【木村泰子の「学びは楽しい」#29】大人のみんなで何とかしようよ

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

子どもたちが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の29回目。今回は、前回(#28)の記事を読んでくださった読者の先生方の声から、現在の学校が抱える問題と私たちにできることを考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

【木村泰子の「学びは楽しい」#29】大人のみんなで何とかしようよ イメージイラスト
イラスト/石川えりこ

読者の声から学ぶ

前回のタイトル「学級の荒れは担任の行動が引き起こす」が刺激的だったこともあり、読者の方の声が届きました。今回はいただいた声の中からみなさんと一緒に学びたいと思います。

■先生の言葉その通りだと読ませていただきました。 もっと、教諭に教えてほしいです。 私は、養護教諭をしていますが、いまだに「保健室はしんどい子ども、怪我をしたときのみ」と子どもに指導する教諭がいます。今の時代に学習指導案のことは勉強するのに、子ども主語の発想は伝わらないのが現実です。 しかし、担任はいろんなことに、忙しいのも現状です。カウンセラーやSSWさんに頼ればいいのに、プライドから頼らない教諭はいます。

養護教諭の方の声ですね。保健室の役割は大きいです。特に養護教諭は学校の中でも多面的にすべての子どもの様子を知ることができる立場です。

教員が一人の力で子どもを育てることは不可能な時代に子どもたちは生きています。しかし、体調が悪くないのに保健室に行ってはいけないと指導する教員がいることも事実です。しんどくないのにこの子はさぼっているだけだと思ってしまうのでしょうが、子どもの心の中は私たち大人には見えません。子どもが一人でいることにしんどくなった時、用がなくてもふらっと入っていく保健室であってほしいと心から願うところです。

その時に、普段の教室などでは言えないつぶやきを子どもが養護教諭に吐露したらチャンスです。職員室でその子のつぶやきを伝えながら、その子が安心する手段を考え、チームで作戦を立てることができるわけですから。

教員が主語の学校から、子どもが主語の学校に転換しなければ、子どもの残念な事実の過去最多は止まりません。教員に不可欠な力は「人の力を活用する力」です。そのためには、自分一人で頑張りすぎないことです。職員室の空気を、気づいた大人から変えましょう。教員一人の力で子どもを育てる時代ではありません。「大人のみんなで何とかしようよ」です。

養護教諭はそのためにも教職員をつなぐコーディネーターになってください。

■子どもを主語にした授業を行っていると、周りの先生や管理職から指導が入り、旧態依然とした、号令はできるまでやり直し、姿勢を正して発表はきちんと手を天井に突き刺すように挙げて、話す人にはおヘソを向けてというような授業に戻されます。私の普段の指導方針とは違うやり方に矯正され、子どもたちも困惑しているように見えます。 周りの先生や管理職・学校体制と折り合いをつけられずに日々ストレスを抱えておられる先生は日本全国に多数おられると思います。 このような先生はどのようにしたらよいでしょうか。 私も休職一歩手前の状態です。

先生、やめないでください。先生のような方々が疲れ果てて学校現場を去って行かれる数も残念ながら過去最多なのです。この先生が伝えてくださっている一言一句は、痛いほど今の学校現場にはびこっているのが現実です。このことに比例して「不登校」30万人なのです。

現行の指導要領は、過去の「しつけ・規律」などを重視するのではなく、多様な個性をもった子ども同士が学び合える環境を教室につくるために「指導観」の転換を明確に打ち出しています。その目的が「自死・不登校」過去最多をストップし、「誰一人取り残さない学校教育」です。

従前の日本の学校現場に根強くはびこる「教員が主語」の学校の当たり前がなかなか転換されないのです。教員のために学校があるのではありません。未来をつくる子どものために学校があるのです。

教員が子どもに指示していることは10年後の社会で「生きて働く力」ですか?
そのことは様々な特性をもつすべての子どもができることですか?

そうでないものはすべて捨てませんか。子どもだけをみんなで見ませんか。一人で困らないで「みんなで何とかしよう」です。

これ以上、子どもに未来をあきらめさせてしまうような大人にはならないでおきたいものです。

■「学級の荒れは担任の行動が引き起こす」 、確かにそうかもしれませんが、このワード一つでまた教員を辞めたくなる人やなりたくない人が増えるのでは?と思いました。担任一人の時代ではなくチームの時代。説明されてある内容は全て納得できましたが、タイトルが一人歩きする場合もあります(タイトルだけ見て内容を読まない人もいるので)。そういった側面から心配になりました。 一方で同じ職場で、この指導は?と疑問に思う先生方の言動は確かに多々あります。それだけ教師の人間性が関係してくる仕事なのだと改めて考えさせられました。自分を振り返られる記事をありがとうございました。

このメッセージをくださった先生に心から感謝します。そうですよね。確かにこのタイトルしか見なかったら(やっぱり教員はブラックだ)と思われるかもしれないですね。私の言葉の足りないところを、読者のみなさん、どうぞフォローしてください。タイトルは「学級の荒れはだれが担任になっても引き起こす」に変えなければなりませんね。教員は精一杯指導しているつもりなのに、子どもは理不尽だと受け止めるのですから。だからこそ多様な大人の目で、一人の子どもを多方面から見るシステムをみんなでつくらなくてはいけない今なのです。

ちなみに、前回までの「気になる先生」ですが、「○○先生、変身したんやって!」と子どもがうれしそうに言っていました。

〇教員に不可欠な力は「人の力を活用する力」。自分一人で頑張りすぎず、大人のみんなで何とかしよう。
〇「誰一人取り残さない学校教育」の実現のために、従前の「教員が主語」の学校の当たり前を転換し、多様な個性をもった子ども同士が学び合える教室をつくっていこう。
〇学級の荒れは、「誰が担任になっても」引き起こすもの。だからこそ、多様な大人の目で、多方面から子どもを見るシステムをつくろう。

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※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

 

木村泰子先生

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

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