いてみたい質問やアドバイス、応援メッセージも大募集しています! マスターはすべての書き込みに目を通してますよ!


マスターヨーダの喫茶室は土曜日更新です。


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。



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